2016年8月20日 (土)

■『シン・ゴジラ』。非日常的災厄の向こうににじむ、この国への想い。

映画館に2回足を運ぶのは珍しい。いや、ほんと2回ぐらい見ないと消化できないんだもん。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.87  『シン・ゴジラ』         
      監督: 庵野秀明 公開:2016年 7月
       出演: 長谷川博巳  石原さとみ 他

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■ストーリー■
突如、東京湾から現れた怪獣は都内に侵入、街を破壊して去っていった。未だかつてない事態に混乱するなか、怪獣の正体を突き止め対策を立てるべく政府内にタスクチームが立ち上げられる。だが、その結論も出ない状態でさらに巨大化した怪獣が再び上陸してくる。自衛隊の決死の防衛ラインも突破され怪獣は首都中枢部へと侵攻していく。

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■さすが我らがアニメ・特撮ファンの神様、庵野秀明!僕らが観たいゴジラを完璧に作り上げてくれた。庵野と樋口のタッグなら完璧とは思っていたがそのさらに上を行ってくれたのである。この感動は平成ガメラを超えるものである。平成ガメラが特撮怪獣映画としての最高峰ならば、庵野ゴジラは特撮怪獣映画の枠組みを超え、世界に通用する日本独自のエンタメ映画の方向性を示した傑作といえよう。

■今回のゴジラは原点回帰である。初代の持つ、脅威、畏れ、といったものをまとったゴジラだ。

いらないものはそぎ落とし、圧倒的な量の情報を猛烈なスピードで叩きつけてくる。時代を経ていく中でゴジラにこびりついてしまったものをすべて洗い流し、今、この日本で現れるゴジラとは一体どういうものなのか、ゴリゴリと描いていく。

くわしくはネタバレ以降に書くこととするが、初めて姿を現した超生物の眼が映像として映し出された瞬間、ああ、もうこれはダメだ。われわれのこころも常識もまったく通用しない。と悟ってしまう。

■不条理な災厄とはまさにそういったものであり、東日本大震災を経た我々は、そのことを知っている。

では、その災厄にわれわれ日本人はどう立ち向かうのか。

メルトダウンと放射能漏えいに恐怖した日本在住の外国人のように逃げる先はない。日本という島国に住む我々は、ここに踏みとどまり、立ち向かっていくしかないのだ。

怪獣映画としての圧倒的な映像の素晴らしさ、徹底的なリアリズム、キャストの濃密な物量、効果的で胸をゆさぶる音楽。

けれども、その底流に流れる作者の想い。メッセージなどという軽いものではない、血の出るような濃くうずくような想い、それこそが、この映画の根幹なのだと思う。

庵野は、どうしろとは言わない。

 
 私は好きにした。君たちも好きにしろ。
 

ゴジラを日本に差し向けたと思われる博士のメッセージだ。

これは、今の日本に住む我々に対する庵野の想いそのものなのだ。

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■【特撮】

じらすことなく序盤から登場する巨大怪獣。

東京湾から実をくねらせながら川に侵入してくる両生類的巨大なやつ。ぐりぐりの目玉は理解を拒絶し、狂気を映し出す。かわいらしさと気持ち悪さは紙一重だ。

敵怪獣か?と思いきや、こいつはゴジラの進化の過程である第二形態。

上陸したこいつがゴジラ第三形態に変態するシーンには驚かされた。こういうところもうまい。

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ゴジラ第四形態の上陸。

これぞゴジラ、というシーン。

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昼間、というのがいい。

日常に侵入してくる異常性。怪獣映画の定番である。

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この尻尾のシーン。『巨神兵東京に現る』(東京都現代美術館で2012年7月10日より開催された展覧会「館長 庵野秀明特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」にて公開された特撮短編映画。)を思い出した。

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タマ作戦。

都心へのゴジラ進攻に対する多摩川を絶対防衛ラインとする自衛隊の総力戦。

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ずしずしと進むゴジラに対し、ヘリのバルカン砲、大口径弾もミサイルも通じず。F-2から投下される爆弾もゴジラを止められない。多摩川縁に配置された戦車からの砲撃、遠距離からの対地ミサイル攻撃。

