■【映画】『レディ・イン・ザ・ウォーター』、M・ナイト・シャマラン。ひとの人生における役割は、他者との関係性の中で触発され、自らの中から生まれてくるものなのだ。
もしかするとナイト・シャマランの映画の中で一番気に入ってしまったかもしれない。
●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
No.17 『レディ・イン・ザ・ウォーター』
原題: Lady in the Water 上映時間:110分
監督: M・ナイト・シャマラン 公開:2006年7月(米)9月(日本)
出演: ポール・ジアマッティー ブライス・ダラス・ハワード 他
■スプリンクラーによる靄(もや)、水、そして家。A・タルコフスキーの映画のような幻想的美しさ!
■言わずと知れた大ヒット映画、『シックス・センス』でメジャーデビューしたM・ナイト・シャマランの作品。
『アンブレイカブル』、『サイン』、『ヴィレッジ』と、日常が崩れていく姿を表から裏からとさまざまな角度で切り取り、斬新な作品を生み出してきたナイト・シャマラン監督なのだけれど、この『レディ・イン・ザ・ウォーター』は今までの映画とは一風違った作品となっている。
主人公の異常な体験という意味では変わりは無いのだが、今までのような「秘密が明かされる」という流れではなくて、「物語」を作っていく、そういう話なのだ。
この作品は現代の童話であって決してミステリーではない。
そこに気付かず、「秘密」にばかり興味を向けてしまうと上手く入り込んでいけないかもしれない。
実際、一般の評価も芳しくなく興行成績もイマイチだったという。
なんとも勿体無い話だ。
■ストーリー■
舞台は、多種多様な人々が集まるフィラデルフィアのアパート。日々仕事をこなすだけの人生を送るアパートの管理人クリーブランド(ポール・ジアマッティ)は、ある日突然プールに現れたひとりの少女(ブライス・ダラス・ハワード)と出会う。
彼女は海から来た精霊・ナーフ。ある目的を果たし故郷へと還ろうとする少女だったが、彼女を付け狙う獰猛な怪物がその邪魔をする。
彼女を故郷へと無事に還すためのキーパーソン達はこのアパートにいる。解読者(シンボリスト)・守護者(ガーディアン)・職人(ギルド)・治癒者(ヒーラー)。管理人クリーブランドは彼らを見つけ出し、少女を怪物の魔の手から守りきることが出来るのか。
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■
■非常にメッセージ性の強い作品である。
海(=地球生命の総体)から離れていってしまった人間に「何か」を気付かせようとする。
それが「レディ」=精霊・ナーフの役割である。
ここではM・ナイト・シャマラン本人が演じるインド系アメリカ人の青年ビックが「気付く」役割を担う。
何か大切なことを書かねばならないと感じていた小説家の卵であるビックは、彼女と出会うことにより自分の中で何かが弾け、「料理本」と題した文明・政治批評を一気に書き上げる。その本が次の世代へと受け継がれていく中で世の中にゆっくりと大きな変化をもたらせていくことになるのだ。
「料理本」の具体的な内容は明かされることは無いが、この映画を見終わったあとに残るあたたかい「感覚」。それこそがナイト・シャマランがこの「童話」を通して伝えたかったことなのだと思う。
■自らの人生を封印してしまったクリーブランドのもとに天使が舞い降りてくる。この映画はストーリーが彼のこころに触れることによって彼を解放する「癒し」の物語でもある。そして癒しを受けることで初めて、クリーブランド自身が「治癒者」として目覚めるのだ。
■この物語の中心にいる精霊・ナーフの名前が「ストーリー」であることがこの映画を味わう上でのキーポイントである。
ストーリー=物語=人生は、既に語りつくされた「型」によって定められたレールの上を進んでいくものではない。
管理人クリーブランドは、解読者、守護者、職人たち、治癒者という精霊・ストーリーを無事に故郷へ還すために必要なメンバーを探し始めるのだけれど、そのヒントを得るためにこのアパートにショートステイしている著名な評論家の助けを借りる。
■彼に言わせれば、「物語」は既に語りつくされていて、すべての作品はこれまでに語られてきた物語の枠組みに還元することが出来る。
そして解読者、守護者、職人たち、治癒者という「名前」から、「既に語りつくされた枠組み」に沿って、そのキャラクターの特徴をすらすらとクリーブランドに語ってみせる。
集められたメンバーも、そのレディメイドなキャラクター設定を信じ、精霊・ストーリーを故郷に還す「儀式」を演じる。
が、結局それは失敗に終わり、精霊・ストーリーは怪物の毒牙にかかって衰弱し、死んでしまう。
■「ストーリー=物語=人生」を分かりきったものとしたその時に「物語」は活力を失い死に至るのだ、という強いメッセージ。
