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2008年5月24日 (土)

■【映画】 AVP2 エイリアンズ VS. プレデター。とんでもなく濃密な102分!

前作のAVPのラストシーンは「次回作を震えて待て!」ってな感じだったので、もう期待しまくって見たのだけれど、ある意味、その期待を大いに上回る大満足の作品であった。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.14  『AVP2 エイリアンズ VS.プレデター
           原題: ALIENS VS. PREDATOR
          監督: コリン・ストラウス、グレッグ・ストラウス 公開:2007年12月
       出演: スティーヴン・パスカル レイコ・エイルスワース 他

     Avp2
     ■AVP2 エイリアンズVS.プレデター 完全版

■プレデターとエイリアン、そこに巻き込まる人間たち。

その三重奏が上手く回転している。

常軌を逸した獰猛さと繁殖力をもったエイリアン。

それに対するプレデターがまったく人間に媚びないところが、この映画を成功へと導いている。

そう、この作品の主人公は「プレデター」でも「タフな母性本能でピンチを切り抜ける強い女」でもなく、得体の知れないプレデターとわらわら増殖したエイリアンと容赦なく殺戮されていく町の人間たちとが織り成す「異常な状況」そのものなのだ。

■ストーリー■
エイリアンとの死闘を終え、地球から帰還しようとするプレデターの宇宙船。だが、その宇宙船に収容された一体のプレデターにはチェストバスター(エイリアンの幼体)が潜んでいたのだ。

プレデターの圧倒的な戦闘能力を身につけた「プレデリアン」は船内のプレデターたちを次々に虐殺。コントロール不能となった宇宙船はアメリカ、コロラド州の森林地帯へ墜落する。その森へ狩りに来ていた親子を皮切りに、エイリアン’たち’は次々と増殖しながら森林に閉ざされたガニソンの町へと侵攻していく。

一方、プレデターの母星(?)でも船の異変を察知、増殖したエイリアンを掃討するために一人の戦士が地球へと向かうのであった。

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■この映画に「ドラマ」を期待してはいけない。

墜落したプレデターの宇宙船に接触した親子。普通はそこを基点として物語を拡げていくものだが、父親はあっさりとフェイスハガーに取り付かれる。ああ、この残された子供が軸となっていくんだなと思いきや、次の瞬間、その子もやられてしまう。

なるほど、息を吹き返した親子が町へ戻っていくところから物語が・・・、なんて考える間もなく二人の胸を突き破ってチェストバスターが飛び出してくる。

容赦ない。

感情移入しようとする観客の気持ちをバッサリ刈り取る。

この序章の展開は、この映画は一味違うのだよ、という観客に対する宣戦布告なのである。

■前半3分の1くらいの時間をかけてガニソンの住人たちを点描していくのだけれども、ここでは決して一人ひとりに深くは踏み込まない。

振り返ってみるとこのあたりのサジ加減が実に絶妙で、後半に一気に収束していく「状況」にダイナミックさをもたらしている。

ここでいう「収束」はストーリーの密度であると同時に、文字通り、前半で点描された住人たちが無慈悲に刈り込まれていく状況そのものである。

遺棄された装甲車に乗り込む数名の男女の向こうには多くの犠牲者の点描があるわけで、その積み重ねの濃密さ故に残された彼らに「厚み」を持たせることに成功しているのだ。

一人ひとりの丁寧な描写という一般的技法に拠らない、斬新な組み立て方である。

この映画を「薄っぺら」と評するひとは、きっと、その斬新でドライなやり口に乗り切れなかったひとなのだろう。

そういう意味では観客を選り好みする「高飛車」な映画なのかもしれない。

■いや、もう少し深く掘り下げてみると、「AVP2」の宿命としてそういうドライな描き方しか出来なかったのかもしれない。

何故かならば、この映画の「3つの要」の一角をしめるプレデターが、その仮面の下に感情を隠して冷静沈着に「処理」を進めていくというキャラクターであるからだ。

もし人間に主役を置いて、そのキャラクターを深く描きこむやり方をしていたのであれば、対するプレデターもそれに応えざるを得ない。いきおい、プレデターと人間との共闘へとストーリーは流されていくだろう。

それでは前作「AVP」の焼き直し。

■「AVP」でひとりだけ生き残った女性登山家レックスとプレデターとの共闘は、それはそれで新鮮で面白かったのだけれども、どちらかというと禁じ手に近く、それを続けてしまっては「甘く」て陳腐な作品に成り下がるのは目に見えている。

エイリアンとプレデターと人間との3角形を「筋」を通してキッチリ描くためには、そういうドライな手法が必要だった、ということか。

■さて、モンスター映画としての「AVP2」はどうなのか?

アマゾンの評価を見てみると、画面が暗くてぜんぜん分からん!という意見がかなりあるようだ。

確かに、画面に出てきたのが「プレデター」なのか「プレデリアン(プレデター由来のエイリアン)」なのか、よく分からなくて混乱するような場面もあったりはする。

けれど「エイリアン」は見えないからこそ「エイリアン」なのであって、エイリアン(ビッグチャップ)をあからさまに見せた「エイリアン2」以降がむしろ邪道とすらいえよう。

もちろん、「見えない」という状況を描くセンスは「水蒸気の魔術師」リドリー・スコット監督の足元にも及ばないが、やりたいことはわかる。

要するに原点回帰をやりたかったのだ。

■プレデターの装備も毎度のことながら抜群でかっこいい。

「掃除屋」必須アイテムらしき、魔法の水もなかなかシャレている。

エイリアンの生態も、ここで文字にするには躊躇してしまうのだけれども、かなりな「チャレンジ」を試みている。

それが「気に食わない」というマニアも多いと思うけれども、やっぱり表現者としては新たな挑戦をしてみたいものなのだから、まあ大目にみようじゃないですか。道徳的にどうか、という気はするけれど。

■で、ラスト。すべての武器を使い果たしたプレデターが装備を剥ぎ取り、ゆっくりと仮面を外すシーン。

「決意」が滲み出るこのシーンが実にキマっている。

ここまで「感情移入」を頑なに拒否していた「掃除屋」が、初めて感情をむき出しにしてプレデリアンに素手で向かっていく。

また、これが強い!

濃密な102分を締めくくるのに相応しい、力の入る「対決」であって、まさに「エイリアンVSプレデター」の看板に偽りなし。

すべてを消し去る「炎」を背景に浮かび上がる彼等のシルエットが、えも言われぬカタルシスを与えてくれる。

■いやー、久々にツボにはまる映画であった。

ここまでドキドキする映画はどれくらいぶりだろう。

「エイリアン」から、また見返したくなってしまった。

                           <2008.05.24 記>

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コレクターズBOX (FOX限定プレデリアン・フィギュア付)

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■STAFF■
監督: コリン・ストラウス、グレッグ・ストラウス
製作: ウォルター・ヒル他
脚本: シェーン・サレルノ
音楽: ブライアン・タイラー
撮影監督: ダニエル・C・パール
美術: アンドリュー・ネスコロムニー
衣装: アンガス・ストラティー
特殊メイク: ドーン・ディニンガー
クリーチャー造形: アマルガメイテッド・ダイナミクス・インク
視覚効果監修: コリン・ストラウス&グレッグ・ストラウス、他

■CAST■
レイコ・エイルスワース
ジョン・オーティス
スティーヴン・パスクール
ジョニー・ルイス
デヴィッド・パートコー、他

 
■AVP2 公式サイト■

    
■過去記事■

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