ゴジラの強さがわからないから探りながら火力を強化していくところがいい。とりあえず戦闘機からロケット打っとけ、戦車並べとけ、という雑さがない。

えー、これでもだめなの?感が大事なのだ。

だがこれまでの定番怪獣映画のような反撃はゴジラはしない。ただ歩くだけ。

ただ歩くだけなのだけれども大災害。

かえって分かりやすい。

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さて、都心に侵入したゴジラに対する米軍の攻撃。

B-2から投下されるバンカーバスター(敵の作戦本部がある地下壕を破壊する爆弾)に身をえぐられ大きく流血するゴジラ。

そして凶悪化。ここからの怒涛の展開には声を失った。

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惑星を割るイデオンソードのごとき、圧倒的な破壊力。

このあと投下されたバンカーバスターとB-2を破壊すべく背中から全方位熱線を放つのだが、これもまたイデオン。やはりゴジラは神なのか。(庵野はどれだけイデが好きなのか!)

イデオン以降のアニメではある種、定番になった大規模破壊シーンだが、特撮でやった例は無いのではないだろうか?

ここまでの最高の破壊シーンはガメラ3の渋谷激闘だと思う。樋口は自らを超えたといえよう。

ともかく荘厳な音楽とともに破壊されていく首都東京のシーンは永遠に歴史に残るものだろう。

ここで重要なのはゴジラはここまで熱線を吐いていない。積極的攻撃を行っていないこと。自らの破壊の危機が攻撃能力を目覚めさせる。

良く考えればアメリカへの痛烈な皮肉にもとれるシーンだ。

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エネルギーを使い果たし、動きをとめたゴジラ。

矢口たちはゴジラの原子炉としての冷却機能を逆手にとったヤシオリ作戦(やまたのおろちに酒を飲ませるあれ)を決行。

失敗すれば東京に核弾頭を撃ち込まれるという緊張感のなかのわりに明るいのがいい。

新幹線爆弾に、在来線爆弾。

やりたい放題。

この明るさが、後半の軽さにつながるのだけれど、むしろ主役はゴジラではなく日本人なのだ、ということを伝える意味で特撮がフェードアウトしていくのも狙いなのだろう。

うまくいっていると思う。

庵野恐るべし。

■【キャスト】

恐ろしいほどの物量作戦。役柄をもらった俳優がこれだけいる映画も珍しいだろう。それでいて全員のキャラクターを描ききっているから素晴らしい。

甘利昭似の大臣とか、宮崎駿似の御用生物学者とか、くすりとさせるところもツボをおさえている。

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総理を演じる大杉連。

え、今決めるの?聞いてないよ!とか、巨大生物は自重でつぶれますので上陸できません、と言ったとたんに怪獣上陸。言っちゃったじゃないか!とか、かなりいい味。

あっさり死んじゃいます。

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防衛大臣を演じる余貴美子。

きっぱりした感じが、カッコ良かったです。

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臨時総理の平泉成。

ひょうひょうと非常時の総理をこなす。アメリカを筆頭とする諸外国の核弾頭使用を認める苦しい立場を演じる。

ヤシオリ作戦を認める場面で、そろそろやりたいことをやってもよろしいのでは?という赤坂官房長官のことばに、これまたひょうひょうと応じるシーンが魅力的。

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タスクチームの生物学者を演じる塚本晋也監督。

楽しそう。

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環境省の課長補佐を演じる市川実日子。

すでに自重を支えています、巨大生物は上陸するかもしれません、と空気を読まない役人らしからぬ発言をしたり、ゴジラのエネルギーは核分裂だとか、信じられないほんとのことを分かっちゃう頭のいい人を上手く演じた。

いい役者さんです。

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主人公、矢口官房副長官を演じた長谷川博巳。

超抜擢された若い政治家。若さゆえの情熱がこの映画を引っ張っていく。

冷静な政治家、赤坂との対比がうまく機能していた。赤坂(竹野内豊)がいなければ、この人物に現実実を与えることはできなかったろう。

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そして、石原さとみ演じるパターソン米特使。

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こんな若くてかわいい特使がいるわけないじゃんという一番現実味のない役柄でありながら、最後まで説得力がなく、それでもしらけずに物語に没入できたのは、石原ひとみ本人の努力がけなげでかつ嫌味がなかったからだろう。

