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2008年7月27日 (日)

■エミリー・ウングワレー展。理屈を超えてカラダに直接伝わってくる「面白さ」。

六本木の国立新美術館にエミリー・ウングワレー展を見に行った。

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■エミリー・ウングワレー
Emily Kame Kngwarreye
(1910頃 ~ 1996)

オーストラリアの中央砂漠地帯でアボリジニの伝統を守り、儀礼のためのボディペインティングや砂絵を描いていたが、77年頃からろうけつ染めを覚え、88年からはカンヴァス画を描き始める。96年に亡くなるまでの8年間に3千点とも4千点ともいわれる膨大な数の作品を残した。

■音声ガイドというのは便利なもので、その作品を製作したときの作家の生活だったり、世の中からの受け止められ方だとかいったことを教えてくれて、その絵の向こうに作家自身の姿が見えてきたりして鑑賞に深みが加わるのだ。

アボリジニの伝統や先住民としての人権回復だとかいった社会的背景、その中でエミリーばあちゃんの作品がどのように深化していったのか。

そういったことが学べて、少し世界観が広がったような気がする。

Photo_3 ■エミューの女<1988-89年>

■だが、中期の点描画の作品群のあたりから、知識だとか、理屈だとか、そういったことを素っ飛ばして、カラダの奥の方にぐっと何かが伝わってくる、そういう感覚を覚え始めた。

ちょうど、「アルハルクラの故郷」のあたりからだろうか。

大地に仰向けに寝転がって満点の星空を眺めている。

カラダの中からやすらぎが湧き出してくる。

静かな、透明な、夜の空気。

Photo_4
■アルハルクラの故郷(部分)150cm×60cm 5点<1990年>

■そこから先にある色とりどりの点描画たちを眺めていて、不思議な感覚に捉われた。

春を咲き誇る桜だったり、初夏の若々しい新緑だったり、秋の紅葉だったり、一面の黄色い落葉だったり。

そういうイメージが自然と湧き上がってくる。

けれど、そんなわけはないのだ。

彼女がこれらの絵を描いたのは、荒涼とした赤い岩の砂漠地帯なのだから。

Photo_5
■カーメ ―夏のアウエリェⅠ 302cm×136.8cm <1991年>
≪ヤムイモの種、夏・女の儀礼≫(勝手に命名)

■だが彼女は、その荒涼としたなかにも自然の息吹を感じ、そのよろこびをカンヴァスへ丹念に落としていったのかもしれない。

四季の美しい国に住む我々の眼に映るその「点」の濃密な集合は、彼女の歓喜や寂しさといった感情そのものであり、我々の胸に再生されるその感情と対になる対象として春夏秋冬の美しさを想起させたのだろう。

■そういった点描画が生み出すのが「美しさに対する感動」だとするならば、カンヴァスに平行した何本もの線が描かれた作品群は、躍動とかリズムとか、そういった「楽しさ」をワタシのこころに湧き上がらせる。

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■ビッグ・ヤム・ドリーミング 291.1cm×801.8cm <1995年>
≪ヤムイモの宇宙≫(勝手に命名)

■そして圧巻が「ビッグ・ヤム・ドリーミング」。

高さ3メートル、横8メートルの大作である。

黒いカンヴァスを何枚もつなげて大地に広げ、エミリーばあちゃんは地べたに向かい合って白い線を引いていく。

その線は力強く、リズムをとりながらうねっていく。

その一本一本の「動き」が面白くて、楽しくて仕方が無い。

ちょっと恥ずかしいとは思ったが、作品の傍に立って、その線の動きを指で追っていくと自分のカラダの中にもリズムが生まれ、幸せな面白さに包まれた。

■芸術作品というのは、煎じ詰めれば、こういった作品が作り上げられる過程における作者の「面白い!」という気持ちそのものなのかもしれない。

そして同時に、鑑賞する者の人生体験を背景に作品を通して再生される「面白い!」そのものでもある。

期せずして、このあいだの爆問学問、芸術の話とつながった。

こういう偶然もまた「面白い」のひとつの側面なんだろうな。

                              <2008.07.27 記>

アボリジニが生んだ天才画家
■エミリー・ウングワレー展■
赤い大地の奇跡―5万年の夢(ドリーミング)に導かれ、彼女は絵筆をとった。
■作品展示構成■

 

■過去記事■ 文化・芸術など
   

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