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2007年7月 6日 (金)

■映画 『ブラック・レイン』 歴史は巡り、繰り返される魂の喪失。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
古今東西なんでもあり、気楽でささやかな名画座をめざします。
ゆっくりUPしていくつもりなので、ひとつ長~い目で見てやってください。

No.02  『ブラック・レイン』
     (BLACK RAIN)
          監督: リドリー・スコット 公開:1989年10月

松田優作に久しぶりに会いたくなってブラックレインを見た。学生時代に見たときには、松田優作の演技の素晴らしさに感動し、直後の訃報と相まって名作として深く心に刻まれた作品だ。しかし、今見返してみて、どうにもやりきれない気分になってしまったのだ。

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■ストーリー■

ニューヨーク市警の刑事ニック(マイケル・ダグラス)と相棒のチャーリー(アンディ・ガルシア)はレストランで偶然にヤクザによる殺しの現場に出くわした。格闘の末、逮捕された男の名は佐藤(松田優作)、大阪のヤクザ組織に絡む人物であった。日本大使館からの強い要望により佐藤は大阪まで送られることなり、ニックとチャーリーは渋々護送任務につく。だが、大阪空港で組織の罠にまんまと嵌り、佐藤に逃げられてしまう。

大阪府警の朴訥な警部補、松本(高倉健)の監視のもと、拳銃を取り上げられ、警官としての権限のないまま捜査を見守るニックとチャーリーだったが、佐藤の隠れ家に残された100ドル紙幣をくすね、それが偽札であることを見抜く。事件の背景に偽造がからんでいることに気付いた彼らは独自に捜査を始めるのだが、その背後には佐藤の黒い影が忍び寄っていた。

実直で不器用な松本警部補。自由奔放で熱血漢のニックと陽気で気さくなチャーリー。果たして彼らは大阪の夜の闇にうごめく佐藤の野望を打ち砕くことが出来るのか。

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■以下、ネタバレあり、注意方。■

■夜、沸き立つ水蒸気、ネオンの禍々しさ・・・リドリー・スコットの職人芸により、大阪の街は禍々しいものが巣食う暗黒街へと変貌する。『エイリアン』、『ブレードランナー』の世界。どうしても期待は膨らんでしまう・・・のだが。

■この映画が公開されたのは1989年、奇しくも三菱地所がニューヨークの象徴的な建物であるロックフェラーセンターを2000億円で買収した年である。当時、バブル景気で膨れ上がったジャパンマネーが『アメリカ』を席巻し、『顔の見えない日本』がはびこる。そういう時代背景が思い起こされる。

戦後40年間、『アメリカ』の豊かさを必死に追いかけてきた日本。だが、アメリカにとっての日本に対する認識はパールハーバーで止まっていて、このとき初めて、『日本』を意識したのではないだろうか。そういう意味で、この「ブラックレイン」という映画は、アメリカ人にとってのその『空白』を埋める試みなのである。

■B29の爆撃後に降る『黒い雨』。やくざの大親分、菅井(若山富三郎)の口を借りて、この映画のテーマが語られる。敗戦の雨に打たれてすっかり迷ってしまった日本人はその本来の魂を失い、すっかりアメリカの拝金主義に染まってしまった。

その象徴が、冷酷で凶暴で、それでいてアウトローになりきれず世俗の欲に執心する男、佐藤(松田優作)である。その一方、集団の中に隠れて素顔を見せようとしないもう一つの日本人像の象徴として松本警部補(高倉健)が描かれる。

■チャーリーの無残な死。そして彼を救えなかったニックのやるせなさは、穴に閉じこもった松本警部補の心を突き動かす。2人は独断行動により、製鉄所で密会中の佐藤を追い詰めるが、ギリギリのところで逃げられる。

その場を大阪府警に押さえられ強制送還されそうになったニックだったが、飛行機から脱出し、松本のもとに協力を頼む。だが、今回の騒動で謹慎降格となった松本は、すでにもとの穴倉に戻ってしまっていた。

■ここまではいい。佐藤、ニック、松本の3つの軸が互いに影響し合い、ドラマが重層的に展開していく。そしてニックは最後の手段として、単身、菅井のところへ乗り込み、自分を佐藤への刺客として売り込む。

