■【書評】『 ルポ 貧困大国アメリカ 』。国家の病理は個人的つぶやきに現れる。
日本でも「格差社会」というコトバはすっかり定着したけれども、この’作品’は、さらにその先の姿を映す鏡として現在のアメリカという国の実態を生活者のレベルで見事に切り取っている。
■『 ルポ 貧困大国アメリカ 』 堤 未果 著
★★★★☆(47)
■我々が「アメリカ人の生活」といってイメージするのは、経済リポートの背景に写るマンハッタンの高層ビル群や、ハリウッド映画に出てくるロサンゼルスとか郊外の大規模なショッピングモール、そしてTVドラマで描かれるアッパー・ミドルの「素敵なおうち」、なわけである。
だが、ここのところの「サブプライムローン」問題で、そこに映し出されている「薔薇色」の裏に、実は出口の見えない暗い闇が広がっているという実態がようやくあらわになってきた。
しかし実は、膨れ上がった債務に苦しむ一般市民を食いものにする「確信犯的時限爆弾」としての「サブプライムローン」が埋め込まれた2005年から2006年、著者が足で稼いだこの本を信じる限り、絶望的な状況は既にそこに見え始めていたのだ。
■無料給食制度のジャンクフードや揚げ物でぶくぶくと太る貧困地域の子供の皮肉。
2005年のハリケーン・カトリーナの被害を自然災害から人災へと拡大させた緊急支援組織の「民営化」と「自由競争」の論理。
高額な医療費によって破産する中間層。その立場の強さから支払いを渋る民間医療保険会社と入院費を支払えずに日帰り出産をする妊婦たち。
■学費を支払うために膨らみすぎたカードローンの肩代わりに徴兵される学生たち。
多重債務者たちを派遣社員として雇い、イラクの最前線に戦争を支える「民間作業員」として丸腰で送り込む軍の下請け派遣会社。
■すべては「市場原理主義」の産物である。
とする著者の「事実」の切り取り方にたとえ偏向があったとしても、「自由競争」の敗者として抜け出すことの出来ない貧困の苦しみに喘ぐひとりひとりの声を丹念に集めたジャーナリストとしての熱意と誠実さは強く伝わってくるし、それゆえに説得力も生まれてくる。
国家の病理は、その「しわ寄せ」がいった「負け組」たちの個人的つぶやきにこそ鮮烈に現れるのだ。
■そして当然の流れとして、読むものの関心は現在進行形の日本の格差問題へと注がれる。
ネカフェ難民、マック難民。
その語感にはカナ漢字まじりの少しとぼけた当たりの柔らかさがあるのだけれども、より自分に近いところにあるという意味で、実は深刻な事態を指し示しているのかもしれない。
確かに昔から駅の周りには浮浪者がいたし、サラ金地獄なんてのも今に始まったことではない。
けれど、今回は「何となく」違う気がするのだ。
■そこで、自殺者推移を調べてみると(以下のグラフ)1998年に自殺者が急激に増加しており、そこから3万人以上を維持し続けていることが分かった。
この頃に日本の社会の中で「何か」が変わったに違いない。
■日本の自殺者数 年次推移(1976~2005)【クリックすると拡大します】
【出典】特定非営利活動法人 自殺対策支援センターHP
一般に言われるように、本当に働いても働いても貧しい生活から脱却できない「ワーキングプア」が増加しているのだろうか。
その辺の探求は改めておこなおうと思うけれども、いくつかのデータをざっと見る限り中間層が減少し、年収200万円以下の層が増えていることはどうやら間違いないようである。
■私が多感な10代を生きた1980年代前半は、確かに「一億総中流」を信じることが出来た時代であった。日本は、どんな社会主義国よりも平等な「社会主義」が実現されている国であるという、一種の誇りさえ抱いていた。
だが、今や「世知辛い」グローバル・スタンダードという名の自由競争の波に洗われて、「金を儲けて何が悪い」という誰かのセリフを表面的には批判してみるのだけれど、本音のところでは「正直な人だな」と思ってしまう時代である。
情けは人の為ならず。
という言葉が本来と逆の意味で捉えられるような世間になってしまう前に、「富の再配分」なんて堅苦しい経済用語をもっと我々ひとりひとりの生々しい人生に引き寄せる、そんな努力が必要なのではないだろうか。
「日本人」の恢復、というのはそういうところから始まるのだとおもう。
<2008.05.01 記>
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■『 ルポ貧困大国アメリカ 』 堤 未果 著 (岩波新書)
★★★★☆(46)
★★★★ (21) ★★★★☆(42) ★★★★ (12)
・とりあえず「シッコ」くらいは見ておこうとおもう。
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コメント
今日のgooニュースにも
「蟹工船」再脚光・・・格差嘆く若者共感
なんて記事が出てましたね。
私も非正社員の身、ご紹介の1冊と合わせて
読んでみようかな。。。
投稿: 臨床検査技師 | 2008年5月 3日 (土) 13時57分
臨床検査技師さん、おはようございます。
中学生くらいの時だったか、
『カニ光線』という題名だと思い込み、
どんな話だろうとワクワクした記憶があります(苦)。
投稿: 電気羊 | 2008年5月 4日 (日) 06時56分