« ■おしりかじり虫。脳みそへの波状攻撃。 | トップページ | ■ もくじ ■ 飛行機、宇宙の話など »

2007年9月20日 (木)

■【ひつじの本棚】『自己組織化と進化の論理』 S・カウフマン。今、生きていることは偶然ではないのだ。

「全体とは、部分の総和以上のなにかである」 - アリストテレス(BC384-322)

■40年間安定を保っていたソ連は、なぜ急激に崩壊したのか。

株の大暴落はなぜ起こるのか。

自然淘汰によって目や腎臓といった複雑な組織がなぜ発生できるのか。

そもそも生命とは何なのか・・・。

対象物を細かく分解してその仕組みを理解していこうという『還元主義』に基づく従来の科学。それは、20世紀の科学を大幅に進歩させた。だが、分解してしまうとその「意味」を失ってしまう「現象」も存在する。

そういった従来の科学ではつかむことが出来ない現象を「理解しよう」とする試みが、1984年ニューメキシコ州サンタフェ研究所で産声を上げた『複雑系(complex system)』という学問なのである。
■注 :自分の理解した内容についての備忘録(ノート)的な記事になっております。手早く概要をつかみたい方は、下のリンクからアマゾンの書評をごらんください。

Photo_2
■自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法測
スチュアート・カウフマン 著 日本経済新聞社 (1999年9月)
<Amazon評価> ★★★★★(レヴュー数 12件)

■カウフマンは生物複雑系科学の第一人者である。

本書では主に、「生命はどうやって生まれてきたのか」、「進化はどのように進んだのか」、について「NKモデル」というシミュレーションをてこにして、その深層に迫っていく。

■生命が誕生したのは34億5千万年前。46億年前に地球が誕生した後、地殻が冷えて液体の水を維持できるようになってから、たった3億年ほどのあいだに細胞を持った「生命」が誕生した。

自己複製する有機体である「生命」が、「偶然」によって発生する確率は極めて小さい。カウフマンはそれを『台風が物置きを破壊してジャンボジェット機を作り上げるくらいの確率』と表現している。

■生命は「偶然」生じたのではないのだ。

結論としては、高分子の多様さが、ある「臨界点」を越えたとき、ある高分子の組み合わせによる「集団」が、自己触媒反応をおこして自己の複製を始める。

要するに、高分子の世界が一定以上に『複雑』になったとき、自分を複製するような化学反応が生じる確率が急速に高くなる(「臨界」に達して「相転移」する。)、ということらしい。(「相転移」とは、0℃で「液体である水」が「固体である氷」になるように、物質の振る舞いが「ある一点」(臨界点)で大きく変化すること。)

■このように自律的に自己を複製するような高分子のまとまりが生じることを「自己組織化」という。だがそれは「生命」だけにとどまる話ではない。

急速に崩壊した「ソ連」のような『社会』、突如暴落する『株式市場』、生物の複雑な仕組みや『生態系』、かつて無い規模で温暖化が進む『地球環境』。これらの全体(システム)は、「自己組織化」されたものなのである。

その「自己組織化」されたもの(『複雑系』)には特徴的な性質がある。

風呂の栓を抜いたときに生じる『渦巻き』は安定的に渦を保っているが、構成する水の分子は常に入れ替わり、かつ微妙にゆらいでいる(『渦散逸系』)。そこに起きる小さな変化は大抵の場合吸収されしまうが、時には小さな変化が連鎖的に増幅され『渦巻き』自体が崩壊してしまうこともある。

その危ういバランスの上で、ゆらぎながらダンスを踊るもの。

それが『複雑系』なのだ。

■では、その複雑な系の進化には、どういう性質があるのだろうか。

「キリンの首はなぜ長いのか、なぜ中途半端な首の長さのキリンの化石は見つからないのだろうか?」

ダーウィンの自然淘汰による漸進的進化で考えれば、非常に奇妙な話である。

■約5億5千万年前、突如として生命は多様な姿を見せるようになる。いわゆる「カンブリア紀大爆発」だ。

生物分類上、「界」に続く上位の分類として「門」があるが、このとき100種もの「門」が生まれ、生命はそれぞれの「門」から「綱」「目」「科」「属」「種」と爆発的に多様な進化を遂げた。

そして、その100の門のうち「脊椎動物門」や「節足動物門」など32の門が自然淘汰の結果、生き残り、今につながっている。つまり、生命の基本構造は5億5千万年前のカンブリア紀においてすべて完成していたのだ。

■その後、約2億5千万年前の二畳紀といわれる時代には、すべての「種」の実に96%が絶滅するという事態が起きた。

このときも生命は多様な進化をするのだが、決して「門」、「綱」といった基本構造に係わる根本的に新しい生命体は発生せず、生き残った「門」、「綱」から新しい「目」「科」「属」「種」が続々と生まれてきた。

■何故、新しい「門」、「綱」は発生しなかったのか?

