■映画 『姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)』。脳という名の迷宮。偉大なるB級映画。
横溝正史の「因習」と江戸川乱歩の「奇怪さ」が合わさったような、そういう雰囲気をもった映画だ。
●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
No.06 『姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)』
監督:実相寺昭雄 公開:2005年7月
原作:京極夏彦 出演:堤真一 永瀬正敏 原田知世
いわゆるB級映画である。
シナリオはいたるところで無理がある。実相寺監督の演出も冷静にとらえれば引いてしまうだろう。
だから、細かいことを気にしてはいけない。
ほとばしるイメージの迷宮を右脳で味わう。それが、この映画の正しい見方である。
(ホントか!?ちょっと苦しいぞ・・・。)
■ストーリー■
昭和27年夏、東京。小説家の関口(永瀬正敏)は、「20ヶ月ものあいだ妊娠しつづけている女がいる」という噂を聞きつけ、そんなことがあるものかと、古書店「京極堂」を営む旧友、中禅寺(堤 真一)のもとを訪ねる。
博識な彼の助言に従い、相手の過去を覗く眼をもった探偵、榎木津(阿部 寛)に相談を持ちかけようとする関口だったが、そこに失踪した妹の夫(恵俊彰)を探してくれと久遠寺涼子(原田知世)が現れる。彼女と瓜二つの妹、梗子(きょうこ)こそが、「生まれない子」を宿した謎の妊婦だったのだ。
産科を営む旧家、久遠寺家で一体なにが起きたのか。さまざまな人間を巻き込みながら事件は絡み合い、謎は次第に深まっていく・・・。
(※原作は読んでいないので小説版との不整合があるかもしれませんが、ご容赦ください。)
■DVD 『 姑獲鳥の夏 』 プレミアム・エディション
<Amazon評価> ★★ (レヴュー数 45件)
■■■以下、ネタバレに注意。■■■
■事件の真相を探ろうとする男が、実はその事件に大きく係わっていることが次第に明らかになっていく。話の展開としては好みのパターンだ。
榎木津は捜査のはじめの段階で事件の真相を目撃し、京極堂は端(はな)からその事件のことを知っているらしい。
「見ているのに、見えていない。」
取り残された関口は、次第に湧き上がってくる「幻想」を頭から振り払おうとするのだが、ぐいぐいとその沼に引きずり込まれていく。
観客は主人公の関口とともに、その暗い迷宮をさまようことになるのだ。
■監督は、幻想と現実が入り乱れる映像を得意とする鬼才、故・実相寺昭雄(1937-2006、享年69歳)である。
かなり強烈な演出をするので好みは分かれるところだが、一度はまるとクセになる。
斜めに傾いだカット、超広角レンズによる強烈な空間のゆがみ、望遠で浮き上がらせた登場人物の派手なアップ、かと思うと画面の下に登場人物ポツンと置かれる不安な構図や舞台演劇のようなスポットライトの多用。唐突なシーンのつなぎ方。
これだけ無茶苦茶をやって、破綻をきたさないところが実相寺監督の老練さだ。
■演技では、終盤、涼子が救われるシーンでの原田知世が光っていた。セリフなしのシーンなのだけれど見ているこちらまで救われるような演技であった。
「ありがとう」と小さくつぶやく口もと。
この一瞬のために、124分間の物語があったといっても過言ではない。素晴らしい。
■永瀬正敏の関口も、寡黙で内にこもるような性格が強い存在感とともに現れていて好演。こちらも黙っているだけで絵になるのだからニクい役者である。
次回作「魍魎の匣(もうりょうのはこ)」では体調不良(腎尿路結石
■涼子、関口といった「幻想」の世界へ行ってしまった人間に対し、現実にすっくと立った京極堂(堤 真一)の涼しげな印象もこころに残る。
「不思議なものなど何もないのだよ、関口君。」
その、ちょっとわざとらしいくらいのセリフの加減が心地良かった。
■遊びとしては、水木しげる役、鑑識課員役で登場した京極夏彦のとぼけた演技も捨てがたい。
けれども、エンドタイトルをしみじみと味わったところで唐突に現れる京極堂。
