■こんな私でいいんです。『爆笑問題のニッポンの教養』 精神医学、斎藤環。
今回のテーマはひきこもり。
■FILE:015 「ひきこもりでセカイが開く時」(番組HPより)
爽風会佐々木病院診療部長 斎藤環(精神医学)
2007年10月30日放送
■精神科医の斎藤さんは引きこもり治療の第一人者であり、かつサブ・カルチャー批評家としての顔も持つ、ふところの深い先生なのである。
その斎藤さんは、今の若者たちをとりまいている空気は、「セカイ系」と呼ばれるサブ・カルチャーにあらわれているという。
■「セカイ系」とは、教室などの【君とボク】という狭い関係から、いきなり【宇宙、異世界】へと飛んでいってしまう。そして、そのあいだに当然あるべき【社会との関係性】がスッポリと抜け落ちている。そういうアニメやライト・ノベルの作品世界のことをいうらしい。
そこにあるのは現実を一気に飛躍する【万能感】と、ワケのわからない世界でなにも出来ない【無力感】。
象徴的なのが、『エヴァンゲリオン』だ。
対峙する【敵】の正体がわからない。下手をすると【自分】さえもわからない。
何のことは無い。
それは高度経済成長の真っ只中に生まれ、生活になんの不自由も感じずに成長した我々1960年代生まれの世代が青年期にそのこころの中に抱いたあの「頼り無げな感情」なのではないのか。
■「セカイ系」なるものが高度成長期に育った庵野秀明の心象風景から生み出されたものであるならば、戦時中に生まれた富野喜幸が作り出した世界観と決定的に異なるものになるのは当然のことであろう。
『エヴァンゲリオン』 の空虚なセカイと、『ザンボット3』
、『ガンダム』
、『イデオン』
といった富野喜幸の作品を並べたとき、富野作品が「どうしようもない人間の性(さが)」を「思うようにならない世の中」と対峙させることでその登場人物に人格としてのリアリティを与えていることに改めて気付く。
その対比は、乗り越えるべき困難が明確であった世代と、すっかり祭りが終わった後に生まれ、何をすべきかがハッキリと見えない中で育った世代の対比そのものではないだろうか。
要するに「セカイ系」的な【万能感】と【無力感】は、生き物として生き抜く努力が不要となった1960年代以降に育ち、目標を見失った世代に科せられた悲劇なのではないか、ということだ。
■豊かであることが、生きていることの意味を喪失させる。
なんとも逆説的で皮肉な話である。
それでも淡々と生きていける人(田中 裕二)は、それでいい。
だが、感受性の強い人間(太田 光)は、生物として満たされてしまっているが故に、逆に空虚なものを自分の胸の内に感じ、そこのあるべき「何か」を捜し求めてしまうのである。
■太田が高校時代に味わった「孤独感」。
『自分』があり過ぎるとコミュニケーションが下手である。
と太田が自ら語ったように、まわりが拒絶するのではなく、自分から壁をつくってしまうことによって、その「孤独感」は生まれ、維持されていく。
自分で自分が信じられない。認めることが出来ない。
それは美意識が高すぎる、『自分』に対する理想が高すぎるのだ。
■ピカソの『泣く女』を見て、「なんだ、これでいいのか~」と、『純粋でない自分』を許せるようになった。と太田はいう。
あくまでも、『自分』の問題なのである。
■そこで、斎藤さんは精神分析学者 ハインツ・コフートの言葉、
人生とは自己愛の成熟の過程である。
を引用する。
自分を認めること、そして自分が大切に思う人たち(自己対象)に認められていると感じること。その対象が、母、父、兄弟、友達と拡がっていく中で、人は社会的存在として成熟していくのである。
そしてその自信が、大切な人から『自分が大切に思われていると感じること』を足がかりにしているが故に、どこまでいっても『自己愛』からは逃れられない。
■みんな病気。あるのは程度の差だけです、と斎藤さんはいう。
本当にそのとおりだと思う。
人生のどこかでつまづいたとしたならば、そこで一回原点に立ち戻り、自分を許すこと、家族の愛情を確かめること。
そこから、再スタートすればいいのだ。
慌てることはない。人生は、死ぬまで続く長い道のりなのだから。
<2007.11.04 記>
■追記■
診療にあたっての斎藤さんの信条は、『愛は負けても親切は勝つ』というカート・ヴォネガットの言葉だという。『愛』は毒をはらんだものであり、時に不幸を呼ぶこともある。精神科医としてのキャリアを考えると実に深いコトバである。
『親切』・・・いい言葉を学んだ気がする。
■新書 社会的ひきこもり―終わらない思春期
斎藤 環 著 PHP新書 (1998/11)
<Amazon評価> ★★★☆ (レヴュー数 23件)
■"人格形成の枠組みを作る期間"である思春期が何らの理由によって続いていく。ひきこもりの基本ラインを理性的かつ正確に押さえた類い希な一冊と言える。(レビューより)
■自己愛の構造―「他者」を失った若者たち
和田 秀樹 著 講談社 (1999/10)
<Amazon評価> ★★★★ (レヴュー数 1件)
■番組の中で触れられた精神分析学者コフートの世界観について、やさしく深く語られている本のようです。
■ 国のない男
カート・ヴォネガット 著 日本放送出版協会 (2007/7/25)
<Amazon評価> ★★★★☆(レヴュー数 9件)
■番組の最後に語られたヴォネガットの遺作。太田 光が紹介文で大絶賛しています。
■爆笑問題のニッポンの教養■
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コメント
自分で書き込みです。
記事に一部推敲の上、修正を加えました。
今日、読み直してみたら中盤あたりが全く意味不明になっていたことに気がついてしまって、ホント恥ずかしい限りです。
既に読んでいただいた方、すみませんでした。
まだまだ文章修行が足りませんネ。
精進、精進。
投稿: 電気羊 | 2007年11月 6日 (火) 23時15分