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2008年2月 9日 (土)

■「私」の外側でにこやかに笑うもの。『プロフェッショナル・仕事の流儀』 石油化学プラント建設現場所長・高橋直夫。

今回のプロフェッショナルは、大規模な石油化学プラント建設の現場を率いるリーダー、高橋直夫さん。

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■「リーダーは、太陽であれ」・石油化学プラント建設現場所長・高橋直夫
<2008.01.29放送> (番組HPより)

■珠玉のことばが鈴なりで、しみじみ響く良質のビジネス書を読み終えた気分だ。

「決めないリスクより、決めるリスクをとる。」

「今日決めることを明日決めるのは『悪』である。」

「しつこく言う。部下の反感を買ってでも、言う。」

■「現場を支えているのは、溶接をし、一本一本のボルトを締める作業をする人。相手は血の通っている人間だ。」

「相手の得は、自分の得。相手がこの場限りの出稼ぎ労働者であろうと、その人の成長のための投資は惜しまない。」

■「小さな問題こそ全力で当たれ。たった一本のボルトの折損対策に躊躇していると問題は何万本ものボルトに波及し、何十倍、何百倍にも拡大する。」

「小さなことの大切さを知るには、落とし穴に嵌ってみるのが一番いい。」

「失敗を許す組織には技術が蓄積される。」

「何故ダメかをストレートに言う。けれど、それで評価はしない。」

■それらの言葉ひとつひとつに、いちいち肯いてしまう。もし世の中のリーダーが皆こういう姿勢で生きているなら、もっと信頼感、安心感のある社会になっているだろう。

■こういった「名言」は、実は、少し気の利いたビジネス書には既に書かれていることである。

それでも実際には高橋さんのようなリーダーが稀有なのは、その「資質」が、自らが地獄のどん底にまで突き落とされることではじめて「血肉」となるものだからなのだろう。

■7ヶ月の工期遅れによる数十億円の損失。

44歳。サウジアラビア国営ガスプラントを立ち上げる大プロジェクトで、現場のすべてを取り仕切る所長に初めて抜擢された、その「結果」である。

当然のこととして失敗の責めを負い、所長の座を失う。

「プライドがこなごな」、

などという言葉ではとても言いあらわせない。

能力があって責任感が強ければ強いだけ、自らの逃げ場が無くなってしまい、なおさら厳しい状況に追い込まれていく。

■そんな時、そのプラントの顧客であるプロジェクトマネージャーが高橋さんにこう言った。

「高橋、いい仕事をしたね。7ヶ月遅れ?そんなスケジュールなんて誰も覚えちゃいないよ。お前らは100%、お客の要望に合ったプラントを作ったんだ。作ったものはそのまま残る。これを使う人は毎日使うんだ。お前たちの評判は絶対上がるから心配するな。」

無間地獄の中に差し伸べられたその手に『救われた』、と語る高橋さんの表情が、その時に受けとめたの光明のあたたかさを感じさせる。

たぶん地獄そのものではなく、『救われた』という、そのことが、今の高橋さんを形作る強い骨格となっているのだろう。

■自らの失敗の原因を徹底的に分析し、事実を認め、再び訪れるチャンスを待つ。そして今では「どんなプロジェクトでも高橋さんに任せれば大丈夫」といわれるまでになった、その原点がそこにある。

そう考えたとき、高橋さんの言葉ひとつひとつが生身の感情として心に深く再生されてくる。

「不安を表情に出さない。皆の太陽であれ。」

そう自分に言い聞かせる高橋さんの胸の中には、手を差し伸べてくれたプロジェクト・マネージャーの笑顔があたたかく浮かんでいるのだろう。

だから、「太陽」で在り続けられる。

■脳科学者としての茂木健一郎さんは「笑って仕事しろ」ということばに素早く反応した。

怒ったり、焦ったりしているとき、脳は一つのことしか見えなくなる。

だから「笑って仕事しろ」なんでしょうね。でも、そんなときに笑えるものですか?

出来ると思ってます。

■「そうですかぁ。」という茂木さんの下がり調子が面白かったが、

そんなときに笑えるものですか?

という問いを改めて自分に投げかけ、うまくない状況に自分を浮かべてみると、やっぱり、「そうですかぁ。」と、高橋さんのいる高みを見上げることしかできない呆然とした私がいる。

■”We can do it!”、「出来る」と、確信をもって笑って言うこと。

その「笑って言うこと」、が難しい。

そして我ら凡夫が、それを「難しい」と思った瞬間に、「難しい」は眉間にしわを寄せ、視野狭窄の穴倉へと限りなく堕ちていく。

■「必要だと決めたことは絶対にあきらめない。」

そう、力みかえると、かえって「出来る」は遠ざかる。
 

「出来る」と相手に伝えることをあきらめない。

その為には、誰よりも強く「出来る」と信じること。

それがリーダーの資質なのだ、

  
と言ってしまえる高橋さんの秘密はその「にこやかさ」にあって、わたしの外側から降ってくるそのやわらかな笑顔が弱い私をその気にさせる。

リーダーであろうとするならば、それは「わたし」が「私の外側」に立って、「困難」をにこやかに眺めることが出来るかどうかにかかっている。

そういうことなのかもしれない。

                         <2007.02.09 記>

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過去の記事■『プロフェッショナル・仕事の流儀』

■『プロフェッショナル・仕事の流儀』番組HP

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コメント

>・・・だから「笑って仕事しろ」
>「出来る」と相手に伝えることをあきらめない・・・それがリーダーの資質
実験室の壁に貼っておきたいフレーズです!!

臨床を離れ研究開発助手として、早5年経ちますが、1歩進んでは、2歩さがるような実験に追われる日々を過ごしています。
まさに無間地獄、眉間にしわを寄せ、視野狭窄の穴倉へ落ちていくような日々です・・・^^;

この番組も今回の記事も、ぜひボス並びに他の研究員にも目にしてもらえたらなぁと思いました。

投稿: 臨床検査技師 | 2008年2月10日 (日) 11時31分

検査技師さんへ。

久しぶりにそこそこ巧く書けたかな、
という時に反応があると非常にうれしいものです。
ありがとうございます。

投稿: 電気羊 | 2008年2月10日 (日) 13時43分

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