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2008年5月13日 (火)

■NHKスペシャル セーフティーネット・クライシス。「ごく普通に暮らすこと」が出来ないなんて理不尽じゃないか。

■NHKスペシャル 『セーフティーネット・クライシス』を見た。

このあいだ『ルポ 貧困大国アメリカ 』を読んで、自由競争の名の下に拡がっていくアメリカの貧困の実態に驚いたわけだが、いまの日本もそういう状況に陥りつつあるのでは、という「感覚」はやはり正しかったようである。

バブル崩壊から抜け出す過程で、さらには、小泉改革の影で『切り捨て』られてきた人たちの「生きていく姿」を追ったNHKらしい実直な番組で、日曜の夜に深く考えされられた。

■リストラによって正社員から非正社員になることで会社が負担していた分も自分にのしかかり、不安定な収入のなかで健康保険の費用が払えなくなる。

滞納が一年におよび、保険証を取り上げられると今まで当たり前のように3割負担であったものが一挙に全額負担。

風邪をこじらせたな、と思っても、一万円以上の出費は確実で食うや食わずの生活の中でその費用が払えるわけもなく、ガマンをして、気がつけば手遅れ。

腕利きの溶接工だったお父さんがその抜け出せない罠にはまり込み、末期の肺がんで病院に担ぎこまれたのに、払う金がない、と病院を抜け出した。という話に胸が詰まる。

■2000年4月に開始された介護保険制度。

高齢者の一人暮らしが増加して、家族のかわりに社会がヘルパーさんを雇って高齢者を支えていこうというこの制度は、なるほど、とうなづける仕組みである。

けれど2003年頃からの小泉改革の波に洗われ、そのスタンスは「社会による支援」から「自立支援」へと急激に変質する。

■「ムダ」を切り捨てろ。

右半身マヒをかかえ、ヘルパーさんの支援でなんとか暮らしていたお母さんのもとに「要介護度の変更のお知らせ」が届く。

ヘルパーさんをつける時間は半分で生活していけるだろう、というのだ。

今までヘルパーさんに付き添ってもらって買い物に出かけることがリハビリとして効果があったのだけれども、そんな「ゆったり」した努力は非効率、「ムダ」なのである。

何とかその生活を維持しようと自費でヘルパーさんにお願いしようとするのだけれど、月6万円の出費はとても続けられるものではない。

「わがままは言わないけれど、普通の暮らしをしたいだけ。

 頼りたくて頼ってるわけじゃない、・・・。」

という、そのお母さんの感極まった声が耳に重く残る。

幸い、そのお母さんのケースは、地元の自治体が国のサービスを補填するカタチで少し改善したようだけれど、カメラの隅に映った「しぶや区」の文字が、本当に一部の裕福な自治体でしかそれは望めないのだよ、と語っていた。

■95年に17%であった母子家庭は、05年に21%になり、2030年には31%にもなると予想されるという。

カメラは、月収7万円で3人の子供を抱えた母子家庭のお母さんを追った。

子供の世話と持病の悪化でとても長い時間は働けない。けれど、月収7万円で家族4人が暮らしていけるわけもない。

そこで生活保護をうけ、「最低限」とされる月26万円の収入になるまで補填されることになった。

■けれど、2003年に厚生労働省は生活保護の考え方を切り替え、「働ける能力を向上させて100万世帯を自立させる」という数値目標を掲げる。

結果、その家庭の生活保護は打ち切り。

「持病は計画的に治してフルに働けるようにせよ。」

「高校生はアルバイトで家計を支えられるだろう。」

そう指導するお役人さんは、果たして、その論理を自分の家族に向けることが出来るだろうか。

「目標」が「目的」とすり替わり、本来の意味を失う典型的な例である。

結局、長男は高校を中退せざるを得なかった。

■慶応大学の金子 勝さんのコメントが鋭い。

「ようやく立ち上がろうとしたところを無理に自立させる。

 これは『自立支援』ではなく、『自立強制』だ。」

まさにその通り、と強くうなづく。

■釧路市の母子家庭にアンケートをとったところ、「中学で不登校」の全国平均が3%であるのに対して21%。「塾へ通っている」生徒の全国平均60%に対して5%であったという。

番組では、そういう生徒たちが集まることが出来る「場」をつくって勉強を教える活動をしているNPOの例を紹介していた。

勉強をする機会を得られる、ということももちろん重要なのだけれども、「ここにいていいんだよ。」と、あたたかく迎えてくれる「場」が大切なのだろう。

■ぜいたくは言わないが、ごく普通に暮らせる、最低限の生活は送れるという安心感。

家庭は貧しくても、教育のチャンスは平等に与えられる。子供は社会の宝であり、18歳になるまでは社会が守っていこうという意識。

確かに企業が生き残らなければ雇用もなく、収入も安定せず、そういった「安心」を支えることは出来ない。

■けれども、何のための経済の安定なのか。

「企業が生き残る」というのが「社会の安定」のためだというのならば、企業が生き残る目的は、「社会」とひとくくりにされない、われわれ市民ひとりひとりの日々の生活のレベルまでに想像力をめぐらせた上での「生き残り」であるはずである。

果たして、そういう姿勢を保った企業がどれくらいあるだろうか?

