■映画 『時をかける少女』。失われた記憶の微かな香り。
♪ももーくりさーんねん。かき、はーちねん。
あっ、あの歌ね!
♪ゆずは九年でなりさがるー
♪なしーのーばかめがー、じゅうはーちねん。
●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
古今東西なんでもあり、気楽でささやかな名画座をめざします。
ゆっくりUPしていくつもりなので、ひとつ長~い目で見てやってください。
No.03 『時をかける少女』
監督:大林宣彦 公開:1983年7月
先週のアニメ版「時をかける少女」地上波初放映の前座として、深夜に大林版が放送された。昭和40年代前半生まれの、オヤジのハートを直撃である。
■ストーリー■
土曜日の実験室。高校生の芳山和子は、そこでラベンダーの香りをかいで気を失ってしまう。それ以来、どうやら自分が同じ時間を何度も体験しているらしいことに気が付く。和子は思い切って、そのことを幼なじみの深町くんに打ち明けてみるのだが・・・。
■以下、ネタバレあり、注意方。■
■この映画でデビューした原田知世の初々しさに目が惹かれるが、五朗ちゃん役の尾美としのりの演技も絶品である。老舗醤油屋の跡取りとして働く横顔のひたむきさ。幼なじみの芳山和子を慕う気持ちを表に出せない不器用さ。脇役のはずなのだが、どうしても彼に感情移入してしまう。
それに比べて、深町くん役の高柳良一の棒読み演技が強烈に浮き上がっている。今回、久しぶりに見直してみて、これは『未来人』の違和感を上手く醸し出す為に敢えて彼を選んだキャスティングの妙なのだと気が付いた。
なかなか演技で、あの不自然さは出せるものではない。こういうやり方もあるのかと妙に感心してしまった。
■映像としては、彩色だとか、コマ飛ばしとか、かなりアクの強いものである。だが、不思議と違和感は無い。過ぎ去ってしまった「記憶」を閉じ込めたような尾道の風景と組み合わされることで、現実と薄皮一枚ずれた絶妙なところでバランスを保っている。
深町くんが「土曜日の実験室!」と叫びながら芳山和子を崖から突き落とすシーンは苦笑いするところだが、それから芳山和子が過去の時代をさまようシーンは、なかなか秀逸なものである。
松任谷正隆の作るリフレインにのって、くるくると時間の渦に翻弄される原田知世。そこで「同じ時間に同一人物は共存できない」という設定が生きてくる。
自分の幼い頃の世界に足を止めた途端に、その時代の幼い自分は隠れてしまう。両親が幼い自分を探す姿に、はっ、と気が付き、時間の渦へ戻ると同時に幼い自分が現れる。その、まるで追いかけっこのような緩急と松任谷正隆の旋律とのシンクロが心地いい。
■この映画のテーマは「記憶」ではないだろうか。
幼い頃のかすかな記憶。割れた鏡で指を切った傷跡。深町くんの親指にあるはずのその傷跡を五朗ちゃんの指に見つけたときの気が遠くなるような感覚。
自分の記憶と異なる事実。それは少年時代のアンバランスな感覚を突き崩す斧である。
時が過ぎて、薬学者となった芳山和子が廊下で深町とすれ違うシーン。ドリーインとズームアウトを組み合わせる技法で、その瞬間、芳山和子の胸に込み上げる「理由のわからない」切なさが表現される。
記憶が常に正しいとは限らない。意識の底で、ふっ、と何かを感じる時、そこに失われてしまった大切な思い出があるのかもしれないのだ。
<2007.07.29 記>
■スタッフ
監督 大林宣彦
製作 角川春樹
原作 筒井康隆
脚本 剣持亘
音楽 松任谷正隆
主題歌 「時をかける少女」
作詞・作曲 松任谷由美
■キャスト
芳山和子 原田知世
深町一夫 高柳良一
堀川五朗 尾美としのり
* * * * * * *
福島先生 岸部一徳
神谷先生 津田ゆかり
* * * * * * *
深町の祖父 上原謙
深町の祖母 入江たか子
■原田知世が歌いながら、映画のシーンを振り返る
ミュージカル仕立てのエンディングタイトルも
ほのぼのとした、あの時代を感じさせて、
何だか、やわらかい気持ちになった。
■原作 筒井康隆 『時をかける少女』
角川文庫 新装版 (2006年5月)
■大林宣彦 尾道三部作■
■DVD 『転校生』
監督:大林宣彦 公開:1982年
小林聡美/尾美としのり
■DVD 『時をかける少女』
監督:大林宣彦 公開:1983年7月
原田知世/高柳良一/尾美としのり
■DVD 『さびしんぼう』
監督:大林宣彦 公開:1985年
富田靖子/尾美としのり
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■DVD 『時をかける少女』 アニメ版
監督 細田守 2006年7月公開
脚本 奥寺佐渡子
美術 山本二三
テーマ曲 「ガーネット」 作詞・作曲・歌 奥華子
■美術とカットがいい。特に光と影の作り方が美しい。
ただ美しいだけではなく、
それによって画面に奥行きが出てくるのだ。
この監督、いい仕事師である。
テーマ曲「ガーネット」もイイ。
奥華子の歌声と、この映像の組み合わせだけで
胸がきゅんとなる。(おっさんの胸キュンというのもどうかと思うが)
「作品」としての深みを捉えることは出来なかったが、
これだけ評価されるところをみると、単に
私の「ツボ」にはまらなかった。ということなのだろう。
ちなみに女房は大絶賛である。
■奥華子 TIME NOTE(初回限定盤)(DVD付)
「ガーネット」は沁みますね。
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