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2008年5月27日 (火)

■NHKスペシャル 『北極大変動 第1集 氷が消え悲劇が始まった』 ポイント・オブ・ノーリターン。危機的状況を訴える炭鉱のカナリア。

ホッキョクグマが絶滅の危機に瀕しているという。

原因は安定的に存在した北極海の氷が急激に減少していることにある。

N N_2
■【左】発信機をつけるために麻酔銃で眠らされた母熊から離れない生後1歳に満たないシロクマの兄弟。【右】母熊が食料を取れなくなって母乳が出なくなり餓死してしまった子熊。■NHKスペシャル『北極大変動 第1集 氷が消え悲劇が始まった』(5/25(日)放映)より

■かつて4メートルもあった北極点の海氷の厚さが、07年には70センチにまで薄くなってしまっている、という数値に愕然とした。

北極といえば、ぜーんぶ氷の大平原に強風が吹き荒れる何人も寄せ付けぬイメージであって、そこに植村直己さんの犬ぞり単独行のロマンがあったりするわけである。

それは人間の行ないなどではビクともしない、不動の壁であったハズだ。

それが、肩幅よりチョッと広くひろげた両手のあいだで収まるような、そんな現実的な氷の厚さになってしまうということに感覚的な不安を覚えるのだ。

■実のところ地球温暖化の報道には、もうすっかりうんざりしていた。

アル・ゴアの「不都合な真実」以来、北極の氷の減少は「流行り」であって、ニュースステーションが「こーんなに氷の面積が小さくなってるんですよ!」と煽れば、訳知り顔の学者さんが教養(?)バラエティ番組に出てきて、「北極の氷が溶けても水面はまったく上昇しません。皆さんアルキメデスの原理を知らないんですね。」なんて小バカにした笑みを見せる。

同じ時期の定量データの推移も見せずに「衝撃的映像」だけで語ってしまおうとする報道番組(?)の姿勢にも、グリーンランドやアラスカの陸地の氷の分はどうなんじゃい、という想像力もハタラカナクなった、物事を単純にしか捉えられない老害学者にも、反感を通りこして悲しい感情すら浮かんでしまうのだ。

■けれど、腐ってもNスペ。

今、進行している現象のメカニズムを理解し、正確に伝えようという心意気が感じられる。

■北極圏で起きていることは、我々の想像力を超えた極めてダイナミックなものであるようだ。

番組に出ていた日本人の研究者が使った、

「ポイント・オブ・ノーリターンを超えてしまっている」

というコトバが、その危機的状況をうまく言いあらわしている。

つまり、もう後戻りできないところまで来てしまっているということだ。

N_3

■グリーンランドを覆う大氷原にあいた、いくつもの大きな穴。

氷原の表面を流れてくる水が大量にその穴へと吸い込まれていく。

その水は氷原を支える地面との間に流れこみ、海へと押し出されていく氷原の動きを加速させると考えられている。

■また、これまでの北極海の海氷は夏場にも溶けきらず、積み重なるように冬場にその厚さを増して安定を保っていたのだけれど、夏場に溶けてしまうようになってからは、冬期には凍結するものの次の夏にはまた溶けてしまうという不安定なものになり、その範囲を広げるようになってしまった。

それだけでなく、薄くなった氷は太陽光を海へと透過させてしまい、温まった海は上昇気流を発生させ、グリーンランドとノルウェーに囲まれた海域へ氷を押し流す推進力となっている。

■環境が変化したとしても、ある程度はその変動を抑え込むような復元力というものがある。その復元力ゆえに、北極は北極として安定して存在し続けられたのだ。

だが「ものには限度がある」なんていうけれど、ある「臨界点」を超えたとき、「複雑なシステム」は爆発的な(或いは自己増殖的な)変化を見せるようになる。

それが、複雑系の研究者であるスチュアート・カウフマンのいう「相転移」であり、先の日本人科学者のいう「『ポイント・オブ・ノーリターン』を超えてしまった」、ということの意味である。

■もし北極に起きていることが「相転移」であるとするならば、もう人間の手におえるものではないだろう。

それが人間の経済活動由来の二酸化炭素濃度増大によるものであったとしても、やはり止めることは出来ない。

拳銃の引き金をひくことはたやすいが、発射された弾丸を止めることが出来ないのと同じである。

■この番組では、海氷が溶けてしまって食料となるアザラシがまったく生息しなくなり、飢えて子供に母乳を与えることすら出来ずに死んでいくホッキョクグマに焦点をあてている。

極寒の厳しい環境では生物の多様性は単調で、環境の加速度的な変動に追いついていくことが出来ない。

そういう意味で、ホッキョクグマは気候変動における「弱者」なのだ。

「子供」と「動物」という二大キャッチー項目を併せ持つ「シロクマの子供」をことさらクローズアップする演出には多少の厭味は感じるけれども、素直な気持ちで見るならば、彼らを守りたい、と思う。

その共感と想像力を人間同士の中にも生み出せないものだろうか。

■中国の四川大地震の意味するところは分からないが、少なくともミャンマーのサイクロンは現在進行している気候変動とすくなからぬ因果関係を持っているだろう。

我々人類への影響を考えた場合、一番にしわ寄せが来るのがアジア・アフリカの貧困地域である。

たとえ、ミャンマーのような直接被害が無かったとしても、すでに食料の供給不足というカタチで不幸が襲い掛かかっているのだし、その影響を増幅させているメカニズムが地球温暖化対策に伴う農作物のエネルギー消費への転換にあるということが、非常に皮肉な構図を描き出している。

■我々に出来ることは、これから起きるであろうことを自分の頭で考え、やるべきことをやり、やるべきでないことをやらないことだ。

自戒の意味をこめて繰り返そう。

大切なのは難しいことじゃない。

相手を思いやる「想像力」を発揮することなのだ。

                          <2008.05.27 記>
■翌日放送された、第2集 『氷の海から巨大資源が現れた』も海底ガス田の開発の最前線が紹介されていて興味深かったが、メッセージとしてはボヤけていて今ひとつガツンと来なかった。本丸はプーチン帝国を支えるガスプロムだろ、と思うのだけれど、そっちへの突っ込みは中途半端な印象だ。やっぱりガードが硬かったのかな?
   

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コメント

民放のこの手の番組で、人一倍季節はずれの衣装で御出演の
レポーター役の女優などを見るたび、興ざめしてしまいます。

>ポイント・オブ・ノーリターン
ずっしりと、響く言葉です・・・

投稿: | 2008年5月28日 (水) 19時05分

臨床検査技師さん、こんばんは。

確かにリポーターの本気度って意外と伝わってしまうものなのですよね・・・。

投稿: 電気羊 | 2008年6月 2日 (月) 15時21分

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