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2008年3月 2日 (日)

■【映画】『バベル(BABEL)』。言葉よりもっと深刻な断絶の物語。

理屈で捉えられるのは、ほんの表層的なことに過ぎない。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.11   『バベル(BABEL)
          ■監督: アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
      ■アメリカ公開:2006年10月 ■日本公開:2007年4月
      ■出演: ブラッド・ピッド、役所広司、菊地凛子 他

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■説明はない。

ただ、見よ。味わえ。と迫ってくる。

感情をあえて前面に出さずに登場人物たちがはまり込んでいく不幸を淡々と捉えていくカメラは冷静で、それゆえに言葉では表現することの出来ない「生き物」としての人間の苦しみ、悲しみ、不安、恐怖といった生々しいものを際立たせる。

それは、ある意味、暴力的ですらある。

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■ストーリー■

モロッコ。夫婦の絆を取り戻そうとバスツアーで旅をするリチャード(ブラッド・ピット)とスーザン(ケイト・ブランシェット)。そこへ唐突に打ち込まれた一発の銃弾によってスーザンは重傷を負ってしまう。言葉も通じず、医者もいない辺境の地で妻の命を懸命に救おうとするリチャード。一方でこの発砲事件を米国人を狙ったテロリストによるものと断定したモロッコ警察の捜査が始まる・・・。銃の持ち主をたどると意外なことに東京で聾唖の娘(菊地凛子)と二人きりで暮らす、ある会社役員(役所広司)に行きつく。その頃、リチャードとスーザンの帰りを待つ幼い子供たちは、息子の結婚式に出席する乳母に連れられて国境を渡りメキシコへ。刺激的な異文化を楽しむ二人だったが、彼らにも生死を分ける思いもかけない事態が待っていた・・・。
(Amazon.co.jp 商品の説明より抜粋)

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■DVD 『バベル(BABEL)』
★★★☆ (64件のレヴューがあります)

■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■英語が全く通じないモロッコの無医村に取り残されるアメリカ人夫婦。夫婦が出かけている間にメキシコ人ベビーシッターの息子の結婚式に連れられて行くアメリカ人夫婦の幼い息子と娘。異物を見るような態度に傷つき健常者との間に壁を作ってしまう一方で、何とかつながりを持ちたいと苦しむ聾唖の少女。

モロッコ、メキシコ、東京。言葉が通じない世界の中でそれぞれに’生きている’ことの生々しさを見せつけられる。

■モロッコ人の家に運び込まれ、救援が来るかどうかさえ分からない不安の中で重傷に苦しむケイト・ブランシェット。そんな状態であるにも関わらず、当然のこととしてやってきて抑えることの出来ない尿意。

メキシコの子供たちとはしゃぎながらニワトリを追いかけまわし、捕まえた!と得意満面なアメリカ人の女の子の目の前で事も無げにキュッ、とニワトリの首を捻じ切ってパーティーの食材にしてしまうガエル・ガルシア・ベルナル。

聾唖者だと知った途端に怪物でも見るような目を向けた男子高校生への報復として下着を穿いていない下半身を見せつけ貶めようとする菊地凛子。

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■日常生活では語られない、というより語ることを避けている部分をそのままドンと無造作に目の前へ投げつけてくる。

それは決してショッキングな効果だけを狙っているわけではない。

「日常」という薄皮を一枚はいでしまえば、すぐそこに言葉で説明することの出来ない「何か」がある。

常識だとか道徳だとかそういったものは所詮表面的に社会を秩序だてるために後付けされた薄っぺらな理屈に過ぎない。

そんな後付けの理屈よりも、もっともっと深いところで’のたうつ’「何か」が、我々を本当に突き動かしているものなのだ。

イニャリトゥ監督は、それを表現したかったのだと思う。

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■この映画のタイトルの『バベル』は旧約聖書の話からきている。

もともと人間はひとつの言葉を話していたのだが、技術を進歩させた人間は互いに協力し合い、天にまで届く「バベルの塔」を建造しようと試みた。

それが神の怒りにふれ、神は人間が互いに違う言葉をしゃべるようにしてしまった。

その混乱の中で人間たちは各地に散らばり、それぞれに違う言葉を話すようになった。

という話である。

■モロッコに取り残されたアメリカ人夫婦。メキシコに連れて行かれた子供たち。健常者との壁を作ってしまう聾唖の少女。

素直に捉えるならば、この映画は「言葉が通じない」ということで起きる悲劇を描いている、ということになるだろう。

けれど、そんなに分かりやすく単純な構図なのだろうか。

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■お互いに心が通じ合っていると思っていても実際には擦れ違っている。

しかも心のどこかでその擦れ違いに気が付いているのに、そこから目を逸らしたまま過ぎていく日々。

言葉が通じているなかでの断絶。そこにこそ本当の悲劇がある。

そんな日常が抗うことの出来ない「力」によって破壊され、圧倒的な絶望の中に放り込まれ、その時になってやっと本当の意味での「つながり」が生まれてくる。

そこに、この映画の「救い」があるのだと思えるのだ。

■アメリカ人夫婦のつながり。その子供たちと、これまで親の代りに彼らを育ててきたメキシコ人の乳母とのつながり。聾唖の少女とその父とのつながり。

そして、一連の不幸の切っ掛けとなる銃弾をバスに打ち込んだ活発なモロッコ人の少年と、真面目で内気なその兄とのあいだの絆。その絆は皮肉なことに一方の死という究極の絶望の中で形づくられていく。

それぞれの結末は決してハッピーエンドではないけれど、そこに新たに漂いはじめた微かな希望が、見るものの心を少しだけあたためてくれるのだ。

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■DVD 『バベル(BABEL)』
■監督: アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ ■日本公開:2007年4月
■出演: ブラッド・ピッド、ケイト・ブランシェット、役所広司、菊地凛子、他
■カンヌ最優秀監督賞、ゴールデングローブ・作品賞、アカデミー・作曲賞、他

                            <2008.03.01 記>

■STAFF■
監督 : アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ (メキシコ)
      (『アモーレス・ペロス』(99)、『21グラム』(03))
脚本 : ギジェルモ・アリアガ
      (『アルキメデス・エストラーダの3度の埋葬』(05))
撮影 : ロドリゴ・プリエト(『ブローバック・マウンテン』(05
))
音楽  :  グスターブ・サンタオラヤ(『ブローバック・マウンテン』(05
))
■CAST■
アメリカ人・夫 ・・・ ブラッド・ピッド
アメリカ人・妻 ・・・ ケイト・ブランシェット
メキシコ人・甥 ・・・ ガエル・ガルシア・ベルナル
メキシコ人・乳母・・・アドリアナ・バラッザ
日本人・父   ・・・ 役所広司
日本人・娘   ・・・ 菊地凛子
日本人・刑事  ・・・ 二階堂 智
   

■過去記事■
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