■「背伸び」放棄の格差社会。「おバカ」が流行る世の中は意外と大丈夫なんじゃない?
■15日付けの読売新聞、文化欄に面白い記事がのっていた。
平成を歩く(1989-2008)
「背伸び」放棄の格差社会
と題されたその記事は、今の日本を覆う「おバカ」現象を読み解く試みである。
■筆者は「バカ」に「お」をつける最近の風潮の不思議を追って、平成10年(1998年)の夏に公開された「オースティン・パワーズ」の宣伝文句にあった『おバカ映画』というフレーズにたどり着く。
そこにはただの「バカ映画」じゃない、センスのあふれた映画、という意味合いが込められていた。
■それから10年。
クイズ!ヘキサゴンⅡを筆頭にした「おバカタレント」がもてはやされる今の空気には、もはや「エッジの効いたセンス」の角は滑らかに削り取られてしまっている。
「おバカ」はタレントとファンとの間に横たわる「格差」を埋めるための手段へと変容いているのじゃあなかろうか。
そう感じた筆者は、山田昌弘教授の「希望格差社会」という本に思い至り、お言葉を頂きに行く。
■昭和の成長期にみられた見栄やプライド、上昇志向といったムードが、平成の格差社会になって無くなってしまった。
頑張っても上にいけないならば、「バカでもかわいけりゃいいじゃないか」というメッセージが欲しいんです。
というのが山田昌弘先生の見立てだ。
自殺者数、フリーター数、失業率、凶悪犯罪発生数などから読むと、格差社会への転換期は平成10年なのだそうで、
それが「おバカ」の起点である「オ-スティン・パワーズ」の公開年と符合する、と妙に納得してしまう、というオチである。
■そんなにあくせくしなくてもいいじゃない、という「ゆるい」空気は確かに今の日本国中に漂っているようにも思える。
その「ゆるさ」をたのしむ感覚の延長線上に「おバカ」という現象があるのだろう。
ここで少し注意が必要だ。
「ゆるい」、「おバカ」といったとき、そこには「ゆるい」、「おバカ」を’たのしむ’というニュアンスが込められているということだ。
「ゆるい」、「おバカ」な自分自身を分かっていてそれを楽しむ余裕。
そこには高度な知的ハタラキが存在する。
それは決して勉強が出来るとか、知識が豊富とかそういうことではなくて、世の中を明るく楽しく生きていく知恵なのである。
■そう考えてみると、
「おバカ」をたのしむ=「格差」を受け入れる
の構図には大きなずれが生じてくる。
自殺者数、フリーター数、失業率、凶悪犯罪発生数、
なんて言葉から浮かんでくるイメージとはおよそかけ離れたところに「『おバカ』をたのしむ」の本質があるのではないか、ということだ。
■経済的切り口だけで「上流」だの「下流」だのいう議論からすれば、それはもう「経済的困窮」はイヤだし、それなりの生活水準を体験した我々がそこから転落していくことをよしとするとはとても思えない。
そこからこぼれ落ちる人たちが増加している現実が確かにあって、それは今の日本を覆いつくしている「とある価値観」が生んだ構造的な問題なのだ。
それは相当に深刻な話であり、それでいいじゃないか、とは到底ならないだろう。
■そうではなくて、「そこそこ」の向上心をもって、「そこそこ」に生きている。
「おバカ」をたのしむ、というのは「足るを知る」という、無理にストレスを溜めない「賢さ」なのじゃないのだろうか。
「背伸び」放棄、というのには肯けるが、それを「格差社会」に結びつける考え方自体にまだ「ゆるさ」が足りない、ということなのだとおもう。
■「ゆるさ」をたのしむ軸で人生を捉えるならば、目の前にあること「そのもの」をたのしむ、それだけのことであり、そこには「上流」も「下流」もへったくれも無いのである。
さらにいえば、「ゆるさ」をたのしむ生き方は確かに「固定概念としての『上昇志向』」とは無縁ではあるものの、決して消極的、受動的なものではなく、面白いことに対しては妙に一生懸命で、その姿もまた「おバカ」な感じがして素敵なのである。
だとするならば、「おバカ」が流行る世の中は意外と大丈夫なんじゃないか、とも思えてくるのだが、どうだろうか・・・。
<2008.09.17 記>
■希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く
■山田 昌弘 著 (ちくま文庫 2007/03)
■この本自体は格差社会をスルドク分析している本のようで、コメントに賛否両論ありますが、結構売れた本のようです。
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■映画 『亀は意外と速く泳ぐ』。優しさにあふれたクスクス笑い。
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