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2008年8月27日 (水)

■【書評】『悩む力』 姜 尚中。悩み抜いた果てにたどり着くであろう他者とのつながり。

姜 尚中(カン サンジュン)さんは、政治学者でありながら’学者’らしくない人である。

その言葉は理屈だけによって構築された無味乾燥したものではなく、そこには熱い血潮が通っている。

それ故に姜 尚中さんの言葉はいつも胸に響くのだ。

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■悩む力 (集英社新書) 姜 尚中 著

「自由と独立と己れとに充ちた現代に生まれた我々は、其犠牲としてみんなこの淋しみを味あわなくてはならないでしょう。」 夏目漱石 『こころ』より

■西洋近代文明の恩恵にあずかって我々は100年前には想像もできなかった夢のように豊かな生活を謳歌している、ということに疑いの余地は無いだろう。

けれどその一方で個人こじんの心はひりつくような孤独にさらされている、というのもまた事実。

市場自由化、収益至上主義によって地域や業者同士のつながりは解体され、また個人の権利を重視するあまりに教師や医師といった「聖職」の権威は失墜した。

我々の心の安らぎは失われ、時代の殺伐とした空気は取り返しのつかないところまできているようにも思える。

■この現代における「個人」の危機にどう向き合うのか。

個人の「悩み」はあくまでも個人によるものであって、その人にしかその悩みは分からないし、解決もできない。

姜 尚中さんは本書において、自分自身の葛藤、悩みを通して我々に語りかけてくる。

だからこそ、一般論ではない、人間・姜 尚中の赤裸々な「自我」の彷徨が我々を捉え、生きる指針のヒントを与えてくれるのだ。

■「孤独な自我」と「他者」とのつながりに生まれる矛盾と葛藤について悩み続けた文豪・夏目漱石。

西洋近代文明の根本原理を「合理化」に置き、文明が進むことによって人間の社会が解体され個人がむき出しになり孤独に陥っていく、という世界観を提示した社会学者マックス・ウェーバー。

100年前、19世紀から20世紀に移り変わる時代に生きたこの二人の思想を「対」にして咀嚼することで、姜 尚中さんは自我の危機を乗り越えてきたのだそうだ。

曰く、「まじめ」たれ。

■己の自我と他者の自我とのつながりを求めつつも避けることの出来ない軋轢。他者から「認められない」と感じることによって生じる不安と絶望。

私が私として生きていくことの意味とは何か。

自我をめぐる悩みは決して解決することはないだろう。

けれど、まじめに苦悩に向かい合い、真剣に悩み抜く

その先に「解答」は無いのかもしれないが、それぞれの人がそれぞれに生きていく「方向」が見えてくるに違いない。

その、如何にも姜 尚中さんらしい真摯な姿勢が清々しい。

■他者とのつながりの先に幸福と安心があるのだと信じ続ける。

多少の右往左往は承知の上。

ゆっくりでも構わない。

長い目でみて、その道を進み続けることが出来ればそれでいい。

それが、今、私が感じていることである。

                           <2008.08.27 記>

■『悩む力』 姜 尚中 著(集英社新書 2008年月初版)
  

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■『こゝろ』 夏目漱石 著 (角川文庫)
■最近、読み直して高校時代には感じなかった感動を味わった。
前半での「私」と先生、先生の奥さんとの関わり合いのゆるやかさが、後半の先生の長い手紙に滲む「苦しさ」を際立たせる。
なんて偉そうに書く割りには、漱石はこれしか読んでいません(苦)。
   

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■『私の個人主義』 夏目漱石 著 (講談社学術文庫 )
■夏目漱石の講演記録。
これを読んで少し夏目漱石の声でも聞いてみようかと思う。
   

■『姜尚中の政治学入門 』 姜尚中 著 (集英社新書)
■「論理」(ロゴス)と「情念」(パトス)のふたつの観点を包み込むことで、世界において現代の日本が置かれている状況を読み解く。
「アメリカ」、「暴力」、「主権」、「憲法」、「戦後民主主義」、「歴史認識」、「東北アジア」の7つのキーワードによって、今という時代を構造として捉える道案内をしてくれる。姜 尚中の発言の背後にある思想にふれることが出来る一冊。
  

■『鬱の力』 五木 寛之 香山 リカ 共著 (幻冬舎新書)
■書店で『悩む力』のとなりに並んでいたのを衝動買い。
「現代の日本を覆う『欝の気分』は果たして悪いことなのだろうか」という切り口で進行していく作家・五木 寛之と精神科医・香山リカとの対談録。
今という時代の苦しみを肯定するというアプローチは姜 尚中さんの『悩む力』と同じだが読後感は180度違う。
いろいろな切り口で論が進み知的には面白いのだけれども、なんとも権威的でこころに触れないというのか響かない。まだまだコチラの精進が足りないのであろうか。
注意すべきは現在「うつ病」で苦しんでいる方は読まない方がいいということ。
ここで語られているのは「現実としての病気」とは違った「時代の気分」の話であって、そこを読み違えると具合が悪いことになると思います。ご注意を。
   

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コメント

姜尚中は朝生に出演し“日本は、中国韓国との戦争の問題を清算してこなかった。”と発言しました。くだらない嘘です。奴の様なうさん臭い詐欺師にはテレビの世界から居なくなって欲しいものです。

投稿: ライケル | 2008年8月28日 (木) 17時08分

ライケルさん、はじめまして。

「中国韓国に対する問題を清算してこなかった。」
というのは「論理」からすればライケルさんのおっしゃる通り既に十分謝罪してるだろう、ということになるかと思いますが、
「情念」の観点からすれば相手にそれが通じない限り「清算」したことにはならないということでしょう。

姜尚中さんの出自を考えれば後者の視点が勝るのは致しかたないのではないでしょうか。
当事者でない日本人やマスコミが不当に「日本の罪」を煽り立てる風潮にはムカつきますがネ。

投稿: 電気羊 | 2008年8月29日 (金) 02時12分

姜尚中さんの著書『悩む力』の書評を探していて、このブログにたどり着きました。ぜひ書評リンクをさせていただきたいのですが。

「人生最強の名言集」とういうサイトの中に「座右の書」として『悩む力』を紹介しているページになります。
http://jsm.livedoor.biz/

投稿: 武田幸一(人生最強の名言集) | 2009年7月20日 (月) 23時12分

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