■【ひつじの本棚】『不都合な真実』 アル・ゴア<地球温暖化>CO2削減が「目的化」することを憂う。
アル・ゴア アメリカ元副大統領の地球温暖化現象に対する強い使命感が良くわかる。
そして本の途中に散りばめられたゴアさんの家族への想いは、その使命感の純粋さを補強している。
だが、この本を評価するのは、なかなか難しい。
事実と仮説が入り乱れているからだ。
「本質的な問題は何か」、それがキーポイントである。
(少し長い記事になりますので、手早く中身を知りたい方は下の青いテキストリンクをクリックしてアマゾンの書評をご覧ください。)
■ 不都合な真実
アメリカ元副大統領 アル・ゴア著
ランダムハウス講談社 (2007年1月)
<Amazon評価 ★★★★☆(レヴュー数 72件)>
■この本の主張の根源には「文明と生態系の衝突」というテーマがあって、自然の循環が根本的に変わりつつある、という危機的状況を強く訴えかけてくる。
単純に未来予測を語っている本ではない。今、まさに起こっていることについて語っているのである。そこにこの本の価値がある。
■我々も、もう肌で感じているはずだ。冬が昔ほど寒くない。子供の頃に遊んだ池に氷が張ることはなくなり、霜柱をシャリシャリ踏むこともなくなっている。
雨の降り方も変わってきた。しとしと降る長い雨は影をひそめ、ドカンと降る豪雨が増えてきた。台風も960hPaくらいが普通だったが、最近は945hPaなんてのも上陸してくるようになった。
■この本は、そういった感覚的なものを現実としてビジュアルに突きつける。
・各地、高山の雪の激減、氷河の急速な後退。
・北米における夏季の最高気温の記録更新と
大規模なハリケーン。
・北半球での大規模洪水の増加。
・一方アフリカ赤道地帯での旱魃と
世界で6番目に大きかったチャド湖の消失。
一体、地球に何が起きているのだろうか。
■本書は、ここで短絡的に「人間が排出するCO2」に話が飛ぶから議論がややこしくなる。
少し視点を変えて、今起きている現象について考えてみよう。
■まず、砂時計を想像してみる。上から落ちてくる砂は砂時計の底に円錐型の山をかたちづくる。その頂点に少しづつ砂が落ちてくる。そして、とある瞬間、円錐型の山肌が崩れ、小さな雪崩が発生する。
「どの砂粒」で雪崩が発生するかを正確に予測することは不可能である。上から落ちてくる「ひとつの砂粒」と砂山の微妙な位置関係など、いろいろな要素がそこに介在しているからだ。
だが、一旦砂山の頂点での砂のバランスが崩れると、雪崩として山は崩れ、次の安定した砂山の形になるまで、その雪崩は収まらない。
■今の地球の気候は、その砂時計の山のように不安定な状態にあるのではないだろうか。
もっと具体的に言えば、地球大気の循環、海流の循環が不安定な状態に陥っているのではないかということである。
赤道付近で温めたれた空気は気流の流れで高緯度地方に熱を伝える。海流もまた然り。そうして地球全体に暖かさを安定的に供給するシステムがあり、その結果として我々は、それぞれの国の気候にあわせて安定した暮らしを送っている。
だが、先に述べたとおり、世界各地の気象は現在、異常な振る舞いを見せ始めている。
■本書にあるとおり、北極やグリーンランドの氷が融け始めている。そうすると、グリーンランド南部に真水が流れ込み、海水の塩分濃度が薄まって比重が軽くなり、海流が深層に沈み込む循環ポンプとしての能力が低下する。つまり世界を流れる海流を動かす力が弱まってしまうのだ。
それによって、たとえば南欧などの暖流によって暖められてきた地域は、皮肉なことに寒冷化する可能性もある。ということだ。
始まりは小さな水溜りだったのかもしれない。だが、融けた水が氷層に割れ目をつくり、そこに水が流れ込む。そうして加速度的に氷が融け出すモードがあることが分かってきた。そのモードに入って氷が分断されれば、さらに氷は融けやすくなっていく。(自己強化型フィードバック)
北極やグリーンランドの氷の上の水溜り。
それが砂時計の山を突き崩す「ひとつの砂粒」である。
雪崩(気流、海流の変動)はもう始まっていると考えた方が良いのかもしれない。
その雪崩が収まるまで、人類は異常気象に悩まされ続ける。いや、雪崩はさらに大きく成長していくのかもしれない。そのあいだ、金銭で問題を解決できない弱い人、貧しい人たちにしわ寄せがくるのは目に見えてる。非常に不幸なことである。
なんとか、この変動を抑える方法が無いのだろうか。