これだけは、どうしてもイタダケナイ。まさに「蛇足」。
2時間かけて作り上げた作品の世界観がぶち壊しである。
実相寺さんの名誉のためにも、ここはカットしたほうがいいと思うのだが・・・。
■DVD 『 姑獲鳥の夏 』 プレミアム・エディション
監督:実相寺昭雄(2005年7月) 原作:京極夏彦
出演:堤真一 永瀬正敏 原田知世
<Amazon評価> ★★ (レヴュー数 45件)
■それにしても低い評価。かえって清々しいくらいだ。
<2007.10.05 記>
■スタッフ■
監督:実相寺昭雄
原作:京極夏彦
脚本:猪爪慎一
美術:池谷仙克
音楽:池辺晋一郎
■キャスト■
中禅寺秋彦(京極堂):堤真一
関口巽 :永瀬正敏
久遠寺涼子/梗子(二役):原田知世
* * * * *
榎木津礼二郎 :阿部寛
木場修太郎 :宮迫博之(雨上がり決死隊)
中禅寺敦子 :田中麗奈
* * * * *
中禅寺千鶴子 :清水美砂
関口雪絵 :篠原涼子
* * * * *
久遠寺牧朗 :恵俊彰
久遠寺嘉親 :すまけい
久遠寺菊乃 :いしだあゆみ
* * * * *
内藤 :松尾スズキ
原澤伍一 :寺島進
戸田澄江 :三輪ひとみ
澤田富子 :原知佐子
* * * * *
水木しげる(傷痍軍人):京極夏彦
■DVD 怪奇大作戦 Vol.6
<Amazon評価> ★★★★★(レヴュー数 16件)
■実相寺監督作品「呪いの壷」、「京都売ります」を収録。ともに怪奇大作戦の中でも名作といわれる作品。(1969年放映)
「姑獲鳥の夏」のラストで全ての業を焼き尽くす炎上シーンがあるが、その原点はこの「呪いの壷」にある。
■ ドグラ・マグラ
夢野久作 著 角川文庫 上下二巻 (1976/10)
(昭和十年一月、書下し自費出版)
<Amazon評価> ★★★★☆(レヴュー数 39件)
■直接は関係ないのだけれど、「姑獲鳥の夏」を見終わって、まずアタマに浮かんだのがこの小説。「読むと精神に異常をきたす恐れがある奇書」、と言われるだけのことはあって読むものを迷宮に誘い込む。勇気のある方は是非。
■原作「姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)」
京極夏彦 著 講談社文庫 (1998/09)
<Amazon評価> ★★★★ (レヴュー数 112件)
■京極堂シリーズ第一弾。未読。今さらだけど読もうか思案中。(たぶん嵌まると思う。)
■京極堂シリーズ続編「魍魎の匣(もうりょうのはこ)」
京極夏彦 著 講談社文庫 (1999/09)
<Amazon評価> ★★★★☆(レヴュー数 68件)
■まさにレンガ!1000ページ以上あるそうです。
でもシリーズ最高傑作とまでいわれると気になるものである。
■映画 『魍魎の匣』公式HP(2007.12公開予定)
監督、脚本は『突入せよ!あさま山荘事件』の原田 眞人。
見てから読むか、読んでから寝るか、あれ?
■■■ もくじ ■■■
名画座【キネマ電気羊】
http://soko-tama.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_15a5.html
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コメント
こんばんは。
「姑獲鳥の夏」原作は京極ファンの娘の影響で読み、その後映画版はDVDで、娯楽映画(?)として楽しませてもらいました。
キャストは原作のイメージにかなり近いと思いました。
「魍魎の箱」はまだ読んでおりませんが(たしかにレンガ、文庫版でも5㎝程も!)、娘は、あれ映像にできるの?と申しております。
関口役の永瀬さんの降板、とても残念です。
投稿: 臨床検査技師 | 2007年10月 5日 (金) 22時16分
実は映画をみてこんがらがったところがあって「姑獲鳥の夏」の最後のところだけ立ち読みしてしまいました。
とても読みやすい文体だったので、レンガでも読みきれるかな、という印象です。
やはり「姑獲鳥の夏」から読んでみようかという気になってきました。
投稿: 電気羊 | 2007年10月 6日 (土) 13時26分