■【映画】 『 ヨコハマメリー 』。私は私の道を行く。
ドキュメンタリー映画を久しぶりに手に取った。
DVDのジャケットにふっ、と惹かれたのだ。
●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
No.15 『 ヨコハマメリー 』
監督:中村高寛 公開:2006年
出演: 永登元次郎 五大路子 他
■結論から言えば借りて正解。
ドキュメンタリーって作り方次第でこうも「劇的」になるものかと目からウロコが3枚くらいはがれ落ちた。
見終わった後の余韻に浸っているうちに元次郎さんに会いたくなって最後の歌のシーンを繰り返し繰り返し味わった。
知らぬうちに人恋しさが静かに高まっていく、そういう映画だ。
■ストーリー■
厚い白塗りに白いドレス。
横浜、伊勢崎町の街角に立ち続ける異様な風体の老婆がいるという。「ハマのメリーさん」。だが、1995年、その「メリーさん」は突如として横浜の街から姿を消す。
中村高寛監督は彼女の真実を追いかけ一本のドキュメンタリーとしてまとめた。それがこの映画である。
彼女にゆかりのある、古くから横浜で生きてきた人たちの声を拾い集め、「メリーさん」の姿を、その周辺からじんわりとゆっくりと描き出す。
末期がんに侵された老シャンソン歌手、永登元次郎の生き様がそこに重ねられ、衝撃的なラストへと物語は展開していく。
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■
■静かな映画だ。
ナレーションがない。BGMもない。
あるのは、街の音。
彼女が生きた横浜の「時代」を知るひとがメリーさんについて語る声。
説明は簡潔なテロップが時折差し込まれるだけ。
けれど、そこには「退屈」とはおよそ対極的な、強烈な引力と濃密さがうまれている。
■集中力、なのだと思う。
不必要なものをすべて削り去って、今、目の前にしている「こと」に集中する。
カメラは、まるでスチル写真のように動きを止め、ザクリザクリと作家の視線を力強く切り取っていく。
その丹念な積み重ねと編集の妙により、見るものの五感は、いつしか「生」の体験へと入り込んでいくのだ。
ああ、これがドキュメンタリー映画というものなのだろうか。
娯楽映画では決して味わえない新鮮な感覚である。
■「ハマのメリーさん」が横須賀の街に現れたのは、1954年。当時、33歳。
ふわっと上品でレトロなドレスを身にまとい、その近寄りがたい高貴さから「皇后陛下」と呼ばれた彼女は米軍将校専門の娼婦であった。
その後、横浜に流れ着き、伊勢崎町の「根岸屋」という米兵と愚連隊と娼婦でにぎわう「濃密な」酒場の前に立つようになる。
1961年、当時40歳。
■彼女が横浜から姿を消したのが1995年だから、74歳になるまで、34年間も街角に立ち続けたことになる。
上品で高貴であること。
彼女はそれを守り通した。
■その年輪を隠すための厚いドウランの仮面をつけ、曲がった背をしゃんとして、いつもまっすぐ立っている。
衣装のクリーニングや美容院通いも怠らず、住む家は無くとも、身奇麗でいることを旨とする。
宝飾店のウインドウに並ぶアクセサリーや香水をいとおしむように眺め、評判になる舞台には必ず彼女の姿が現れる。
■美しく、上品であり続ける精神と、老齢であることのギャップはその見た目以上に「気色悪い、ぞっとする」強烈な存在感を発し、容易にひとを寄せ付けない。
けれど、彼女の奥に「強さ」をみる感受性を持つものは、「何故?」という問いとともに、彼女に対して尊敬の念を抱くようになる。
■横浜で生きてきたシャンソン歌手、永登元次郎さんもそのひとり。
自ら男娼として街角に立ったこともある。
裏街道を必死に生きてきた元次郎さんにとって、メリーさんがどうしても他人には思えない。
彼女の気高い強さに励まされ、自らの体を冒す末期がんと向き合い、それでもなお歌い続ける。
そしていつしか、彼女の厚いドウランの裏に隠された弱い部分に、かつて深く傷つけてしまった母への、もう取り返しのつかない後悔の念を重ねていく。
■この元次郎さんの生き様が二重奏のようにメリーさんの人生と響きあい、深い感動へと引き込まれていく。
ここでは「コトバ」は、あまりにも無力だ。
ラストシーンでの元次郎さんのマイ・ウエイが、ただただ心に沁みる。
私は私の道をいく。
それを聞く、メリーさんの横顔が美しい。
<2008.05.24 記>
■スタッフ■
監督: 中村高寛
企画制作: 人人フィルム、白尾一博、片岡希
撮影: 中澤健介、山本直史
音楽: Since、コモエスタ八重樫、福原まり
テーマ曲:渚ようこ 『伊勢佐木町ブルース』
写真: 森日出夫
■出演■
永登元次郎(シャンソン歌手)
五大路子
杉山義法
清水節子
広岡敬一
団鬼六
山崎洋子
大野慶人、他
■過去記事■
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コメント
以前TV番組で、この映画の紹介を見たとき
まっさきに思い浮かんだのが、フジTVドラマ2004年版「人間の証明」で、いしだあゆみさんが演じた老娼婦の「よしの」さんでした。
そんな事を思い出しながら、記事を拝見していたので、
「人間の証明」発見で、ちょっと、びっくりしてます^^
投稿: 臨床検査技師 | 2008年6月 4日 (水) 23時05分
臨床検査技師さん、おはようございます。
「人間の証明」、奇遇ですね。
映画の中でも紹介されていたのですが、
あの時代、外人墓地には混血児の
赤ちゃんの亡骸がよく置かれていたそうです。
無残ですよね・・・。
投稿: 電気羊 | 2008年6月 5日 (木) 06時43分