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2007年9月 6日 (木)

■Nスペ 『鬼太郎が見た玉砕』。戦争の不条理。TVドラマの枠を逸脱した10年に一度の傑作。

放送から早や3週間。やっと録画してあったNHKスペシャル『鬼太郎が見た玉砕』 -水木しげるの戦争- を見た。

濃いドラマであった。

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■タイトルは、番組HPより転載。

※また長文になってしまいました。ごめんなさい。
下のほうに『オマケ』としてこのドラマの舞台となった場所の地図を載せましたので、そちらもご覧ください。

■ストーリー■
昭和47年。漫画、『ゲゲゲの鬼太郎』が人気となり忙しい毎日を送っていた水木しげるだったが、目に見えない何者かに押されるように自らの戦争体験を描き始める。

太平洋戦争末期。丸山(水木)二等兵(香川照之)はニューギニア奥地、最前線の拠点であるバイエン守備隊に編入される。食糧もほとんど無い空腹の中での重労働、そして曹長殿(塩見三省)による意味不明、問答無用のビンタの嵐。ともかく食い物が欲しかった。

昭和20年3月。遂に敵軍の上陸が始まる。バイエン守備隊500名に対して敵は5000。敵の侵攻は続き、遂にバイエンは囲まれてしまう。バイエン支隊長、田所少佐(木村彰吾)は「華々しく散ろう」と『玉砕』を決意。敵に対し全軍決死の突撃をかける。

だが、中隊長(石橋蓮司)は玉砕命令にそむき、丸山を含む自分の中隊を守るべく密林に後退。途中、足をやられた中隊長は自決するも、丸山たちの中隊は、命からがら友軍の拠点にたどりつく。だが『玉砕』したはずの部隊が生き残ってしまったことが新たな悲劇を生むのであった。

■以下、ネタバレ注意。■
■行軍。泥と雨と汗とが入り混じり、むれた匂い。その匂いが画面のコチラにまで漂ってくる。ニューギニアの戦地が実に生々しく描かれている。

生々しく描かれているのは、戦場だけではない。究極の状況に追い込まれた人間の生々しさが説明的なセリフではなく、演技と演出であぶりだされている。そこにかぶさる南方系打楽器の不思議なリズムと低くうねるクラリネットがその感情を煽り立てる。

この作品の『濃さ』は、出演者、スタッフの熱意によるものなのだろうか?

ドラマ全体から、強い『情念』が浮かび上がってくる。

「人権蹂躙!」とか「戦争反対!」とか、そういうレベルの話ではない。誤解を恐れずに言えば、「人権蹂躙!」「戦争反対!」などという「コトバ」を全くの無力にしてしまう程の『生』の力が、そこにあるのだ。

それを簡単にコトバにすることなど出来ない。我々に出来ることは、ただただ感じるのみなのである。

■戦後を生きる漫画家としての「水木サン」と、戦地で地獄を体験した「丸山二等兵」の両方を演じた香川照之さんの神がかり的演技には脱帽である。

2006年度の邦画ベストワン作品『ゆれる』では弟役のオダギリジョーと競い合い、怖いくらいの演技力を見せつけたが、今回はそれ以上だ。

何しろ、仕草といい、口調といい、表情といい、「水木サン」そのものなのだ。思わず笑ってしまった。どれだけ研究したのだろうか。

玉砕していった中隊の仲間達の霊にあおられ、再度玉砕に向かう場面を描く演技は鬼気迫るものがあった。斜めにゆがめた口元は「フハー」と息が漏れるのを必死でこらえているのだ。そのエネルギーがケント紙に向かい、魂を削りとるかのようにガリ、ガリ、と一つ一つの線を刻み込んでいく。

塩見三省さんが演じた「本田軍曹」も侮れない。香川照之演じる丸山二等兵との掛け合いが最高であった。意味の分からないビンタの嵐。中隊長から丸山が頂いたバナナを本田軍曹が強奪するシーン。バナナを口に含みながらの「行ってよし!」のセリフに爆笑。

本田軍曹はこの作品の中では、常に『軍隊という不条理』に振り回される『兵隊』たちの象徴であったのだろう。本田軍曹に特化して丸山二等兵と絡ませたところが、最後まで生きてくる。