■そこで、地球温暖化物質としてのCO2がお白州にあがることになる。
ここ100年CO2濃度は上昇している。同じく世界の平均気温も上昇している。したがって、産業革命以降人間が大量に排出してきた地球温暖化物質CO2があやしいのだ。
そして、そのCO2濃度上昇度を織込んで、ばかでかいコンピュータを使ったシミュレーションをまわすと、過去100年の気温上昇を上手く説明できた。だからこのシミュレーションは正しいし、CO2もクロで決定。(と学者さんは言っている。)
このシミュレーションで100年後の未来を予測すると、CO2増加について一番楽観的なB1シナリオで、世界平均気温、約2℃上昇。海面上昇は20~30cm。最悪のA1FIシナリオでは、世界平均気温、約4℃上昇。海面上昇は25~60cm。( IPCC 第4次評価報告書から丸めた数値)
「なんだ、最悪4℃程度か」と安心してはいけない。
今の気候変動の原因と思われる、世界平均気温のここ100年での上昇代は、たったの0.6℃なのだ。(気象庁データベースより)
一番楽観的なシナリオでも、気候変動はさらに大規模なものになってしまうということだ。
■だから、気候変動の拡大を抑えこむ為に、CO2削減の努力は行うべきである。
もし万が一CO2が原因で無いとしても、CO2排出量の削減はエネルギー消費の効率化を意味する。BRICsの経済成長と人口増加を考えれば、それは今すぐに全世界レベルで取り組むべき課題である。
だが、それだけで良いのだろうか。
もし我々が非常に革命的なCO2削減方法が確立して、CO2排出量が現在のレベルに止まったとしよう。
だが、我々が既に気候変動という雪崩を起す引き金を引いてしまったのであれば、一度発生してしまったその雪崩を止めることは出来るのであろうか。
「直感的」には、NOだと思う。
CO2排出量削減に意味が無いとは思わないが、もし手遅れであった場合の手も考えておくべきだ。何も、イスカンダルから「コスモクリーナーD」を持ってこいと言っているわけではない。今ある解析手段(シミュレーション)を用いて積極的に気候を安定させる手段を模索するべきではないか、と思うのだ。
■一番心配するのは、「CO2削減」自体が目的化することだ。
「CO2削減」が経済活動と結びついたとき、バイオ燃料確保の名の下にアマゾンの密林が開拓されサトウキビ畑に変貌する。といった本末転倒が起こる可能性が多分にある。
先のグリーンランドの氷の話と同じくジャングルも亀裂が入るように開拓されてしまえば、ジャングル全体が生きる力を失っていく。
「CO2削減」は単なる手段に過ぎないのだ。CO2削減のノルマ達成にこだわるあまり、本来の目的を見失うようなことがあってはならない。
大切なのは、我々の生活を脅かす気候変動を最小に食い止めることだ。そこにプライオリティを置いた議論と研究が必要で、そのためには「政治」のリーダーシップが不可欠だと思うのだが、いかがなものだろうか。
さて、問題は私に何が出来るか・・・だ。
それを今、思案中である。
とりあえずは、早く寝て電気代を節約すること、か。
では、続きは夢の中で。
<2007.08.03 記>
■<書籍> 不都合な真実
アメリカ元副大統領 アル・ゴア著
ランダムハウス講談社 (2007年1月)
<Amazon評価 ★★★★☆(レヴュー数 72件)>
■<DVD> 不都合な真実 スペシャル・コレクターズ・エディション
監督 デイビス・グッゲンハイム
出演 アル・ゴア アメリカ元副大統領
アカデミー賞2部門(最優秀長編ドキュメンタリー賞、最優秀歌曲賞)受賞
2006年パラマウント映画
<Amazon評価 ★★★★☆(レヴュー数 35件)>
■関連記事■
■『新報道プレミアA』 地球温暖化を考える。
(勉強する前のノンキな記事です。「生き方」に逃げてはいけませんね。)
http://soko-tama.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/post_c55f.html
■ Amazon.co.jp ■
■ TVドラマ・映画 原作本ページ
■ '07 上半期 Booksランキング
■【 書籍・ベストセラー 】
■【 DVD・新着ベストセラー 】
**************<以下おまけ>****************
■地球温暖化に関する考察■
今回調べたことについて、少し整理してみよう。
■論点① 地球は温暖化しているか?
