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2008年7月31日 (木)

■【映画評】『エクソシスト』。実は「階段転落殺人事件」というサスペンス映画だったりするのだ。

久しぶりに見直してみると、まったく違った部分に目がいくということがあるものだ。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.13  『 エクソシスト 』
         原題 <The Exorcist>  日本公開:1974年7月(米公開:73年12月)
       監督: ウィリアム・フリードキン 出演: リンダ・ブレア ジェイソン・ミラー他

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    ■【DVD】 エクソシスト ディレクターズカット版

■初めてのテレビでのオンエアは小学校高学年のころだったと思う。

頭を180度回転させるリンダ・ブレアにびっくり仰天して腰を抜かしたのをハッキリと覚えている。

けれどもこの歳になって久しぶりに見返してみると、そういったホラーの部分よりもカラス神父をはじめとした登場人物の苦悩の方に気持ちが入り込む。

製作から30年を過ぎてなおこの映画が風化しないのは、そういった登場人物の彫りの深さによるものなのだろう。

■ストーリー■

20世紀後半のワシントン。一人娘のリーガンの様子がおかしいことに気付いた映画女優のクリスは最先端の医療機関で娘の検査をしてもらうのだが何の異常も見つからない。

そうするうちにリーガンの異常さはさらに悪化。リーガンとはまったく別の悪魔のような人格になり、自らの体を傷つけ、ポルターガイスト現象まで引き起こす。

現代医学では打つ手が無いことを理解したクリスは、イエズス教会のカラス神父に悪魔祓いを頼むことを決意する。

■【DVD】 エクソシスト ディレクターズカット版

■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■今回見たのは2000年に公開されたディレクターズカット版。

ブリッジの姿勢で階段を下りてくる有名な「スパイダー・ウォーク」など公開時にカットされていたショックシーンを追加し、さらに暗いイメージを残すエンディングを修正したバージョンである。

■とはいえ、鳴り物入りの「スパイダー・ウォーク」は唐突過ぎていまいちピンとこない。

ミドリのゲロにしても、くるくるまわるリーガンの頭にしても、「怖い」といっても「びっくり!」の類のそれであって、「得体の知れない恐怖」というホラー本来の領域へは踏み込んではいない。

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恐怖としてはむしろ、映画の初めの方で母親のクリスが物音の正体を探りに屋根裏部屋に上がっていくシーンの方が数段上であるし、中盤の検査のシーンでリーガンが脳に造影剤を注入されるシーンの方がよっぽど見ていて恐ろしい。

■じゃ、ダメじゃん。

というのはある意味正しいのだけれども、それは「ホラー」としての話であって、「映画」としての評価はまた別なのである。

■物語としては、いくつかの切り口があると思う。

「悪魔」から娘を助け出そうとする母親の物語。

「善」と「悪」との対決の物語。

自らの罪に絶望するカラス神父の救済の物語。

事件を客観的に眺めるキンダーマン警部の物語。

■そのうち、「善」と「悪」との対決だとか、カラス神父の救済なんていうあたりは、ちょっと解釈に苦しむところだ。

「善」とか「悪」とか「罪」とか「救済」だとかといったとき、そのコトバから心に浮かんでくるものはキリスト教文化圏の人たちと我々日本人とでは異なるに違いないからである。

むしろ我々が「神々」と呼ぶものは、キリスト教の神にとっては悪魔にあたるわけで、そこには絶望的な溝がある。

従って、この映画における「善」と「悪」との戦いが観る者の「世界観」に及ぼす影響だとか、最終的にカラス神父は救われたのか?というような問いは推定することは可能だとしても身を持って実感することは極めて難しい。

(続編の『エクソシスト2』程ではないにせよ、)あまりにも白黒がはっきりしていて、覚めた目で見ると滑稽にすら見えてしまうその「善悪の戦い」については、少し距離をおいて「知識」としてそのまま蓄えるほかに手はないのかもしれない。

■その一方で、この映画は密かに「キリスト教的世界観」以外の道も残している。

何故、リーガンが悪魔に狙われたのか?

何故、映画監督のバークが殺されたのか?

