■Nスペ、最強ウイルス・ドラマ『感染爆発~パンデミック・フルー』。新型インフルエンザの前に成す術無く崩れ去る対策シナリオ。
最近のNHKは本当にセンスがいい。
「ドラマ」としての完成度の高さにこだわったところが、この作品を「本物」へと押し上げている。
■悪夢は日本海に面した寒村で始まる。通常のインフルエンザと異なる激しい症状をみせた少年から「H5N1型新型インフルエンザ」が検出され、しかも患者は村中に急速に拡がっている。
県は新型インフルエンザが発症した村を封鎖。だが封鎖の前、すでに第一発症者の少年と接触した青年がウイルスを都内へ持ち込んでしまっていたのだ。
東京を中心に爆発的な感染力で拡大していく新型インフルエンザ、その過程で一体なにが起こるのか、90分のドラマとして一気に見せる。
■こういうドラマの場合は大抵、究極のピンチを救うヒーローが登場するものである。このドラマの主人公、田嶋哲夫(三浦友和)にもそれを期待するのが普通だろう。
大学医学部の教授選でつまづいたところから流れ流れて、今では町の総合病院の副院長に収まり、ヤル気のない日々を過ごしている。
感染症の専門家として能力もパワーも秘めたこの男がいつ本領を発揮するのか。
感染が都内全域に広がり、地方にも拡大。抗タミフル性を持ったウイルスさえ発生し、まさに打つ手なし。
さて、出番だぞ。というところで田嶋が口にしたセリフは、
「ムリだ。」
■拡大していくウイルス感染を止める手立ては無い。
その「無力さ」が、却ってドラマに真実味を持たせることに成功している。
前立腺がんで余命幾ばくも無い老人(藤村俊二)、都内にウイルスを持ち込み、自らは奇跡的に回復したフリーターの青年。
止めることの出来ない最悪の状況の中で、いったい自分になにが出来るのか。
■田嶋は大所高所から対策指揮を執る立場ではなく、あえて現場に踏みとどまり、目の前で失われていこうとする命を救うことにこだわった。
その姿は、新型インフルエンザが始めに発生した寒村における唯一の医師であり、老体にムチを打って村の人たちを救うことに文字通り命を投げ出した田嶋の父、石五郎(佐藤慶)と重なり合う。
その偶然は、藤村俊二と青年の繋がりも含め、ご都合主義を乗り越え、「運命の悪戯」として見るものの感情に触れる。
■「その時、何が起きるか」を、上空から眺める情報番組的な視点ではなく、そこに生きる一人ひとりの視線で捉える。
ノンフィクションが「現実を伝える」ことを目的にするのであれば、手段は違えども、こういう手法もありだろう。中途半端なドラマ仕立てであることを潔しとせず、とことん「ドラマ」であることにこだわった作り手の気概によってその試みは成功に導かれている。
■また、そこに発生するであろうパニックをことさら強調して視聴者を煽り立てるようなシーンを意識的に排除したところに、「伝え手」としての良心が感じられる。
それは衝撃的映像で危機感を煽ることに重きを置いた、地球温暖化に関する最近のマスコミ報道の安直な姿勢とは対照的であり、その落ち着いた、真摯な姿勢こそがジャーナリストとしての「伝え手」に本来求められているものなのだとおもう。
その問題が深刻であれば深刻であるほど、そこには冷静な姿勢が求められる。やみ雲に不安な感情に訴えたところで、決して問題の解決にはつながらないのだから。
<2008.01.13 記>
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■【書評】『H5N1型ウイルス襲来』
新型インフルエンザから家族を守れ!岡田 晴恵。今、できることは何か。
■『パンデミック・フルー』
新型インフルエンザ Xデー ハンドブック
岡田 晴恵 著 講談社 (2006/10/24)
<Amazon評価>★★★★ (レヴュー数 7件)
■この番組の元ネタはこのあたりにありそうだ。著者の岡田 晴恵さんは、国立感染症研究所の現役研究員なのだそうで、来るべき「その時」に備えて一体どうすればいいのか、的確なアドバイスが受けられるとおもわれる。
けれども、この煽り立てるような「表紙」はなんとかならないか。本文にあげたのと同じ理由で出版社としての良識を疑う。そこに透けて見えるさもしい「商魂」は、逆にその信憑性を低下させることを知るべきである。
と、偉そうなご高説をぶつ割りに早速ショッピングカートに入れてる自分もかなりなミーハーなワケだが。
■岩波新書 『新型インフルエンザ―世界がふるえる日』
山本 太郎 著 岩波書店 (2006/09)
<Amazon評価>★★★★★(レヴュー数 8件)
■こちらは「良識」の岩波書店。著者は外務省国際協力局多国間協力課で開発途上国での感染症対策に従事してきた、まさに「現場」の方のようである。冷静な視点を期待できそうだ。
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