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2008年9月17日 (水)

■NHKスペシャル『戦場 心の傷 兵士はどう戦わされてきたか/ママはイラクへ行った』。敵から守るはずだった幸福に見放される矛盾。

Nスペ、2夜連続の『戦場 心の傷』をみた。

戦争という組織対組織の争いの中で「個人」がどう変わっていくのか、非常にやるせない気分にさせる番組であった。

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■NHKスペシャル『戦場 心の傷(1) 兵士はどう戦わされてきたか』<2008.09.15放送>

■人間の他者への共感、いたわりの気持ち、といったものは脆弱で、いともたやすく崩れてしまう。

ミルグラム実験(アイヒマン実験)やスタンフォード監獄実験といった社会心理学の有名な実験の結果がその事実を指し示している。

■参照■(Wikipedia)
■ミルグラム実験(アイヒマンテスト、アイヒマン実験)
■スタンフォード監獄実験

この番組では、そういった「特異な状況」に置かれた「個人」にどういう傷跡が残ったのかを生々しく切り取っていった。

■現在PTSD(心的外傷後ストレス障害)として知られるその症状は、第一次世界大戦頃から、戦場の恐怖で戦闘が出来なくなる兵隊が続出するという「非効率」として認識され始めた。

当初、各国は電撃療法などで対応していたが、第二次世界大戦時の「戦闘参加率(発砲率)」を調査したアメリカの学者により、「人を殺すことに対する内面の抵抗感」を如何に消し去るかという研究へと発展していった。

■射撃訓練の標的をヒト型に、というところから始まり、よりリアルな実戦さながらな状況を作り出し、敵が現れたら撃つ、という「心理的条件付け」を徹底的に刷り込む。

また過酷な13週間の新兵訓練のなかで「絶対服従」を覚えこませると同時に、敵兵は人間ではない、と繰り返し、民間人的な感覚をマヒさせていく。

そうして二次戦の時の戦闘参加率25%が、朝鮮戦争では50%に、ベトナム戦争においてはほぼ100%に至るようになった。

アメリカは新兵から「人間らしさ」や「個人の思考」を奪う効率的な方法を確立したのだ。

■だがミルグラム実験やスタンフォード監獄実験ではあまり語られない「個人の内面」の部分では、極めて過酷な状況が生まれていた。

暗闇から敵兵が現れ、殺されるのではないかという不安。

敵や民間人を殺してしまったという事実が、何度正当化しても、どこまでも追いかけてくる悪夢。

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■射殺されるベトコン_
1968年1月 テト攻勢時、ベトコンの将校を国家警察長官が拳銃で処刑してる写真、AP通信カメラマン、エディ・アダムズ撮影。

■日中戦争時に戦争神経症を発症した日本兵の

「殺シタラ、ニランデマシタデ」

という言葉が生々しく突き刺さってくる。

感覚が麻痺したその向こうで「個人」は罪悪感とその罰としての報復の恐怖に震えているのである。

■平和な日常生活に戻ったはずなのに、その罪悪感と恐怖はフラッシュバックなどの具体的な形で退役兵を追い込んでいく。

映画『ディア・ハンター』で狂気の世界へ堕ちていったニックの世界。

ベトナム帰還兵の実に2人に1人が、そういった精神的苦しみを抱えるようになったという。

その構図は、今も続くイラク派兵においても変わらない。

■いや、ベトナム反戦運動によって徴兵制が廃止され志願制になったことにより、問題の裾野はさらに広がってしまっている。

必要な兵士が確保できない軍は、借金に苦しむ人や困窮で進学が難しい若者をターゲットとする一方で、女性をも戦場へと送り込んでいくようになったのだ。

第二夜、『ママはイラクへ行った』では、そこに焦点をあてた。

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■NHKスペシャル『戦場 心の傷(2) ママはイラクへ行った』<2008.09.15放送>

■ベトナム戦争時には2%だった女性の割合が、湾岸戦争からイラク戦争に至る過程で急増し、いまや11%を占めるのだそうだ。

しかも、その3人に1人が子供をもつ母親なのだ。

■アメリカの正義を信じてイラクに送られた彼女たちが目の当たりにしたのは、庇護すべき子供が自分に向けて銃を撃ってくる現実であり、それに応戦し殺害してしまった自分自身なのである。

規定により戦闘に加わらないことになっている女性兵士も、どの場所でも「最前線」になりうるイラクにおいては戦闘行為から逃れられない。

■帰還した女性兵士が幼い我が子にやさしく接することが出来ない、そのやるせなさ。

決して彼女が悪い訳ではない。

戦争が彼女を変えてしまった。もっとストレートにいうならば、国家によって当たり前の幸せを奪われてしまったのだ。

■人間らしさに溢れた「戦争」などというものはあり得ない。

そして戦争によって人間性を破壊され、戦争によって守ろうとしたはずの「幸せ」から突き放されてしまう、その矛盾。

今回の番組ではその実像が報告されたわけだが、その「ストレス」を回避すべく、今、事態はさらに別の局面へと進行しつつある。

無人兵器である。

■人殺しの罪悪感を消し去る究極の手段である無人兵器は、すでに無人偵察機プレデターが実戦投入されており、遠隔操作で敵勢力を攻撃した例もあるようだ。

地上兵器の方も着実に進歩、昨年にはキャタピラ型の無人兵器がイラクに投入されたとの話も流れている。

米海軍は、無人機について「軍務の性格に合わない」と導入に消極的とも言われるが、10年後、20年後にどうなっているかは分からない。

そこに生まれるのは「遠隔操作モニターごしの殺人」であり、それは一体ひとの心にどういう影響を与えるのか。

とてもうすら寒い話だ。

Photo_6
■MQ-9「リーパー(Reaper)」対人無人攻撃機。2008年8月イラクに派遣されている米空軍174戦闘攻撃部隊の運用機がF-16から、この対人無人攻撃機・リーパーに改編された。史上初の無人戦闘攻撃部隊である。(操縦は米国内からの遠隔操作、通信が途絶えたときのための自律飛行能力もあり。)

                             <2008.09.16 記>

Photo_4■『ディア・ハンター』
■マイケル・チミノ監督作品(1978年公開)
主演:ロバート・デ・ニーロ、助演:クリストファー・ウォーケン

    

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■【書評】『 ルポ 貧困大国アメリカ 』。国家の病理は個人的つぶやきに現れる。

      
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■Nスペ『戦場 心の傷(1) 兵士はどう戦わされてきたか』

■Nスペ『戦場 心の傷(2) ママはイラクへ行った』
   

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