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2007年6月 8日 (金)

■【気持ち】をデザインする。『プロフェッショナル・仕事の流儀』 工業デザイナー 吉岡徳仁

今回のプロフェッショナルは、工業デザイナーの吉岡徳仁さん。

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■「今、既にあるデザインをアレンジするのではなく、『未来の定番』を創りたい。」

それが、吉岡さんのスタンスだ。

「例えば、木の椅子が普通であった時代に、鉄のパイプで作られた椅子を見せられたらビックリするでしょう?そういう感じです。」

いくら形をアレンジしてみても、新鮮味は無い。
人が座ったときの音、におい、感触・・・そういった感覚での新しさを創造する。つまり、相手の『気持ちをデザインする』。ということなのだそうだ。

■そういった感覚を刺激する面白い素材を常にストックしておき、その中からデザインの核となるようなアイデアを引き出す。そのアイデアは、「カタチ」でなはく、イメージからスタートする。

「クリスタルの知的な透明感」(イメージ)→
水を張ったビンの中にクリスタルを入れてみる(現物)→
香水:「クリスタルを浴びる」というアイデア(イメージ)→
箱、カタチ、大きさを実際に作って試してみる(現物)

「アタマの中のイメージ」と「現物がカラダに訴えてくる感覚」を行ったり来たりする。そうやって、自分の感覚でしっかり確かめながらデザインとして成長させていく。その繰り返しは作品の完成まで、もっといいアイデアは無いかと「ジタバタ」続く。

■吉岡さんのデザイナーとしてのスタートは、新しい素材から新しいものを作り出す、あこがれの工業デザイナー倉俣史朗さんを目指すところから始まった。

三宅一生のもとでディスプレイのアシスタントをしながら作品を手がけていった。だが、世の中の反響は無い。評価してくれるのは一部の関係者だけ。という日々が続く。

31才の時に、「三宅一生展」のデザインを任された。

『こどもでも楽しめるものを作れ』

その師匠のことばと向き合うことで、気が付いた。
デザインで大切なのは表面的な新しさではない。人の気持ちを動かすことなのだ。

「三宅一生展」のデザインは成功した。
上下に振られて踊るように動く衣装。
吉岡さんの作品のまわりで、こどもたちが喜んでいる。

きっと、その瞬間が吉岡さんにとっての『原点』なのだと思う。

■「古いデザインは消えていくものがほとんど。今残っているものは、夢がある、こころに残るデザインだけ。」

「未来を切り開くきっかけをつくりたい。」

それが吉岡さんの願いだ。
  

■以前、広告関係の仕事をしている人から『シズる。』というコトバを教えてもらった。

『シズラー』というステーキ屋のCMは、「じゅぅーーー。」という油が小さくはぜる音だとか、ステーキのやわらかそうなピンク色の断面から肉汁がじわじわ滲みだす様子だとかで、もう見てるだけで焼けた肉のうまそうな匂いまで感じてしまい、思わず生唾が出てくるようなものだった。

そこから、「脳みそ」を飛び越えて、お客さんの感覚を直接刺激するような映像を「シズってるね~。」などと呼ぶようになったそうである。
(今の文章で、よだれ出ましたか?え、出ない?・・・修行し直します。)

■吉岡さんのアプローチを見ていて、この『シズる。』を思い出した。アタマでひねり出すものよりも、自分の感覚が「いいねぇ」と言ってくれるものの方が、人のこころを揺さぶるものなのだろう。

けれど、「いいねぇ」という「感覚」から出発するものの、「モノ」に仕立て上げる中で、どうしても空想と理屈が先走ってしまう。次第に何かがポロポロこぼれ落ちていく。そうして、はじめには非常にヴィヴィッドに感じられていたものが、「面白いのだけど、こころに来ない」ものになってしまう。

それが、創作活動にありがちなパターンなのだと思う。

吉岡さんのアプローチは、

「アタマの中のイメージ」と「現物がカラダに訴えてくる感覚」を行ったり来たりする。

これを細かいサイクルでまわしていくことで、「感覚に訴えるもの」が劣化していくのではなく、逆に成長していくという画期的な手法なのだ。

その時大切なのは、『現物』が本物の素材であること、本物の大きさであること。違う素材や小さい模型では人間の感覚は計れない。それが吉岡さんが素材にこだわる理由なのだと思う。

そして、デザインルームのアイドル、チワワの「ポチくん」という存在も侮ってはイケナイ。

おめめをクリクリさせながら、ぽてぽてカワイく歩き回るポチくんの前には、どんな「空想」も「理屈」も無力なのだ。

居ながらにして、かわいい!という「感覚」を身体に思い出させてくれるポチくん。
やはり、「こども」と「動物」は常に最強なのだ。
                        <2007.06.07 記>

■Tokujin Yoshioka Design■  
Tokujin_yosioka_design_1
Tokujin_yoshioka_design__1【Amazonで見る】     
MoMAのパーマネントコレクションに選定された<ToFU>や<HONEY-POP>のデザインで知られる吉岡徳仁の作品集。初期の作品からスワロフスキーのシャンデリア<STARDUST>(2005年)まで全40以上にわたるプロジェクトを、豊富な写真やドローイングで紹介。インゴ・マウラーや三宅一生など多彩なゲストによるエッセイも魅力。吉岡徳仁デザインによるオリジナルバックの付いた数量限定特別セットです。<紹介文より>
●W250×H290mm ●224ページ ●バッグ素材:ビニール  

 

■吉岡徳仁さんのHP
http://www.tokujin.com/

■茂木健一郎さんの『クオリア日記』にT/Bします。
http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2007/06/post_8956.html

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