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2007年11月10日 (土)

■居心地の良い利己主義。『爆笑問題のニッポンの教養』 数理生態学、吉村 仁。

今回のテーマは、生き残りの条件。

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■FILE:016「生き残りの条件≠強さ」(番組HPより)
静岡大学創造科学技術大学院教授、および
ニューヨーク州立大学併任教授。 吉村 仁(数理生態学)
2007年11月06日放送

■吉村先生は、北アメリカに生息する「素数ゼミ(magi cicada)」が何故13年とか17年周期で大量発生し、その間の年には一匹も生まれない、ということが起きるのか。その仕組みを解き明かしたすごい人なのである。

通常セミの幼虫時代の長さは6~8年程度なのだが、氷河期には成長が遅くなり15年程度になった。その時15年とか16年とか素数でない周期に生まれるセミは他の周期のセミとぶつかり合い繁殖の効率が悪い。

ところが、素数である13年、17年周期では他の周期のセミと発生年が重なり合うことがない為に「選択」され(他の周期のセミが消え去って)氷河期を生き残ったというのだ。

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■素数ゼミの解説

■そこには、「生存競争の勝者が生き残る」という進化のカタチとは異なる論理がはたらいている。

「強い」とか「弱い」とかではなく、純粋に数学的な論理で「生き残る」種が選択されるのだ。

■ダーウィンを悩ませたという、クジャクのオスの見事な尾羽の話も面白い。

メスが健康なオスを選ぶ基準を「ちょっと尾羽が長いほうが好き」、とした途端に「尾羽の長さをいかに強調するか」に特化した競争が極端に先鋭化し、生きていく上で邪魔でしょうがないほどにゴージャスになってしまった。

ちょっとした「差」が次第に大きな渦巻きのように拡大していくイメージは、極めて「複雑系」的である。

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■クジャクのプロポーズについての解説(動画あり)

■一方、クジャクとおなじようにツノの大きさ競争を続けたアイリッシュエルクは、その巨大なツノのために絶滅したとされる。進化の袋小路に迷い込んでしまったのだ。

進化が必ずしも最適な方向に進むとは限らないということだ。

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■アイリッシュエルク(オオツノジカ)
ツノだけで幅3.5m、重さは40キロ。氷河期のヨーロッパの草原に生息したが約9000年前に絶滅。

■進化のカタチは、「こうあれば有利だ」という『目的』を持って進むものではなく、あくまでもいろいろな基準で選択された『結果』なのである。

多様な『基準』があり、その結果として多様な進化があって、多様な生命が現れる。

その多様さこそが生き残る可能性を高めているのだ、と吉村先生はいう。

■3人兄弟の場合一番強いのは長男だが、次男と三男が協力し合うと長男よりも強くなる。

ひとりで生きるよりも、いろいろな生命と協力しあった方が多くの種が生き残ることになる。

そこで重要なのは、その生命それぞれが『利他的行動』をとることである。

それが『弱肉強食の生存競争』と対照的な、『共存』の意味だ。

■そこから太田は跳躍をこころみる。

現在アメリカとイスラムが対立する図式があるが、もしかすると何かのきっかけで宗教とかナショナリズムといった偏狭な価値観が、さーと一気に崩れ去る時が来るのではないか、という太田の理想主義的なヴィジョンは素晴らしい。

が、『徹底的に利己主義である私』を語る太田のほうが、太田らしくてしみじみする面白いアプローチだ。

■いじめられっこだった吉村先生が、なるべくして生物の研究者になって今に至る。という話しから、『居心地が良いところに落ち着く』というコトバが浮かんできた。

そして今、こうして自分の考えを発信できる立場にいること自体が、太田自身、居心地のいいところに収まっているのだな、と気付く。

いつもとなりにいるやつ(田中)に響かないようなことを、番組を見ている見ず知らずの人が「しっかり受け止めてくれている」ということに幸福感を覚えるのだという。

■実はその居心地のいい幸福感に

『利己主義』が同時に『利他的』である。

ということを可能にする魔法があるのかもしれない。

■『利他的行動』が心地よいと感じる『利己主義』。

例えば前回の精神医学の斎藤先生の場合、患者さんに「親切」であることが心地よいのであって、自己犠牲でもなんでもなく、純粋に利己的なのである。

そう考えるとそれはもはや魔法でもなんでもなく、われわれに当たり前に備わった感情であり、堅苦しくいうと道徳とか美意識とか、やわらかくいうと「あなたが笑うとわたしはうれしい」とか、そういったものなのではないだろうか。

徹底的利己主義だ!とツッパる太田にしたところで、やはり理解されることがよろこびだと言った時点で、他人(ひと)とのつながりを大切に思うという価値観の中にいるわけである。

■グローバルな競争至上主義の波と、最近流行りの『江戸しぐさ』。

人類として、果たしてどちらが生き残る可能性の高い戦略なのか。

聖徳太子の時代より和をもって尊しとなしてきた日本人として馴染みやすいのがどちらか、というのは訊くだけ野暮である。

SF作家のP.K.ディックが 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』で提示した「人間らしさ」の条件が『感情移入』であったことは、その価値観が欧米文化でも受け入れられる余地があることを指し示しているように思われる。

■けれど、その「思いやりのある、利他的な価値観」を『正しい』こととして心理的に強制するような社会は、それはそれで居心地が悪い。

その価値観がひとりひとりの内から立ち現れる『利己的な』ものでなければ、居心地の良さはあらわれてこないのだ。

そのような多様な個性を尊重する緩やかな価値観が世界に拡がるとしても、きっとそれは政治によるものでも宗教によるでもないだろう。

■進化は『目的』をさだめて進むものではなく、多様な基準を試す繰り返しの中から『結果』として現れる。

クジャクのメスの間に「少しだけ尾羽が長いオスが好き」という基準が静かにひろまったことが結果として壮麗なクジャクの尾羽を作り上げたように、今を生きる我々ひとりひとりの中から、ふっと自然に生まれる感情がゆっくりと拡がっていく。

大抵はシャボンの泡のように消えてしまうその感情の拡がりが、寄せては戻る波打ち際のように千にイチ、万にイチ、億にイチ、繰り返し、繰り返し。

そのなかで、世界に広がる「心地よい価値観」が必ずある。

それが10年後なのか、100年後なのか、1000年後なのか分からない。けれど、われわれにそれを生み出すが能力があるのだと信じることが、今の幸せをもたらせてくれるものなのかもしれない。

                             <2007.11.09記>

■ 素数ゼミの謎
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吉村 仁 著 文芸春秋 (2005/7/12)
<Amazon評価>
 ★★★★ (レヴュー数 12件)
■数学と進化の出会い。 

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■ 生き残る生物 絶滅する生物
吉村 仁・泰中 啓一 著 日本実業出版社 (2007/5/24)
■多様な基準が生む、驚くほど「ムダ」で「いいかげん」な生き物たち。 

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■新書・「負けるが勝ち」の生き残り戦略―なぜ自分のことばかり考えるやつは滅びるか
泰中 啓一 著 ベストセラーズ (2006/09)
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 ★★★★☆ (レヴュー数 3件)
■進化の不思議は人間社会にもあてはまる。

     
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新書版 「爆笑問題のニッポンの教養」

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