■「自分の時間」と「社会の時間」。『爆笑問題のニッポンの教養』 システム生物学、上田泰己。
今回のテーマは、体内時計。
上田先生は「体内時計」を切り口に生命をシステムで捉えようとする新しい生物学界のホープである。しかも、若干32歳で研究チームを率いるリーダー職。すごい人がいるものである。
■『爆笑問題のニッポンの教養』(番組HPより)
FILE021:「『体内時計』は いま何時?」 2007.12.04放送
理化学研究所システムバイオロジー研究チーム
チームリーダー(システム生物学) 上田泰己
■体内時計はカラダのいたるところに「時計細胞」というカタチで存在し、それぞれの時間を刻んでおり、放っておくと次第にそれぞれの時計がずれてくる。
実はそれらの時計の基準になる時計が脳内の「視交叉上核」という2mm程度の組織にあって、体中の時計細胞は、この「視交叉上核」とネットワークでつながることによって、全体として同じ時間を刻んでいるのだ。
上田先生は、「真夜中に強烈な光を浴びると体内時計が止まってしまう」という30年来解けなかった不可解な現象の仕組みを解明し、「真夜中に強烈な光を浴びると体中の体内時計の時間がバラバラとなり、あたかも時計が止まっているように見える」ということを実証したことにより世界にその名をとどろかせた。
■「体内時計」においてとても重要なことは、人それぞれに体内時計の時の刻み方が違っており、社会一般の物理学的に定義される時間とは異なるということだ。
例えば一年を通して考えてみた場合、世の中には冬場に「冬眠」したいという人もいるのだという。
マユツバだなぁと思うことなかれ。
冬の日照時間が極めて少ない北欧の人たちには、冬場にウツになる人がいるらしい。
なるほど確かに自分のことについて考えてみると、冬の夕暮れ時は妙に寂寥感を感じるわけで、それも自分の体内時計のリズムは夏場に丁度良く設定されているのかもしれない。
それでも、「私は冬が苦手なので仕事は休みます」なんてことは許されるはずもなく、キッチリと物理学的に定義された時間の中で、社会は無情にもキチッキチッと進んでいく。
無機質な蛍光灯の光に煌々と照らされたオフィスから一歩も出ることなく、朝も昼も夜も、冬も春も夏も秋も無く常に働き続けるいまの仕事のスタイルの中で、そういった「自分の時間」も麻痺してしまっているのだろう。
こう考えると実に非人間的な生活を送っているなとしみじみ思う。
■後半戦は、予定通りに太田の「脱線」が始まる。
世代の差なんてお構いなく、おもむろに「みつばちマーヤ」を語りだす太田。
楽しくてしょうがないと飛び回るチョウチョをマーヤがうらやましがる話があって、太田は、蝶はイモムシから変身した経験があるから楽しいのだという。
これは人生哲学として随分深い話で、暗い青年時代を過ごした太田ならではのコトバであるとおもう。
太田の目には、上田先生がいかにも安定した人格をもっているように見える。それは、挫折を経験せず順風満帆に生きてきたであろう上田先生への妬みでもあり、自分の人生に対する自信の裏返しでもある。
だが、飄々と「常に変わりながらも、全体として安定してるように見えるのが生物だ」と力みの無い回答をする上田先生はどこまでも優等生的で、その太田とのコントラストが面白い。
どうでもいい話かもしれないが、「これから蝶に変身するかもしれないという期待をもっている」という太田に、「今のお前がイモムシだったら、とてもじゃないけど付き合いきれねえ」と突っ込む田中のタイミングが素晴らしく、場違いな感動を覚えた。
改めて、田中あっての太田なのだなぁ、と再確認。
■話の締めくくりとして、これからの生物学について水を向けられた上田先生は「今、生物学は、原爆に対するアインシュタインの相対性理論確立と同じような場面にある」という。
なんだか穏やかでない話である。
今までの生物組織を分解して調査・分析して理解するという方法から、あたらしい細胞を作り出すことによって、その仕組みを理解するというフェーズに移行しつつあるのだという。
それは、「命ってなに?」という問いにダイレクトに答えることになるだろう。そして、その生物学における「相対性理論」的跳躍は上田先生の世代で行われる可能性が高い、というのだ。
物質の質量が膨大なエネルギーに転換することが分かったことで、広島、長崎の悲劇が生まれた。
その過ちは繰り返さない、研究は倫理学や哲学のメンバーと確認しながら進めている、と先生はいうけれど、太田がいうように、それは決してコントロールできるものではないだろう。
知識とは「発見するもの」ではなく、ある状況がそろった時に「自然と生まれてくるもの」であり、ジグソーパズルがある程度完成したときに突然それが何であるかが分かってしまうように、「突如としてと認識されるもの」だとおもうからだ。
世の中は理路整然と動くものではない。
だからこそ、生きていくということは面白いのだ。
<2007.12.17 記>
■『脳の時計、ゲノムの時計』―最先端の脳研究が拓く科学の新地平
ロバート・ポラック 著 早川書房 (2000/11)
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■ものを感じ、意識し、覚える。これらの活動のメカニズムに大きな役割を果たす「体内時計」の秘密とは。脳とゲノムと時間の驚くべき関係を感覚・意識・無意識・記憶などの最新研究と鋭い洞察で解き明かす。(説明文より)
■新書 『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学』
本川 達雄 著 中公新書 (1992/08)
<Amazon評価> ★★★★☆(レヴュー数 27件)
■一生のうちに脈打つ心臓の心拍数がゾウもネズミも同じく約20億回であるという話には驚いた。ゾウはゆったりとした時間を、ネズミはくるくると忙しい時間を生きているように見えるけれど、実はゾウもネズミも主観的な人生(?)の長さは全く同じなのかもしれないのだ。
「生き物のサイズの違い」を切り口にした目からウロコの面白い本である。
■爆笑問題のニッポンの教養■
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コメント
>冬場に「冬眠」したい人
それって私の事かも?です^^;寒いのは、かなり苦手ですが、
ぬくぬく・ぽかぽかの冬場の「コタツで昼寝zzz」は大好き!
今年も仕事納めは一足お先に・・・21日から年明け6日まで、
まさに冬眠状態の日々が待っています。
仕事にブログ、読書や写真など趣味のいろいろ、そしてきっと家事や育児にも参加され、24時間をとても有意義に過ごされていらっしゃる電気羊さんの「時の刻みかた」 ぜひぜひ見習いたいです^^
投稿: 臨床検査技師 | 2007年12月19日 (水) 18時20分