■映画 『手紙』。「運命」と決別し自らの足で歩くということ。
「運命」とは理不尽で不幸な人生に対して、「なぜ?」とその理由を問いかけたときに生まれてくるものである。
●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
No.10 『 手紙 』
監督: 生野 慈朗 公開:2006年11月
出演: 山田孝之 玉山鉄二 沢尻エリカ 他
■日曜の夜、テレビで東野圭吾の『手紙』を見た。
おっ、これが噂のぷっつん女優・沢尻エリカ様かと眺めていたら、いつの間にやらグイグイと引き込まれてしまった。
これが、なかなかいい演技をするのである。
何故、そこまで主人公に寄り添い、尽くすのか?
その現実にはあり得ない【存在】を破綻なしに演じきるのだから、それはもう並大抵の演技力ではないのだ。
■ストーリー■
兄・武島剛志(玉山鉄二)は弟・直貴(山田孝之)の学費欲しさに盗みに入り、誤って殺人を犯してしまう。自分の為に罪を犯した兄への罪悪感と、罪も犯していないのに「人殺しの弟」として世間から疎外される不条理との狭間に苦しみ続ける弟。
刑務所から届き続ける兄からの手紙。その姿を遠くから、しっかりと見つめ続ける女・由美子。
逃げても逃げても追いかけてくるいわれの無い差別に対して、直貴はどう決着をつけるのか・・・。
■DVD 『手紙』 スタンダード版
監督: 生野 慈朗 公開:2006年11月
出演: 山田孝之 玉山鉄二 沢尻エリカ 他
<Amazon評価>★★★★ (レヴュー数 46件)
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■
■なぜ、武島直貴は世間からはじき出されなければならないのか。
なぜ、兄からの手紙は不幸を引き寄せるのか。
なぜ、由美子は武島直貴にこだわり続けるのか。
理不尽と不合理に溢れた人生について
「なぜ?」とその理由を問いかけたとき、
その人生は必然性を伴った「運命」として立ち上がってくる。
■強盗殺人犯の弟であることが分かって地方の倉庫へ飛ばされた直貴のところへ、電器販売会社の会長(杉浦直樹)が訪れて優しく語りかける。
犯罪者の親族が世間から遠ざけられるのは当たり前のことなんだ。
みんな、そういう事件とは関わりあいたくない。離れていたい。それは罪の無い犯罪者の親族に対しても同じなんだ。
だから犯罪者は、自分の家族に対してもたらされる不幸についても罪を背負っているんだし、その家族も社会からのつながりが途絶えたところから、ひとつひとつ繋がりを築き上げていかなければならないんだ。
■そのことばは、これでもかこれでもかと直貴を追いかけてくる理不尽な不幸について一定の理由付けを与える。
この唐突に現れる会長は東野圭吾自身なのであろう。
由美子からの手紙でこころを動かされたという筋書きはあるにせよ、「作者の代弁者」が物語に乗り込んできて説明を試みるというのは、かなり危険な賭けであり、下手をすると物語全体が陳腐なものとしてガタガタと崩れ去っていくかもしれない。
けれど、その東野圭吾の主張が「受け入れなければならない理不尽もあるのだ」という厳しいものであるだけに、そこに感動が生まれる。
さらに杉浦直樹の人生の深みを感じさせる演技がその感動に説得力を与え、嫌みを感じさせない。
■役者の好演が説明的なプロットに深みを与え感動に転化することに成功しているという点では、沢尻エリカ演ずる白石由美子についてもいえることである。
借金地獄のなかを父娘で逃げ回ってきた人生はもう終わりにしたい。もう逃げたくない。私は悪くない。しっかりと正面から人生と対峙したい。
その想いは直貴の人生に重なってくる。
だから、不合理な世間の仕打ちから逃げ続ける直貴に対して過剰なまでの想いを寄せ続ける。
■けれど、さかのぼって冷静に考えてみるに、ハイティーン時代の食堂の娘にそこまでの深い想いと覚悟があったのかというと、そこにはかなりの無理がある。
むしろ、直貴が自分の人生について向き合うために周到に用意された装置という印象すらあって、「由美子」という存在自体が非常に説明的なものに思えてくる。
だが、杉浦直樹のシーンから続く物語の勢いと、その「説明的陳腐さ」を上回る沢尻エリカの説得力がドラマを破綻無く転がし続けるのだ。
■直貴は最大の理解者である由美子と結婚し、かわいい子供もうまれ、やっと幸せな人生を送るかのようにみえる。
しかし、やはり理不尽な不幸は必ず追いついてくる。
自分と由美子なら耐えられる。
けれど純真無垢な娘にまで、その理不尽な仕打ちが及ぶに至って、直貴はひとつの決心をする。
「兄貴、元気ですか?