バイエン支隊玉砕命令のもと、全体が出発するところで隊列を離れた本田軍曹が「丸山!ちゃんと死ね!」と殴るシーンがやるせない。

昭和47年、作品を書き終えた水木サンの前に本田軍曹の霊が現れてまた殴る。

『水木、100まで生きろ!100まで、元気で愉快に生きろ!』

という最後のセリフに号泣である。

石橋蓮司さんの演じた中隊長が、またいい味を出している。『濃い』ドラマには欠かせない役者さんだ。

玉砕を決める作戦会議での表情。ライトも当て方もあるのだろうが、目が落ち窪み、やつれた顔で、『お前とは死ねんのじゃ!』と少佐殿に言い放つ凄み。かなり入れ込んで役作りをしたのじゃないかと思われる。

ただひとつ、シナリオに惜しいと思ったところがある。中隊長が担架に乗せられてジャングルを後退中、自決を決意する場面。

『玉砕命令が出ているのに、中隊長がおめおめ生きて還れるか!』

と、『玉砕』を受け入れるようなセリフに違和感を覚えた。

最後まで生きて戦い抜くのが軍人だという意思を感じさせつつ、「足手まといになったオレは捨てていけ!そして、お前らは生き抜け!」という、中隊長のメッセージをもっと強く打ち出して欲しかったのだ。

そうすれば、先任となった石川軍医中尉(嶋田久作)が中隊長をかばって「・・・気付いたときには、聖ジョージ岬の方に歩いていました」などと参謀(榎本孝明)に言い訳する必要は無くなり、生き延びた中隊が再度『玉砕』を命じられる『不条理』さも、さらに際立ったと思う。

とはいえ、タバコの煙をくゆらせる中隊長の脇を中隊が進んでいくシーン。これはこれで、その中隊長の穏やかな横顔に胸をえぐられるような悲しみを覚えたのも事実。

やはり石橋蓮司は名優である。

(※原作を読んで、この場面が原作に忠実であることを理解しました。いらんお世話ですね。ゴメンナサイ。)

■石川軍医中尉を演じた嶋田久作さんも『ハゲタカ』に引き続き好演している。

私は医者だ!軍人なんかじゃない!

不条理な軍隊の中で、一人、「正気」を保っていてしまった男の『悲劇』を上手く醸し出していた。

■正直、NHKスペシャルで、こんな『濃い』ドラマを見ることが出来るとは思ってもいなかった。ドキュメンタリータッチな作品だろうと、たかを括っていたのだ。

役者の力強いセリフとそれを上回る生々しい「迫力」、演出的効果を狙った積極的な光の当て方、魂を揺さぶる音楽の入れ方。

ドキュメンタリーどころか、

この作品はTVドラマの枠をすら完全に逸脱している。

役者の汗や唾が飛んでくる、まるで古く小汚い芝居小屋で、すし詰めの観客と共に80年代の「アングラ」演劇を見ているような、そういう迫力なのである。

これが実際に芝居になったら、

と空想するだけでもドキドキしてしまう。

■このドラマは「10年に一度の傑作」である。

是非とも繰り返し再放送して欲しい作品だ。

                          <2007.09.06 記>

■スタッフ■
作      西岡琢也 (原作 『総員玉砕せよ!』 水木しげる) 
製作統括  家喜正男
演出    柳川 強
音楽    大友良英

美術    鈴木利明

■キャスト■
丸山二等兵・水木サン 香川照之
水木サンの奥さん     田畑智子
        ***********
木戸参謀         榎本孝明
中隊長           石橋蓮司
田所少佐(支隊長)   木村彰吾
石川軍医中尉      嶋田久作
本田軍曹         塩見三省
        ***********
鬼太郎(声)        野沢雅子
ねずみ男(声)      大塚周夫
目玉オヤジ(声)     田の中 勇
語り            石澤典夫
      

Photo
■原作 『総員玉砕せよ!』
水木しげる 著 講談社文庫 (1995/06)
<Amazon評価> ★★★★☆(レヴュー数 22件)
■水木サン渾身の作品。
 最期の突入前の歌は涙モノ。泥の中で這い蹲っている「丸山二等兵(水木さん)」が敵兵に止めをさされ、つぶやく。
 「ああ、みんな、こんな気持ちで死んでいったんだなあ。誰にみとられることもなく、誰に語ることもできず、・・・ただ、わすれ去られるだけ・・・」。水木サンは自分の身を仲間と共に置いてみることで、そのやりきれない怒りを心に深く焼き付けたのだ。
 
 最近、「トラック環礁」のダイビングスポットで海底に並んだ日本兵の頭蓋骨を眺めるツアーがあるらしい。彼ら日本の兵隊さんたちは、がらんどうになってしまったその眼窩で何を見て、何を感じているのだろうか・・・。
      

