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2007年10月16日 (火)

■【ひつじの本棚】『生物と無生物のあいだ』 福岡伸一。生命は不可逆であるが故に、その一回性が美しい。

非常に読みやすい科学本、という評判を聞いて早速読んでみた。

■『生物と無生物のあいだ』
福岡伸一 著 講談社現代新書 (2007/5/18)
<Amazon評価>
 ★★★★ (レヴュー数 103件)
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■たしかに読みやすい。

外国の科学者が一般向けに書いた良質な科学本の匂いがする。日本人では、なかなかこういう科学本は書けない。

簡単にいってしまうと、「ストーリーテラー」なのである。

科学を「物語」として語る。

その手法として、「対象」そのものではなく、対象の「周辺」を丁寧に描き出す。そのことで「対象」は、より立体的に、より共感、共鳴できるものとして立ちあがってくるのだ。

研究に没頭し、日々を消費していくような生き方をしていたのでは、到底こういう文章をつむぎ出すことは出来ない。

足を止め、一見なにもなさそうな水辺をじっくりと眺めることで、そこに生命が息づいていることを発見し、そこに幸せを感じる。そういう「等身大」の感性が、読者をひきつけるのであろう。

■「生物と無生物のあいだ」というタイトルから内容を期待して読むと当てが外れる、という書評が多かったが、全くそのようなことはない。

「生物とは、自己複製するシステムである」という一般的理解から、一歩踏み込んだ理解を得られ、自分を含めた「生命」というものの見方が変わる。そういう本である。

■我々の体を構成している細胞は、一見変化していないようにみえるけれども、実は細胞を構成する分子は常に入れ替わっている。

それは、脳の神経細胞だろうが、骨だろうが、歯だろうが全ての細胞にいえることなのである。

しかも、そのスピードは非常に速く、ねずみの場合は、たったの3日でカラダを構成するたんぱく質が入れ替わるというのだ。

■だが、次々とたんぱく質が入れ替わっていっても、間違ったたんぱく質の配置になることはない。

新しいたんぱく質が収まるべき指定席は、その周囲のたんぱく質によって確保されている。あたかも、一つだけ外れたジグソーパズルのピースのように、そのたんぱく質のみが、その隙間にはまり込むことができる。

それゆえに、日々壊れ、日々生成していく流れの中にあっても、細胞は安定した姿を保つのだ。

■「生物」と「無生物」を分けるところはどこにあるのだろうか。

構成分子が日々入れ替わるというところか?

いや、この物語は、さらに生命の本質について踏み込んでいく。

■ある機能を持ったたんぱく質を作ることが出来ないように遺伝子を操作して生まれてきたラットはどうなってしまうのか?

当然、そのたんぱく質が持っていた機能を損なったラットが生まれてくるだろうと予測される。

だが実際には、他のたんぱく質がその機能を補い、通常と何ら変わらないラットが生まれてくる場合があるのだという。

■生命とは、機械のように「設計図によって決まったもの」ではない。発生から成長していく過程で、自分自身及びまわりの環境に合わせて変化していく柔軟性を備えたものなのである。

その柔軟性は時間の流れの中で発揮される。

一度、その柔軟性によって変化をおこすと、その変化が後々システム全体にどういう影響があるかは、その影響が見えてこない限り分からない。

ただ言えることは、生命というシステムが時間の中で成長していったときに発生した変化は不可逆であり、二度と元には戻らない、やり直すことは出来ない、ということだ。

■著者はエピローグにて、その「生命の一回性」の持つ重みを、自らの少年時代の体験談として描いてみせる。

科学に関する新書を読んで文学的な感動を味わえるとは思っても見なかった。

最期まで「等身大」で語ることを貫いた著者の福岡さんは、やはり本物のストーリーテラーなのであった。

                     <2007.10.16 記>

■『生物と無生物のあいだ』
福岡伸一 著 講談社現代新書 (2007/5/18)
<Amazon評価>
 ★★★★ (レヴュー数 103件)

   
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生命とは何か? ええ、なんだか敷居が高そうだ、 そう思っていたが、意外や意外、 テーマの高さが気にならなくなっていくから、 不思議である。 [続きを読む]

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