それはナイト・シャマランの「作家」としての「物語」に対する態度であり、「人間」としての「人生」に対する態度である。
と、同時に自らの中にある「型にはめようとする」批評家的な自分自身を戒めるものであり、それは、他人事ではなく自らの人生を脅かす「怪物」と直面し対峙したときですら「型の枠組み」から逃れることの出来ない無力な評論家・ハリーの姿として語られる。
■生きとし生けるものには全てに役割がある。
人間はみんな独りではなく、一人ひとりがつながっている。
精霊・ストーリーが何度も繰り返すことばである。
それぞれのひとの「人生における役割」は、他人との関係性の中で触発され、自らの中から生まれてくるものなのだ。
■アパートの住人たちは、それぞれが自らの「役割」を自覚し、死の淵から「ストーリー」を救い出すことに成功する。そして、彼らの内側から生まれ出てきたやり方で再度、彼女を還す儀式を試みるクライマックス・シーンに至る。
ストーリーめがけて襲い掛かってくる「怪物」。
自らが「守護者」ではないと分かりつつ、それでも「怪物」からストーリーを守ろうとするクリーブランド。
その時「偶然」、右半身だけを鍛える変なマッチョのレジー君が彼らの後ろに立っていて、「怪物」はレジーを警戒して前に進めない。
レジーが「守護者」だったのだ。
■これを「ご都合主義」と切り捨てる我々は、その物の見方こそが人生に解釈を持ち込む「評論家」的態度なのだと気付く必要がある。
人生はいつだって「偶然」の積み重ねによって成り立っていて、そこには「理由」なんてものはない。
そして、その「偶然」という神の微笑みは、自らがやるべきことをやりきったその上に降りてくる。
偶然とは、自分の内側から発する輝きに呼応して、今まで何ものでもなかったものが突如として反応し、驚きをもって現れてくるものなのである。
だから人生は面白いのだ。
■前作、「ヴィレッジ」で盲目の少女を演じたブライス・ダラス・ハワードの精霊・ストーリーがいい。
羽根が生えていたり、半透明だったりすることなく、普通の少女っぽい風体なのだけれど、それでも一目見て、「あ、精霊だ。」と観る者を納得させてしまう彼女の「存在感」が素晴らしいのだ。
特にクリーブランドが初めてストーリーと対面するシーン。
床に滴った水に続いて彼をを見つめる表情のアップ。
「抑えた」、「寡黙な」、それでいて「強い衝撃」を与える、脳みそを飛び越し、理屈を超えて理解を迫る。そういう強さを持った名シーンである。(画像が見つからない・・・、残念。)
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■ シックス・センス (’99)
■どんなに面白い映画かって当時の彼女に薦めたら、途中で分かっちゃったじゃないのと怒られた。この映画についてあまり語ってはイケナイ。
■ アンブレイカブル (’00)
■ミステリーと思いきや・・・、という途中の大転調が最高に素敵なのだ。
■ サイン (’02)
■恐ろしいものは、はっきりと見えない暗闇の中から襲ってくるものであるが、それが白昼堂々と日常の中に侵入してきた時の非現実感、これがたまらない。
■ ヴィレッジ (’04)
■レディ・イン・ザ・ウォーターの精霊・ナーフ役、ブライス・ダラス・ハワード初のメインキャスト。盲目の少女が’怪物’の影に怯えながら森を抜けていくシーンが秀逸。
主役の女優が同じというだけでなく、映画としてのテーマの種もこの『ヴィレッジ』で既に芽生え始めている。この映画のラストは、人間が生きていく上で避けることの出来ない悲劇、と捉えるべきなのだろう。その意味でも『レディ・イン・ザ・ウォーター』と対になる作品なのだと思う。
■【新作】『ハプニング』 公式サイト■
■雰囲気的には『サイン』なんだけど、やっぱそんなに単純じゃないわな・・・。
■過去記事■
■【映画評】名画座・キネマ電気羊 <目次>へ
■STAFF■
監督: M・ナイト・シャマラン
製作: M・ナイト・シャマラン
サム・マーサー
脚本: M・ナイト・シャマラン
音楽: ジェームズ・ニュートン・ハワード
撮影: クリストファー・ドイル
美術: マーティン・チャイルズ
衣装: ベッツィー・ハイマン
編集: バーバラ・タリヴァー
配給: ワーナーブラザーズ
■CAST■
ポール・ジアマッティ :【管理人】クリーヴランド・ヒープ
ブライス・ダラス・ハワード :【精霊】ストーリー
* * * * * * *
ジェフリー・ライト :【パズル好き】デュリー
ボブ・バラバン :【評論家】ハリー
フレディ・ロドリゲス :【半身マッチョ】レジー
M・ナイト・シャマラン :【作家の卵】ビック
ジャレッド・ハリス :【あご髭のスモーカー】
ビル・アーウィン :【引きこもりの中年】リーズ
メアリー・ベス・ハート :【動物好き】ベル婦人
シンディ・チャン :【女子大生】スーン・チョイ
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