■直球勝負の清々しさ。『フラガール』
●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
古今東西なんでもあり、気楽でささやかな名画座をめざします。
ゆっくりUPしていくつもりなので、ひとつ長~い目で見てやってください。
No.01 『フラガール』
監督:李相日 公開:2006年9月 製作・配給:シネカノン
正しい映画である。真剣で、ひたむきで、まっすぐなのだ。
昭和40年の日本は、そういう時代だったのだろうか。
■ストーリー■
昭和40年。福島県いわき市の炭鉱町。
石炭の時代は終わりつつあり、リストラが進む常磐炭鉱では窮余の一策として、『町民の力で東北にハワイを作ろう!』という計画を立てる。温泉を利用したレジャー施設だ。「目玉」は、うら若き乙女達によるハワイアンダンス。
だが、長い年月、命を張って炭鉱を守ってきた住民達は、ハワイアンセンター推進メンバーと対立する。この苦境に「ハワイ」なんて浮かれる輩は真剣味が足りないと怒りを覚えてしまうのだ。
東京からトップダンサーが教師として招かれ、レッスンが始まるのだが、眩しすぎるハワイアンにたじろぎ、生徒は少数しか集まらない、しかも相手は盆踊りしか知らない田舎娘たち。都会育ちで鼻持ならない教師は、あきれかえり、サジを投げかける。だが、教師が華麗に踊る姿を盗み見した生徒達は、俄然ヤル気になる。その熱意に押され、教師も次第に教えることに正面から向かい始めるのだった。
そんな折、落盤事故が発生し、ますます「ハワイ」に対する反感が強まっていく。オープンの時期は間近に迫っている。果たして、町民たちの理解は得られるのか? 娘たちは本当の「ダンサー」になれるのか?
この映画は、常磐ハワイアンセンター(現スパリゾート ハワイアンズ)が出来るまでの実話をもとにした物語である。
■以下、ネタバレあり。ご注意方!■
■どうしようもない素人集団のもとに熱血教師が現れ、一途な主人公を中心にチームとして大きな成長を遂げていく。
よくあるパターンの筋書きである。
だが、この作品はひねらず、敢えて直球勝負を挑んでくる。その力強さが素晴らしい。
ともすると「この複雑な現代社会」などと安易に語られる現代ではなく、誰もがひたむきだった高度成長期に舞台を置くことで、力強さを強調し、今を生きる我々にエネルギーを与えてくれる。そんな映画だ。
この映画のポイントは、「気付き」だと思う。
紀美子(蒼井優)は、ダンスの持つ、厳しいまでの美しさに気付き、ダンス教師、まどか(松雪泰子)は、教師として生徒たちと成長していくことが自分にとって何事にも代えがたい幸せであることに気付き、紀美子の母、千代(富士純子)は、娘が自分の知る世界から新しい世界へと必死に飛び立とうとしていることに気付く。
その「気付き」が、周りの人たちの心を動かしていく原動力になるのだ。
炭鉱労働の過酷さと、ハワイアンの華やかさ。その鮮明な対比。
だが、それは決して対立するものではなく、「ここにある、今」と「明日への希望」として連続し、高めあうものとして存在している。
明日の希望を守るために、今、自分に出来る限りのことをやろう。
その前向きな爽やかさは、紀美子の兄、洋二郎(豊川悦司)が、まどかに付きまとう借金取り(寺島進)を撃退し、坑道に向かうトロッコに颯爽と飛び乗るシーンで強調される。
だからこそ、フィナーレの華やかさが引き立つのだ。
■ 松雪泰子 ・・・ダンス教師、まどか 役
登場場面の強烈な演出に、しっかりと応えていて見事でした。
トップダンサーとしての鼻持ならない感じや、怒りに震える激しさ、ダンスの時の凛とした美しさ、溢れ出る感情を抑える仕草、それぞれにメリハリが利いていて最高の演技だったと思う。上手い役者さんだったんだな、と見直しました。
それにしても、ソロのダンスシーンは美しかった。
■ 蒼井 優 ・・・メインダンサー、紀美子 役
おとなしく、影のうすい少女のイメージを抱いていたのだけれど、時折見せる、激しい感情を爆発させる演技を自然に受け入れられるのは、福島弁のなせるワザか。
ラストの場面、ステージのソデで出番を待ちながら早苗が送ってくれた髪飾りをつけるシーン。少し首をかしげながらステージを見つめる瞬間のキリリとした瞳にハッとした。この映画で一番印象にのこる絵かもしれない。もちろん、稽古場でのソロのダンスシーン、列車に乗り込み去っていこうとする、まどかに対してフラの仕草で想いを伝えるシーンも捨てがたいが。
■ 富士純子 ・・・紀美子の母、千代 役
夫を炭鉱の事故で亡くし、女手一つで子どもを守り育ててきた強さ。それ故の頑なさが、稽古場で娘の練習姿を見ることで変容する。その気付きと変化がこの映画一番のポイントだったと思う。気丈に一家を支える千代が、「母親」に変わっていく姿が上手く出ていた。ラストでステージを見守る姿は、娘を見守る女親そのものだ。
■ 豊川悦司 ・・・紀美子の兄、洋二郎 役
トヨエツにしては、かなりウエットな役柄を好演していた。中盤、まどかに付きまとう借金取り(寺島進)に凄まれて引き下がる洋二郎。帰り際に借金取りから、「この、半端モンが!」と小銭を投げつけられるシーンの切ない感じが非常に良かった。この弱さがあるから終盤の対決が盛り上がるわけです。
■ 岸部一徳 ・・・ハワイアンセンター代表、吉本 役
いつもながらの飄々とした演技が冴え渡っていた。そんな中で、まどかに逆切れする飲み屋のシーンが最高。(その後の、まどかの対応も笑えたが。)
また、町を去ろうとする、まどかに投げかける、「先生、いい女になったな。」というセリフも決まっていた。カッコイイ。
■ 山崎静代 (南海キャンディーズのしずちゃん)
・・・大柄で不器用なダンサー、小百合 役
素の感じをうまく使ってるな、と思って安心して見ていたが、父親が落盤事故に巻き込まれたと知らされるシーン以降の一連の演技の迫力に圧された。
意外と役者なのだ。
■ 徳永えり ・・・紀美子の親友、早苗 役
明るく素朴な少女らしさが上手く出ていて非常に好印象であった。青春ドラマにうってつけの感じ。今まで知らなかった女優さんだけれど、応援したくなってしまった。頑張れ!
■スタッフ
監督: 李相日
製作: 李鳳宇
脚本: 李鳳宇/羽原大介
企画・プロデュース: 石原仁美
音楽: ジェイク・シマブクロ
演技・振付指導: カレイナニ早川(まどかのモデル)
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■DVD 69 sixty nine
監督: 李相日(2004年公開作品)
原作: 村上龍
脚本: 宮藤官九郎
出演: 妻夫木聡 安藤政信 金井勇太 太田莉菜 柴田恭平 水川あさみ 井川遥
<Amazon評価> ★★★★☆(レヴュー数 35件)
<2007.05.29 記>
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