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2008年3月24日 (月)

■『鹿男あをによし』 最終回。テレビドラマの悩ましさ。

今シーズン、存分に楽しませてくれたドラマ『鹿男あをによし』が終了した。

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■原作の良さも当然あるのだろうけれど、えー、どうなちゃうの?というハラハラ、ドキドキにあふれたドラマの王道をいく作品であった。

その見るものを強く引き込む力は、映像の見せ方や音の入れ方を含む、飛びぬけて素晴らしいテンポと間によるものであったとおもう。

■その頂点は第9話のラスト、三角縁神獣鏡が小治田教頭の悪あがきで奪われ、手に入らぬものならば壊れてしまえと走ってくる列車に向けて投げられたその場面。

逆光の中へジャンプ一発、神獣鏡をあぶないところでキャッチして小治田教頭(児玉 清)を追ってきた小川先生(玉木 宏)と藤原先生(綾瀬はるか)の向こうにトンっと着地する’鹿に乗った’堀田イト(多部未華子)

えっ!?と驚く「間」を十分にとった上で

「先生、マイ鹿です」。

決まった!

その気持ちよさに思わずガッツポーズをしてしまった。

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■けれど同時に不安になったのは、そのクライマックスを第9話にもってきて果たしてどうなる最終回、という、そこである。

この後の儀式に波乱があるのか、はたまた意外な真相が?と最終回の盛り上がりに心配をしたのだけれども、ある意味その不安が的中しまった。

■儀式はつつがなく執り行われ大震災の危機は去った。

けれど鹿男・小川を待ち受けていたのは「願いはひとつしかかなえられない」という鹿のことば。

’しるし’をつけられた鹿の顔をもとに戻せるのは小川先生か堀田イトかのどちらか一人。そんなバカな、というのが最後の波乱。小川先生は堀田の顔を元に戻すことに決め、自らは鹿の顔を背負って生きていく道を選ぶ。所詮ついてない俺の人生だ・・・。

■結局は、そんなのはおかしい!と鹿に詰め寄った藤原先生が小川先生の顔を元に戻す方法を聞き出すのだが、その方法が最終回を盛り上げる、・・・はずであった。

日本を未曾有の危機から救いながらも、結局は’ついてない’俺なのだと失意を背中に滲ませながら奈良を後にして列車に乗り込む小川。その目の前に堀田が突然現れ乱暴に引き寄せキスをする。

小川先生の顔を元に戻す方法とは人間の顔に戻った’鹿の使い番’が’鹿の運び番’にくちづけする、というものだったのだ。

先生なら、ま、いいか、と思って。

去り際の列車という舞台設定もあいまって、なんとも甘く切なくイイ感じ。いらぬ説明を廃して描かれる不器用な堀田の思いにキュンとくる。

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ああ、これだけで十分なのに。

綾瀬はるかの藤原先生は「常識」を打ち破るいい役柄であったのだけれども、「小川先生との恋の行方」というラブコメとしてのサブストーリーが最後の最後に仇となる。

小川先生と藤原先生のラブラブ話がかぶってしまって、堀田イトが最後に見せるせっかくのいいシーンがすっかりぼやけてしまうのだ。

非常に残念である。

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■読んではいないのだけれども、原作では藤原先生は妻子持ちの25歳の男という設定らしい。

決して原作至上主義ではない。

実際、綾瀬はるかの藤原先生は、歴史の薀蓄を語り始めると相手が聞いていようがどうしようが関係なくどこまでもしゃべり続ける感じだとか、話題がポンポン飛ぶのだけれどいつのまにやら帳尻が合っている不思議なしゃべり方だとか、狂言回しの役どころとして最高にはまっていたキャスティングだと思う。

けれど綾瀬はるかと玉木宏をならべればどうしても恋愛を期待してしまうし、ドラマとしてもその期待を裏切るわけにはいかないのである。

■主となる視聴者を考えたとき、その視聴者の嗜好とは関わりなく、テレビドラマとしては恋愛の要素を外すことは出来ない。

昨シーズンの月9、『ガリレオ』は科学推理サスペンスという枠組みを思い切って捨て去りラブコメとして割り切ることで発展的解消を狙った作品であった。

月9なのだから当然ともいえる思い切りだし、趣味ではないが割り切ればそれなりに楽しめた。

だが如何せん『鹿男』は作品自体が完成しすぎていてそのしわ寄せが最後に噴出したというところなのだろう。

そこは片目をつぶってやり過ごすのが大人の見方なのかもしれないが、視聴率がさほど稼げなかったという結果をかんがえると最後まで作品としてこだわりきって欲しかった。

そういう無いものねだりをしたくなるほどに『鹿男あをによし』は映像作品として質の高い素晴らしいドラマなのであった。

                             <2008.03.24 記>

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■威厳と思いやりにあふれた’リチャード’を演じているときの児玉清は「児玉清節」炸裂で楽しかったのだけれども、化けの皮が剥がれたあたりからちょっと無理が見えてしまったのが残念。

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■こいつが鍵を握っていそうだと思わせておいて全く関係ない、という面白い役柄を演じた佐々木蔵之介のとぼけた感じ、よかったなー。

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■原作 『鹿男あをによし』
■万城目 学■
★★★★ (54件のレヴュー)
 

■『鹿男あをによし』 オリジナルサウンドトラック
■音楽 佐橋俊彦■
■テレビドラマと思えないスケールの大きなかっこよさ!

★★★★★(8件のレヴュー)
 

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■鹿男あをによし DVD-BOX ディレクターズカット完全版
★★★★★(26件のレヴュー)
   

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■過去記事■
■TVドラマ雑感・バックナンバー

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■キャスト■
小川孝信(鹿男)     … 玉木 宏
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藤原道子(歴史教師)  … 綾瀬はるか
福原重久(美術教師)  … 佐々木蔵之介
長岡美栄(マドンナ)   … 柴本 幸
堀田イト(謎の生徒)   … 多部未華子
小治田史明(教頭)    … 児玉 清
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鹿(声)   … 山寺宏一
鼠(声)   … 戸田恵子
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オープニング・ナレーション …中井貴一
   

■スタッフ■
原作 万城目 学「鹿男あをによし」(幻冬舎刊)
脚本 相沢友子(『恋ノチカラ』ほか)
演出 鈴木雅之(『HERO』ほか)
    村上正典(『1リットルの涙』ほか)
    河野圭太(『古畑任三郎』ほか)
    土方政人、村上嘉則
音楽 佐橋俊彦
制作 フジテレビ 共同テレビ
  

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コメント

ドラマが進むにつれて、玉木宏さんの素顔までが
美形の鹿に見えてしまったのは、私だけでしょうか?

投稿: 臨床検査技師 | 2008年3月24日 (月) 20時46分

臨床検査技師さん、おはようございます。
>玉木宏さんの素顔までが美形の鹿に・・・
確かに「鹿顔」かも。

投稿: 電気羊 | 2008年3月25日 (火) 08時28分

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