生き残りに汲々としているあいだに、ここでも「手段」が「目的」とすり替わっていないだろうか。

■そう、世の中に苦言を呈したとき、はた、と自分の胸に手をあててみる。

今、自分にできることは何か。

などとカッコいい使命感に燃えて、今の生活を投げ出してまで、身近にいるであろう困窮した人やまともな教育を受けることが出来ない子供たちのために行動を起こすだろうか。

いや、一瞬の妄想はあったとしても、一晩眠れば自分の生活に戻り、その生活を維持していくことを最優先にして生きていくのである。

■それを卑怯と呼ぶならば、呼べばいい。

偽善者と呼ぶならば、そう呼べばいい。

わたしは、わたしのいまの生活を守ろうと思う。

それが偽らざる心境だ。

■そういう、自分も含めた、人間に対する「諦め」のようなものがある。

けれど、誰もが「今の状況はまずい」と思っていて、会社の同僚の佐藤さん(仮名)や学生時代の友達の山田さん(仮名)が、話のふとした拍子に同じ思いをもっていることを確認できれば、その「ああ、みんな同じ思いなんだな。」と確認ができたならば、「社会」という捉えどころの無いものがゆっくりと動き出すのではないかと思うのだ。

そういう意味で、今回のこの番組の意義は非常に深いと思う。

この番組を作り上げたNHKのスタッフの方々に拍手。

初めは少しずつかもしれないけれど、動きだすこと自体がとても重要だ。

これからの日本が住み良い世の中になっていくことを祈りつつ、日本国憲法の一節を載せたいと思う。
   

■日本国憲法 第二十五条【生存権、国の生存権保障義務】
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を
  有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び  
  公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

                             <2008.05.13 記>

■関連記事■
■個人の自由と国家の役割。『日本の、これから』 納得していますか?あなたの働き方。
<2007.06.26 記事>

■【書評】『 ルポ 貧困大国アメリカ 』。国家の病理は個人的つぶやきに現れる。
<2008.05.01 記事>
  

■番組HP■
■NHKスペシャル 『 セーフティーネット・クライシス 』
■2008.05.11放送。
■再放送■2008年5月13日(火) 深夜 【水曜午前】0時55分~2時23分 総合

  
■関連データ■
19762005_2
■日本の自殺者数と自殺率:
 1998年に自殺者が急増し、持続している。
 
Photo
■自殺率と完全失業率の相関関係:
 失業率だけで今の状況は読めないのだろうけれど・・・。
   
Photo
■所得階層別人数の推移:
1998年から2005年にかけて年収200万円以下の、いわゆる貧困層が急増している(24%増)。 
   

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コメント

日本人の精神的後進性が問題だと思います、番組の中でヨーロッパではこうです等言っていましたが、日本では高い物(利益率が高い)はヨーロッパ製品、中価格、低価格帯を日本と発展途上国が分け合っています、日本のように経済的先進国で物を作れば、高くなるのが当たり前です、しかし高い物はヨーロッパブランドを買いあさり、日本製品は買いません、日本の企業の日本国内での利益率の低さは国際的に有名な話です(株価低迷の理由の一つになってます)ヨーロッパでは高い物でも自国民が買います、又世界で高い物を買ってくれます、大多数の日本企業とは収益構造が違います、ここの所を放っておいて日本の将来を語っても意味が無いと思います。

投稿: 大沢孝雄 | 2008年5月18日 (日) 15時55分

大沢さん、こんばんは。

確かに。
バブルの反動として、100円ショップがすっかり定着した感じがしますね。
これじゃあ、儲からない。
で、お金が循環しないから収入も少ないわけで、ますます安いもので済ませようとする堂々巡り。
でもバブルで覚えた「高級」の味は忘れられないから、土着臭のないヨーロッパ製品に夢を見る。
そういう構造になっているんでしょう。
じゃ、ヨーロッパ自体はどうかというと、移民の低賃金労働に支えられている印象があって、まさに差別社会。
この時代、薔薇色の国なんて無くって、どこも何らかの問題を抱えているのだと思います。

投稿: 電気羊 | 2008年5月20日 (火) 00時39分

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