これは非常に明らかで、平均してみればこの100年、地球は温暖化している。
以下のグラフは世界の平均気温と平年値(1971~2000年の平均値)の温度差を年毎に並べたものである。<出展:気象庁データベース>
多少の凸凹はあるものの、だいたい100年で0.6℃気温が上昇しているのがわかる。但し、1990年代後半以降、さらに気温の上昇傾向が大きくなっているが、これが長期的な傾向なのか、過去のデータと同じ局部的な波なのかは、ここからは読み取れない。
■論点② CO2濃度は増加しているか。
これもYES.である。同じく、気象庁の観測データを見てみよう。
だいたい2.0ppm/年でCO2が増加していることがわかる。2006年が385ppm程度だから、このペースでいけば2100年には573ppmとなる。因みに、気象庁が温暖化予測のベースとしているIPCCのSRES A2シナリオだと、2100年時点のCO2濃度は860ppmである。(おしなべると5.0ppm/年!)
■論点③ 人類のCO2排出量増加によって温暖化が起きているのか?
ここがよくわからない。が、たぶんそうなのだろう。
CO2が人類の経済活動によるものであることは、以下の3点が根拠となっている。(IPCC第4次報告書による)
1)CO2大気中濃度は、工業化以前の約280ppmから2005 年には379ppmに増加した。
2)南極に降り積もった氷を調べてみると、過去約65 万年間のCO2濃度の変動範囲は180~300ppmであり、現在の379ppmは異常に高い値である。
3)最近10年の上昇率、1.9ppm/年は、過去45年の平均上昇率1.4ppm/年と比べて大きい。
けれど、これは地球46億年の歴史のうちの最近65万年の中で、ここ50~100年CO2濃度が上昇傾向にある。ということを言っているだけであって、「工業化」が原因であるかどうかは推測に過ぎない。
そこで「シミュレーション」の登場である。
これは、過去100年の気温の変化をシミュレーションした結果である。青いエリアは、太陽活動と火山の影響を考慮に入れたグラフである(いくつかのシミュレーションの幅として示される)。赤いエリアは、さらに「人間の経済活動が起源となる」要因を考慮に入れたグラフである。黒いグラフが実際の過去100年の平均気温実測値である。
実測値は見事に赤いエリアに収まっている。これにより、過去100年の気温上昇の要因が人為起源(CO2の増加)のものであるとがシミュレーションで示すことが出来た。といっている。
そして、このシミュレーションを使って、今後のCO2濃度上昇のパターンを振って、2100年の気象予測を行っているのだ。
■地球温暖化の議論に噛み付く人は、大抵、このシミュレーションの前提条件や予測精度の問題に疑問を投げかけている。
CO2の増加が人間の経済活動が起源とは証明できていない、とか、そもそもシミュレーションでカオス的振る舞いをする気象の長期予測自体がナンセンスだ。とか、そういう投げかけである。
正直、その反論は正しいと思うところが多い。だから、この記事も初めは反「地球温暖化対策」の路線で考察をすすめようと考えていた。
けれど、その反論は「何か」を生むのだろうか。
「今」、現実に気候変動の影響に苦しんでいるアフリカやインドや東南アジアの人たちにとって、その反論は、どういう意味があるのだろうか。と思い直したのだ。
■政治的圧力によってゆがめられた研究結果であれば、それは当然排除すべきである。だが、IPCCの報告書を眺める限り、雲の影響は考慮に入れられていないとか、自らの足りないところも表明したうえで勇気をもって誠実に発言しているように思えるのだ。
予測が外れるのは当たり前である。
予測が外れた原因を追究することに科学的な意味があり、そこから新しい理解が生まれてくる。
結果としてそれは無駄な努力なのかもしれない。けれども、分からないことを解明しようと前進する意思には、常に新しい可能性が秘められている。
その崇高な意思を挫くようなことがあってはならない。
■ IPCC 第4次評価報告書第1作業部会報告書政策決定者向け要約
(2007年3月 翻訳:気象庁)<PDFファイルです。>
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/ipcc_ar4_wg1_spm_Jpn_rev.pdf
■気象庁データベース
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/an_wld.html
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