このシーンの若山富三郎と安岡力也の圧倒的な存在感が素晴らしい。『ブレードランナー』でリック・デッカードを追い詰めるロイ・バッティ、或いは『エイリアン』のラストでリプリーに襲い掛かるビックチャップ。リドリー・スコット節がここに炸裂する。この一連のシーンが醸し出す緊張感は、この映画最高の見せ場だ。・・・ああ、時間よ止まれ。

■郊外にある一軒の農家。親分衆と佐藤との手打ちの土壇場で佐藤が裏切り、菅井の手にをドスを突き立てる。そこにニックが乗り込み逃げる佐藤を追いかける。ニックさん、助けに来たよと松本が現れ、腰だめにしたサブマシンガンを乱れ撃ち。ニックの行く手を阻むやくざ共を薙ぎ払う。

最後の勝負で見事に佐藤を取り押さえたニックは、松本と共に大阪府警に出頭。こいつは偉いと表彰式。・・・スターウォーズじゃあるまいし。

■最後にはしごを外されるとは、まさにこのことか。

大切なものを守り抜くために、耐えて耐えて耐え抜いて、その瀬戸際に、決死の覚悟で立ち上がる。それが日本人のメンタリティーであり、そこで初めてカタルシスを得られるのだ。

『野生の証明』で、薬師丸ひろこを背負って自衛隊に単身立ち向かっていった高倉健。この映画では一体何を背負って戦ったのか。マシンガン片手に「ああ、快感っ」では冗談にもならない。

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悪いやつらはやっつける。

この深みの無さ。
これがハリウッド映画というものなのだろうか・・・。

■満足げな笑顔でマイケルダグラスに表彰状を手渡す俳優、神山繁の心中はいかなるものであったか。

それは進駐軍に媚を売らねば生きていけなかった敗戦国の悲しみであり、その心の奥に隠されたやりきれない怒りではなかったか。

マイケル・ダグラスに対して
若山富三郎が搾り出すようにつぶやくシーンが蘇る。

 わりゃ、ホンマに殺したろかい。

■だが、この映画の公開から18年。バブルは崩壊し、再び自信は失われた。そして「グローバルスタンダード」という黒い雨に洗われて、日本人本来の魂が揺らいでいる「今」がある。

歴史は繰り返す。

皮肉にも、
この映画のテーマと今の日本とが、ダブって見える。
  

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■松田優作にとって、この映画は一体何だったのだろうか。

撮影時の年齢は39歳。このハリウッド・デビューを足がかりに、彼はさらなる俳優道を極めようとしたに違いない。あの『佐藤』の神懸かった演技は、決して最期の輝きなどではなく、さらなる頂きへ向かうためのデモンストレーションだったのだと思う。

その無念を想うと胸が痛む。
                       <2007.07.06 記>

■蘇える松田優作
大下英治 著 (1991/10)
 
 

■スタッフ
監督 リドリー・スコット  
脚本 クレイグ・ボロティン
    ウォーレン・ルイス
撮影 ヤン・デ・ボン
音楽 ハンス・ジマー

■キャスト
松本警部補・・・高倉 健  
ニック   ・・・マイケル・ダグラス
チャーリー・・・アンディ・ガルシア 
    * * * * * * *
佐藤    ・・・松田優作 
佐藤の部下・・・内田裕也
       ・・・ガッツ石松
       ・・・國村 隼
    * * * * * * *
大親分、菅井・・・若山富三郎
菅井の用心棒・・・安岡力也
菅井の子分 ・・・島木譲二
    * * * * * * *
大橋刑事部長・・・神山 繁 
米人ホステス、ジョイス・・・ケイト・キャプショー
   

■関連作品

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●高倉健  『野生の証明』(1978年 佐藤純彌 監督)
 大切なものを守り抜く本当の高倉健がそこにいる。

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●松田優作 『野獣死すべし』(1980年 村川 透 監督)
 松田優作の「狂気」が、終盤のリップ・バン・ウインクルのシーンに凝縮されている。恐怖に慄く室田日出男の演技は必見。

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●リドリー・スコット 『ブラックホーク・ダウン』(2001年作品)
 1993年ソマリア内戦。米軍とゲリラの市街戦が余分な感情表現を廃して淡々と描かれる「乾いた」映画。ラストのリドリー・スコットらしい朝もやのシーンに救われる。

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