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2008年8月23日 (土)

■【書評】『放送禁止歌』 森 達也。それもまた思考停止のひとつのカタチなのだ。

自分の頭でシッカリと考えること。

森達也さんが一貫して訴え続けていることである。

Photo_3 ■放送禁止歌  森 達也 著

■『放送禁止歌』は、テレビディレクターとして数多くのドキュメンタリー作品を演出してきた森達也さんの代表作のひとつである。

イムジン河、網走番外地、通りゃんせ、時には娼婦のように、ヨイトマケの唄、竹田の子守唄、・・・。

「放送禁止歌」とはその内容が反体制的であったり、あからさまな性表現があったり、差別的な内容や言葉が歌詞に含まれていたりするために「放送することが出来ない歌」のことである。

ところが放送されないはずの『イムジン河』がNHKのフォーク番組で流された。

森さんは、その経緯を調べていくうちに「放送禁止歌」という放送規定の驚くべき正体にたどりつく。

■創成期からテレビマンとして番組作りに携わってきた男がいう。

「テレビはマスメディアとして成長していく過程で、とにかく毒とみなされるものを少しずつ排除しながら角をどんどん丸くしてきた。・・・、しかし表現としては取り返しのつかない道を歩んでしまったのかもしれない。」

世の中がどんどんスピードアップしていく中で、悩ましい問題は単純化され、基準化され、その基準の意味も、いやその内容すら顧みられなくなっていく。

■もっと早く、もっと多く。

加速していく時間にもう追いつけないという感覚は既に80年代からあったけれども、21世紀に入ってさらにその加速度は増していっているように思える。

その非人間的速度の中で正常を保っていくためには自らの思考回路をマヒさせるより仕方が無い。

それは無自覚に進行していく生物学的防衛機構の作動ともいえるだろう。

■テレビ番組に限った話ではない。

機械設計の現場でも「基準化、マニュアル化」が進み、その「意味」を理解しようとしない、そんなことを考えもしない風潮がじわじわと広がっているようにみえる。

トラックの車軸強度不足やエレベーター事故。ここ数年の「事件」や「不祥事」は、そういった時代の流れと無関係では無いだろう。

■「放送禁止歌という存在が象徴するように、僕らは視界を自ら狭めて思考を停止させてしまう傾向がきっとある。

見ることなく、聞くことなく、したり顔で語ってしまうことがきっとある。

難しいことじゃない。

見ればよい。聞けばよい。話せばよい。知ればよい。

それだけで視座は確実に変わる。それだけは間違いない。」(P214より抜粋)

■この本の前に森さんの『いのちの食べ方』(理論社、2004)を読んだのだけれど、「差別について知ること」ばかり強調したその姿勢に強い疑問符を抱いていた。

知らなくてもよいことを無垢な子供たちにわざわざ教えなくてもいいじゃないか、そう思っていた。

けれど、それもまた思考停止のひとつのカタチなのだと気がついた。

「知らなくてもよい」と思ったその時点で、「見ることなく、聞くことなく、したり顔で語ってしまう」自分がそこにいるのだ。

【思考停止】は、常に無自覚にやってくる。

ご用心、ご用心。

                          <2008.08.23 記>

■放送禁止歌 (知恵の森文庫 2003年6月初版) 森 達也 著 
解放出版社刊『放送禁止歌』(2000年7月初版)より加筆修正。
  

Photo_2
■世界が完全に思考停止する前に
(角川文庫 2006年6月初版、単行本:2004年10月初版)
■森達也さんの評論集。
森さんは9.11アメリカ同時多発テロ事件以降の世界を、オウム真理教の地下鉄サリン事件以降に日本を覆った不安と焦燥に重ねている。
ともすると「『私』個人としての思考」を忘れ、世の中を覆う空気に無自覚に流される我々。そして無批判にそれを受け入れ、それを批判するものを排斥する単純さ。
世界は確実に壊れつつある、という言葉が重たい一冊である。

   
■関連記事■
■【書評】『いのちの食べかた』 森 達也。「知ろう」とするときに求められる姿勢について。
        

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コメント

以前、深夜にドキュメンタリー番組として放送されましたよね。
その時は見そびれてしまったのですが、その後図書館でこの本と出会い「えっ、この歌がそうだったの!」と、リストアップされた楽曲に驚いたことを覚えています。ちょっと興味本位で、あまり深く考えずに読んでいたことを反省しつつ、再度じっくり読んでみたいと思います。

投稿: 臨床検査技師 | 2008年8月25日 (月) 09時35分

臨床検査技師さん、こんばんは。

いや、わたしも興味本位で読みました(笑)。
好奇心って大事ですよね。

投稿: 電気羊 | 2008年8月25日 (月) 18時45分

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