それは、約5億5千万年前のカンブリア紀において、すでに生命が複雑な進化を遂げてしまっていたからなのだ。

一度、複雑な組織が出来上がってしまうと、根本的な変化が成功する確率は限りなくゼロに近くなる。

受精卵の初期の細胞分裂では、「門」、「綱」を分けているような基本的な構造が作られる。この時点での突然変異は「致命的」な結果に終わる可能性が極めて高い、と言い換えたほうが分かりやすいかもしれない。

■大きなジャンプ(突然変異)が成功した場合、次のジャンプ、その次のジャンプと繰り返していった時に成功する確率は極端に小さくなっていく。

大きなジャンプ(突然変異)の成功の後には小さなジャンプ(変化)、その次にはもっと小さなジャンプ(変化)しか成功する確率がなくなってくるのだ。

結果、1回目にジャンプした場所の周りの狭い範囲で最適解を探していくことなり、「中途半端な首の長さのキリン」は発生しない、ということになる。
(「キリンの首」の話が直接この本で語られている訳ではないが、内容からすると、こういう理解となる。)

___2

■ここに「ベキ乗数」という指数関数的に減少していく現象が登場する。

広いテーブルに上から少しづつ砂を落としていく。砂は円錐状の山を築くだろう。そして時折、砂の山肌が雪崩のように崩れる。小さい規模の雪崩は頻繁に発生し、大規模の雪崩は、忘れた頃に発生する。この雪崩の規模と発生頻度をプロットすると、やはり上の図のような「ベキ乗数」に従った曲線を描く。(両軸とも対数をとると直線になる。)

自己組織化された『複雑系』は大抵同じような性質をもっている。

たとえば、ナイル川の氾濫規模とその回数。たとえば、自動車の形態の多様さとその時間的推移。たとえば、工場の作業改善の回数と効果を示す『学習曲線』、・・・。

本書では、特に『進化』について多くのページを割いて語っているが、『複雑系』的な性質をもった経済や環境、技術の進歩といった現象すべてに応用可能な内容なのである。

■カウフマンは、さらに探求をすすめる。

なぜ、『複雑系』は「カオス(無秩序)」に極めて近い「秩序」ギリギリ(「ベキ乗数」で描かれるライン)を目指すのだろうか。

先に論じた進化の話は、ある単独の「種(システム)」について論じていたが、実際には食物連鎖や、共生関係、寄生など、他の「種(システム)」との間で複雑に影響しあいながら進化がすすむ。

そこで、お互いに影響しあう複数の「種」で構成される「生態系」でのシミュレーションで、いろいろな実験を重ねた。

それぞれの種の「システム内の要素どうしの影響度」を変数としてシミュレーションしてみると、その生態系を構成する種はそれぞれ一定の値(臨界点)に向かって収束していく。

「システム内の要素どうしの影響度」が大きい場合は、そのシステムの変化の幅が小さく適応度が低い状態で安定し、自然淘汰により絶滅しやすい。

また、「システム内の要素どうしの影響度」が小さい場合は、そのシステムは収束せず不安定なために絶滅しやすくなる。

そうして「生態系」の中の「生き物(システム)」たちは、お互いに影響を与え合いながら、各々のシステムが収束するギリギリのところを目指して収束していくのだ。(「共進化」

あたかも『神の見えざる手』が存在するかのように。

生命が誕生し進化を続け、我々が今ここに在るのは決して確率論的な『偶然』によるものではない。秩序がゆらぐ限界のところ(「カオスの縁(ふち)」)を目指して、自らが自律的に最適な進化の道を捜し求めるような性質をはじめから備えていたのだ。

これが本書が達した『結論』である。

■では、そういう性質を持つ「複雑系」は、我々とどういう関係にあるのだろうか。

『自動車』が登場したこと(「大きなジャンプ」)で、『馬』が追い払われた、それに連なるように馬車、馬具、蹄鉄屋などが消えていく(「『絶滅』の雪崩現象」)。そして、『自動車』がいったん出回ると、それに関わる石油産業、道路、製鉄などが急成長していく(技術の共進化。新たな『渦巻き』の発生)。