これが最後の手紙です。」
■ここにきて、直貴は創造主たる東野圭吾の手をはなれ、自らの足で歩み始める。
それは定められた「運命」に対する反逆である。
その反逆によって、予定された物語の線路が切り替わり、あらたな方向へと走り始める。
ここまでの不幸な運命が避けることのできない深刻なものであったからこそ、その対比が活きてくる。
■被害者の息子(吹越 満)のもとへ毎月のように送られてきた剛志からの謝罪の手紙。
だが「自分の家族を守るために兄貴を捨てる」と送った最後の手紙が、剛志に今まで理解できていなかった「本当の罪」を気付かせる。
残された遺族や愛する弟のこころを引き裂き続けていた罪。
その罪に気付くことなく「手紙」を書くことで救われようとしていた自分がいるという事実。
■お互いに十分苦しんだ。これでもう終わりにしよう。
被害者の息子の言葉が、抗うことのできない「運命」にひとつの決着をあたえる。
このとき、はじめて直貴は直(じか)に人生と向き合っている。
それは「運命」という「与えられた意味」から人生を取り戻す行為であり、「なぜ?」と問うことなく目の前の道をまっすぐ進むということである。
■刑務所での慰問のステージに立ち、「俺はここにいるぞ。それでも俺は兄貴が大好きなんだぞ。」と、やっと伝えることができる俺になったんだよ。
その「ことば」でない「ことば」は、剛志のこころにも一つの区切りを与え、その苦しみを洗い流す。
刑務所の外では、むすめが遊びの輪に受け入れられる。
剛志にしろ、直貴にしろ、由美子にしろ、直貴のむすめにしろ、たぶん、そのつらい状況はあまり変わることはないだろう。
けれど、自分の人生に「運命」というレッテルを貼ることなく、そのままの自分の人生を歩いていく限り、きっと大丈夫だ。
そういう、後味の良さがとてもうれしかった。
<2007.12.28 記>
■DVD 『手紙』 プレミアム版
監督::生野慈朗 2006年11月公開
出演:山田 孝之、玉山 鉄二、沢尻 エリカ
<Amazon評価>★★★★☆(レヴュー数 22件)
■原作・文庫版 『手紙』
東野圭吾 著 文春文庫 (2006/10)
<Amazon評価>★★★★☆(レヴュー数 156件)
■DVD 『クローズド・ノート』 スペシャル・エディション
監督::行定 勲 2007年9月公開
出演:沢尻エリカ 伊勢谷友介 竹内結子
<Amazon評価>★★★★★(レヴュー数 2件)
■「別に・・・」の舞台挨拶でミソをつけたけれども、沢尻エリカはここでも好演しているようです。
(2008/03/28発売予定。)
■STAFF■
監督: 生野慈朗 『ビューティフルライフ~ふたりでいた日々~』
原作: 東野圭吾 『手紙』(毎日新聞社刊)
脚本: 安倍照雄 清水友佳子
音楽: 佐藤直紀
主題歌: 高橋瞳 『コ・モ・レ・ビ』
挿入歌: 小田和正 『言葉にできない』
■CAST■
武島直貴・・・ 山田孝之 『白夜行』
武島剛志・・・ 玉山鉄二 『牛に願いを Love&Farm』
白石由美子・・・ 沢尻エリカ 『1リットルの涙』
寺尾祐輔・・・ 尾上寛之
中条朝美・・・ 吹石一恵
中条(父)・・・ 風間杜夫
緒方忠夫・・・ 吹越満
平野(会長)・・・ 杉浦直樹
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