■深夜ドラマ 『栞と紙魚子の怪奇事件簿』 原作、諸星大二郎。その無謀な試みは果たして。前半戦を振り返る。
年明けに不意打ちのように始まったこのドラマも折り返し地点に到達した。
さて、深夜枠とはいえ、諸星大二郎の世界をテレビドラマ化するという無謀な試みがどうなったか?一話ずつ簡単に記しておこうとおもう。
■第1話「栞と紙魚子とジャックとエミリー」。のっけから長谷部 瞳が惨殺されるショッキングなシーンで始まる。おい、えらくシリアスだな、と思っていたら子供たちが遊ぶ明るい公園で「栞」が長谷部 瞳の死体を掘り当てる。しかも死体は「ピース」をしています、だと?ああ、ちゃんとネジは緩んでる。これなら大丈夫かもしれないと感じた安心感は裏切られることはなかった。
キャラクター紹介の前半部分は思いっきりスベりまくりで傍ら痛かったが、後半の強引な捩じ伏せ方は思いのほか気持ち良く決まっていた。とくに死体安置所から栞の背後について来た長谷部 瞳の「おんぶ」がいい。背後霊の表現を「背中に負ぶさる」という極めてアナログなカタチでやってしまうその感性が素敵だと思う。
もちろん原作どおりにはいかないけれども、「なんか変!」という『栞と紙魚子』の本質的な部分がうまく出ていて、第一印象は「グー」であった。
<脚本:渡辺雄介、演出:井口昇>
■第2話「自殺館」。正統派ホラーとしての最後の盛り上がりも良かったのだけれど、なんといっても段先生の奥さんの登場に拍手!あのデカイあたまの生々しさは原作以上かもしれない。リアルでかつ激しく違和感があるところが素晴らしい。記憶があやふやだけれど大林宣彦の『HOUSE』がこんな感じだったような気がする。しかし高橋恵子さん、この役よく受けたな。
<脚本:渡辺雄介、演出:井口昇>
■第3話「異世界への扉」。うなぎ婆さんの過剰なアップ。頭で五寸釘を打つ赤子の部屋からモノリスの扉を開いて静かな青い湖畔へ切り替わる場面の流れ。魚のバケモノに食べられそうになる栞の背後で無関係に佇む白鳥。オチは苦しかったけれども、映像作品としては面白かった。ムリに話をつなごうとしなければもっと跳べたかもしれないのに。ちょっと残念。
<脚本:ブルースカイ、演出:富永まい>
■第4話「ためらい坂」。坂道はやっぱり絵になる。原作に忠実であろうとすることで生じる「無理」を坂道の迫力がうまく押さえ込んでいた。宇論堂に現れた段先生の奥さんも面白かったけれど、一番面白かったのはケーキ屋のお父さんが「ゲルマン」さんだった、というところか。
<脚本:江本純子(毛皮族)、演出:富永まい>
■第5話「長い廊下伝説」。ワンレンボディコンの紙魚子は少し寒かったけれども、サクラの樹の下での10年前の約束、ラストの強烈な(笑)デュエットが素晴らしかった。「意味が良く分からないんだけれど、なんか良かったみたい。」というドラマ版『栞と紙魚子』の「型」のようなものが出来てきた気がする。カラオケボックスで歌う段先生の奥さんもいい感じ。このドラマにとって井上順と高橋恵子の夫婦は「寿司のわさび」みたいなものだろう。物語の本筋には介入しないのだけれども絶対に外せない。
<脚本:渡辺雄介、演出:清水厚>
■第6話「ゼノ夫人のお茶」。ちょっと今回は厳しかった。ゼノ奥さんの話に「ジョン」が出ないのはどういう了見だ!とは言わない。けれど、『忘れもの』が「階段の下り方」とか「メガネのかけ方」とかいうのでは、「忘れてしまいたい嫌なことも自己を構成する大切な一部である」という哲学の欠片も感じさせない。『忘れ物』は本来その人が実存をかけて対峙しなければならない程に重要なものであるはずだ。
唯一、友達の家族が変な植物に取り込まれているところが「らしい」ところだけれど、「それ」はタダ気持ち悪いだけで、「新たな幸福論」を提起することには完璧に失敗している。かなり残念な回だったけれど、それが6話目にして初めて出てきたということにむしろ仰天すべきなのかもしれない。
<脚本:ブルースカイ、演出:清水厚>
■さて、後半戦。
そろそろ、きとらさんも猫のボリスも登場するらしい。ますますドラマとしての難易度はあがっていくけれど、そこをどう料理して愉しませてくれるか、とってもたのしみである。でも、いままでの感じだと「夜の魚」とか「何かが街にやって来る」とかの大規模な話はちょっと無理っぽいかな・・・。
それはそうと、ムルムルはまだ登場しないのだろうか?公式サイトでは随分増殖しているようだけれど。もしかすると、今までの放送の画面のスミッコで密かにダンスを踊っていたりして(笑)。
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■栞と紙魚子の生首事件 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
■原作 『栞と紙魚子』シリーズ全5巻
■DVD 『 栞と紙魚子の怪奇事件簿 』
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■★★★★★(1件のレヴュー)
<2008.02.12 記>
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■関連サイト■
■『栞と紙魚子の怪奇事件簿』動画配信公式サイト
↑なんと今までの放送が公開されています。日テレの英断に拍手!
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■スタッフ■
■原作:諸星大二郎「栞と紙魚子」
■脚本:渡辺雄介、ブルースカイ、江本純子(毛皮族)、小林雄次
■演出:井口昇、富永まい、清水厚
■音楽:平野義久
■主題歌:「赤い胃の頭ブルース」eastern youth
■企画制作:日本テレビ
■キャスト■
■栞:南沢奈央
■紙魚子:前田敦子(AKB48)
■洞野:山根和馬
■宇論堂主人:橋本じゅん
■段一知:井上順
■段一知の妻:高橋恵子
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