その『自動車』は単独で生まれるのではなく、内燃機関や、機械加工、素材技術など、多様な周辺技術の進歩を背景として生まれてくる。だが、将来『自動車』が生まれるということは、その時点では『予測不可能』なのである。(複雑系の中では、いつ、どんな雪崩が発生するかは、予測できない。)

だが、大規模な経済成長を生む「自動車」のような『革新的技術的進化』を生むためには、周囲に多様な技術が育っていることが必要であり、それが何を生むかわからないからといって、「今、利益をもたらすもの」だけに投資していたのでは次の「大きなジャンプ」は得られない。(カオスの縁、無秩序に陥らないギリギリの多様性。)

それは、技術の進歩や経済成長だけでなく、流行や文化、文明などについてもいえることだろう。

多様性を認め、お互いを尊重しながら影響を及ぼしあう。それが複雑系の自然な状態である。そこに「絶対」というものはなく、「最善」と思った行動が必ずしも「最善な結果」をもたらすとは限らない。その一歩が予想もしなかった雪崩を引き起こすかもしれないからだ。

我々は何も分かっていない。世界は我々が思っている以上に複雑な振る舞いを見せるものなのだ。

それでも、我々は周りへの影響を見まわしながら、各々最善を目指す努力を継続する。

我々一人ひとりも、さまざまな複雑系を構成するひとつの「渦巻き」であり、それが「生きている」ということなのだから。

「各部分が全体のために全体の力を借りて存在し、また全体も部分の力を借りて部分のために存在している」 - カント(1724-1804)

「All for one、one for all. 」 (「三銃士」)- デュマ(1802-1870)

                             <2007.09.17 記>

【追記】何かアイデアを出そうとしたとき、理路整然と組み立てようとしても「面白い」ものは生まれない。思いつくまま、いろいろなことをノートに書いてみて、その過程で自然に「ぽっ」と浮かび上がるもの、それが面白い。或いは数日、そのノートを寝かせてみて、改めて見てみる。そうすると、また別のものが浮かび上がってきたりして面白い。今回、この難解な本と格闘していて、ふっ、とそう感じた。    

Photo_2
■自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法測
スチュアート・カウフマン 著 日本経済新聞社 (1999年9月)
<Amazon評価> ★★★★★(レヴュー数 12件)

_
■複雑系―生命現象から政治、経済までを統合する知の革命
M・ミッチェル・ワールドロップ 著 新潮社 (1996/06)
<Amazon評価> ★★★★★(レヴュー数 16件)
■1984年、ニューメキシコ州サンタフェ研究所ですべては始まった。生物学、物理学、情報工学、経済学。さまざまな知が相互に影響を与え合い「複雑系」の学問がまさに「創発的」に発展していく様子が描かれる。著者は、素粒子物理学のPh.D.を持った科学ライター。訳の良さもあるのだろうが非常に読みやすい。良質な『知的興奮』を味わえる本である。残念ながら、現在絶版のようだけれど、複雑系の入門書としては最適であり、興味のある方は、古書ででも入手する価値あり、と思います。

Photo
■カウフマン、生命と宇宙を語る―複雑系からみた進化の仕組み
スチュアート・カウフマン 著 日本経済新聞社 (2002/09)
<Amazon評価> ★★★★★(レヴュー数 4件)
■一度、読んで興奮してしまったのだが、どうもしっかり理解できていなかったようで、内容が頭の中からするりと抜け落ちてしまっている。今回、「自己組織化と進化の論理」を読み込んだのも、本書を再読するためのトレーニングなのだ。挑みがいのある「知」の最高峰である。

 
■ Amazon.co.jp ■
■■■書籍 「今、売れている順番」カテゴリー別■■■
■ミステリ・サスペンス■
■ノンフィクション(思想・科学・歴史ほか)■
■ビジネス・経済・キャリア■
■書籍 売上上昇率ランキング■

■■■DVD 「今、売れている順番」カテゴリー別■■■
■ 日本映画 ■
■ 外国映画 ■
■ アニメーション ■
■DVD売上上昇率ランキング■
 
 

|

« ■おしりかじり虫。脳みそへの波状攻撃。 | トップページ | ■ もくじ ■ 飛行機、宇宙の話など »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/208704/16474689

この記事へのトラックバック一覧です: ■【ひつじの本棚】『自己組織化と進化の論理』 S・カウフマン。今、生きていることは偶然ではないのだ。:

« ■おしりかじり虫。脳みそへの波状攻撃。 | トップページ | ■ もくじ ■ 飛行機、宇宙の話など »