『水木しげる伝』戦中編を参考に地図を作ってみました。
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※画像をクリックすると拡大表示されます。
Google Earthで確認してみてオーストラリアがあまりにも近いのに驚いた。解っているつもりでも全然理解できていないのだなと実感。僕らのじいさんの世代、日本の兵隊さんは、こんなに遠くで戦って亡くなっていったのだな、としみじみ想う。
      

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■『完全版 水木しげる伝』〈上〉戦前編 
水木しげる 著 講談社漫画文庫 (2004/11)
(「ボクの一生はゲゲゲの楽園だ」改題)

<Amazon評価> ★★★★★(レヴュー数 3件)
■「水木サン」の自伝漫画である。
<上>「のんのんばあ」と過ごした幼年期から、兵隊になるまで。
<中>「総員玉砕せよ!」の時代から、戦後の混乱期まで。
<下> 漫画家として成功し再びニューギニアを訪問、現在まで。
一冊500ページの大著だが、一気に読みきった。
その人生は「昭和史」そのものなのだが、非常に新鮮なのである。
何故かといえば「水木サン」自体がとてもオモチロイからなのだ。
お奨めです!
          

Photo
■『のんのんばあとオレ』
水木しげる 著 講談社漫画文庫 1997/07 (1977年作)
<Amazon評価>
 ★★★★★(レヴュー数 11件)
水木しげるさんが幼少期を一緒に過ごした「のんのんばあ」との物語である。「しげーさん、」と水木に語りかける、ゆっくりとしたのんのんばあの口調がこころにやさしい。
どこまでが、本当のことで、どこまでが空想なのか。その境目の無い幼少期特有の柔らかい世界が広がっている。何だか、しみじみする本です。

■関連記事■
■NHK「日本の、これから」 『考えてみませんか?憲法9条』 ここが歴史の分水嶺?(2007.08.17記)
■新人の躾を軍隊に教わるの愚。(2007.08.28記)
       

■NHKスペシャル『鬼太郎が見た玉砕』番組HP
http://www.nhk.or.jp/nagoya/kitaro/

■NHK『鬼太郎が見た玉砕』番組ブログ
http://www.nhk.or.jp/sengo62-blog/

 
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コメント

電気羊さん、こんばんは。
 台風の影響はいかがですか?こちら群馬は、ますます風雨が強くなってきました。心配でちょっと寝られそうにありません^^;
 さて、今回のブログを拝読させていただき、番組を観なかった事を今とても後悔しています。新聞の番組欄で目にして「アッ」っと思ったのですが、かたずけなければならない問題を抱え、ちょっと今の自分には重いかなぁ・・と無意識に(もしかしたら意識して?)観ることを避けてしまったんですよね・・・後悔先に立たずです。
 幸い、ご紹介いただいたNHKのサイトにも再放送を切望する書き込みがたくさん寄せられていましたので、そうなる事を期待しつつ、電気羊さんのパワーにも感動の 検査技師 でした。 

投稿: 臨床検査技師 | 2007年9月 7日 (金) 00時24分

臨床検査技師さん。
コメントありがとうございます。
大変励みになります。
ウチの方では台風が通過したのが深夜だったようで、それほど強烈には感じませんでしたよ。
番組再放送は、NHKスペシャルですから、きっとやってくれるでしょう。(季節モノだから来年の夏にやります、なんてことになったりして・・・)

投稿: 電気羊 | 2007年9月 7日 (金) 22時51分

「ハゲタカ」イタリア賞受賞から、こちらに来ました。「ハゲタカ」は凄し・・。しかし、まさか国際的に評価されるなんて・・驚きです。
で、「鬼太郎」も再放送決まったみたいですよ・・。ホームページに今月21日放送と書いてありました・・。こちらも嬉しかったので、思わず書き込みしました・・。「ハゲタカ」も「鬼太郎」も沢山の人に見て欲しいです・・。でも、最近のNHKは充実してるのかな・・??又、お邪魔します・・。

投稿: ハゲタカファン男より | 2007年10月 2日 (火) 00時46分

ハゲタカファンさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
「鬼太郎」の再放送決定、うれしいですね。
NHKのドラマは良い作品が多いのに、
なぜか視聴率が上がらないのですよね。
この記事を見て「再放送を見ようかな」とひとりでも多くの方に思っていただければ、ブロガー冥利につきるというものです。
では、また気軽に遊びに来てください。

投稿: 電気羊 | 2007年10月 2日 (火) 09時44分

こんばんは。
電気羊さんブログのおかげで、昨日、再放送見ることができました。
ありがとうございました。

投稿: 臨床検査技師 | 2007年10月22日 (月) 22時08分

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