直接的に描かれているわけではないけれど、さりげなくそのヒントが語られている。

別居している父親の存在、そしてリーガンにとって大切な父親の座に取って代わるかもしれないバークの存在。

一見、仲のいい幸せそうな母娘のように見えても、そこには「悪魔」の侵入を許す見えない隙間が存在する。

その本人すら意識していない「心の闇」というものがあって、どの家庭にも「悪魔」が入り込む隙間が隠されているのだ。

■そういう切り口で捉えた場合、それは何もキリスト教世界に限った話ではなく、「狐憑き」だとかそういったものをひっくるめて宗教を離れた心理現象として「悪魔憑き」を捉える余地を残している。

映画としてはキリスト教に則った「善」と「悪」のせめぎ合いとして描かれているが、それ以外の「見方」を完全に捨て去らない、その「余裕」とか「余地」といったものが、この映画に厚みをもたらしているのだとおもう。

■さらに、この事件を外部から眺めるキンダーマン警部の存在が、この映画をただのホラー映画に留めない効果を生み出している。

つい「神と悪魔の戦い」と先走ってしまうのだけれど、実はこのエクソシストという映画は「階段転落殺人事件」というサスペンス映画でもあるのだ。

そう捉えると、そういえばフリードキン監督は「フレンチコネクション」の名匠なわけで、あれよと言う間に刑事モノの匂いが漂ってくる。

■母親のクリスのもとを訪れ真綿で絞めるような質問を繰り出し、嫌でも自分の娘が事件に大きく関わっているのではと思わせる。

追い込まれている気持ちをつくり笑顔で隠そうとするクリスと、分かっていてそれを顔に出さないキンダーマン警部のポーカーフェイス。

ただの会話のやり取りなのだけれども、異様に緊迫感があってドキドキするシーンである。

■たぶん、という想像の域をでないのだけれども、フリードキン監督は、そのサスペンス映画的側面を強調したかったのではないだろうか。

ディレクターズカットでは、カラス神父の親友であったダイアー神父にキンダーマン警部が語りかけ、かつてカラス神父を誘ったのと同じように映画に誘うところで終わるのだけれども、

このあたり、キンダーマン警部を主人公にしたハードボイルド的雰囲気を醸し出していて据わりがいい。

ディレクターズカットの方が映画として味わいがある稀有な例である。

                              <2008.07.31 記>

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■【単行本】 『エクソシストとの対話』
実在する聖職「公式エクソシスト」とは何か?
21世紀国際ノンフィクション大賞優秀作。

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■【DVD】 『エクソシスト』 ディレクターズカット版
    

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■【サウンドトラック】『エクソシスト』
■うーん、名曲だよなー。

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■【DVD】『エクソシスト2』
■賛否は激しく分かれるけれど私は好きだ。
J・ブアマン監督の作り出すイメージは素晴らしい。
ブアマン原案・脚本・監督の
『未来惑星ザルドス』も名作です。オススメ。
  

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エクソシスト3エクソシスト ビギニングエクソシスト トゥルー・ストーリー

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■’事件’の起きた「エクソシスト・ステップス」(Wikipediaより)

■STAFF■
監督:        ウィリアム・フリードキン
原作・脚本・製作: ウィリアム・ピーター・ブラッディ
製作総指揮:    ノエル・マーシャル
撮影:        オーウェン・ロイズマン、ビリー・ウィリアムズ
特殊メイク:     ディック・スミス
特殊効果:     マルセル・ヴェルコテレ
音楽:       マイク・オールドフィールド、ジャック・ニッチェ
テーマ曲:     "Tubular Bells"(マイク・オールドフィールド)
   

■CAST■
リーガン:         リンダ・ブレア
クリス(リーガンの母): エレン・バースティン
カラス神父:        ジェイソン・ミラー
メリン神父:        マックス・フォン・シドー
キンダーマン警部:    リー・J・コッブ
ダイアー神父:      ウィリアム・オマリー神父
シャロン:         キティ・ウィン
バーク(映画監督):   ジャック・マッゴーラン
カラス神父の母:     バシリキ・マリアロス

  

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コメント

おぞましい表情や、ベッドでのバウンドシーンなども
テレビ初オンエア当時の衝撃映像の数々は、高校生の私でも
充分びっくり仰天!でしたよ。
「スパイダー・ウォーク」は子供たちが良くまねしてました。
もちろん平らなフローリングの床の上で、でしたが。。。

投稿: 臨床検査技師 | 2008年8月 5日 (火) 09時25分

臨床検査技師さん、こんばんは。

スパイダー・ウォーク。
よく考えれば、ただのブリッジなんだけど、
階段を降りて来ちゃ危ないですよね(笑)。
   

投稿: 電気羊 | 2008年8月 6日 (水) 21時43分

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