かわいらしいひとです。

■【音楽】

音楽の鷲巣詩郎はエヴァの音楽をつけたひと。

作戦進行のシーンでエヴァで使った音楽が流れるが、これが意外にあっている。話のテンポがいいからだろう。

首都破壊の場面の楽曲の荘厳さはすばらしい。

 

あとはやはり伊服部昭オリジナルの楽曲。へたにいじくらずに使ったのがいい。

エンドロールでながれるのも分かってる感じ。いろいろ難しい話もあるけど、やっぱり僕らは怪獣映画が大好きなのだ。

 

怪獣大戦争のマーチをくちずさみながら気分よく映画館を出た。

                      <2016.08.19 記>

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■STAFF■
総監督  庵野秀明
監督    樋口真嗣
准監督  尾上克郎
脚本    庵野秀明
特技監督 樋口真嗣
特技統括 尾上克郎
製作    市川南
エグゼクティブプロデューサー
       山内章弘
プロデューサー 佐藤善宏 澁澤匡哉 和田倉和利
撮影    山田康介
照明    川邉隆之
美術    林田裕至 佐久嶋依里
美術デザイン 稲付正人
装飾    坂本朗 高橋俊秋
録音    中村淳 整音 山田陽 音響 効果 野口透
編集    佐藤敦紀 
音楽    鷺巣詩郎
       伊福部昭
VFXスーパーバイザー 佐藤敦紀
VFXプロデューサー   大屋哲男
ゴジライメージデザイン 前田真宏
ゴジラキャラクターデザイン 竹谷隆之
ゴジラアニメーションスーパーバイザー 佐藤篤司
特殊造形プロデューサー 西村喜廣
総監督助手 轟木一騎 助監督 足立公良
自衛隊担当 岩谷浩 製作担当 片平大輔
(B班)撮影 鈴木啓造 桜井景一
(B班)照明 小笠原篤志
(B班)美術 三池敏夫
(B班)操演 関山和昭
(C班)監督 石田雄介
(C班)助監督 市原直
(D班)撮影  摩砂雪 轟木一騎 庵野秀明
(D班)録音  摩砂雪 轟木一騎 庵野秀明
(D班)監督  摩砂雪 轟木一騎 庵野秀明



■CAST■
長谷川博己  矢口蘭堂(内閣官房副長官・政務担当)
竹野内豊  赤坂秀樹(内閣総理大臣補佐官・国家安全保障担当)
石原さとみ  カヨコ・アン・パタースン(米国大統領特使)
高良健吾   志村祐介(内閣官房副長官秘書官[防衛省])
大杉漣   大河内清次(内閣総理大臣)
柄本明   東竜太(内閣官房長官)
余貴美子  花森麗子(防衛大臣)
市川実日子 尾頭ヒロミ(環境省自然環境局野生生物課長補佐)
國村隼   財前正夫(統合幕僚長)
平泉成   里見祐介(農林水産大臣)
松尾諭   泉修一(保守第一党政調副会長)
渡辺哲   郡山(内閣危機管理監)
中村育二  金井(内閣府特命担当大臣[防災担当])
矢島健一  柳原(国土交通大臣)
津田寛治  森(厚労省医政局研究開発振興課長)
塚本晋也  間(国立城北大学大学院生物圏科学研究所准教授)
高橋一生  安田(文科省研究振興局基礎研究振興課長)
光石研  小塚(東京都知事)
古田新太  沢口(警察庁長官官房長)
松尾スズキ  早船(フリージャーナリスト)
鶴見辰吾  矢島(統合幕僚副長)
ピエール瀧西  郷(タバ戦闘団長)
片桐はいり  ベテラン官邸職員の小母さん
小出恵介  消防隊隊長
斎藤工   池田(第1戦車中隊長)
前田敦子  カップルの女
浜田晃   河野(総務大臣)
手塚とおる 関口(文部科学大臣)
野間口徹  立川(資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課長)
黒田大輔  根岸(原子力規制庁監視情報課長)
吉田ウーロン太 町田(経産省製造産業局長)
橋本じゅん 東部方面総監幹部幕僚長
小林隆   山岡(統合部隊指揮官)
諏訪太朗  田原(東京都副知事)
藤木孝   川又(東京都副知事)
嶋田久作  片山(臨時外務大臣)
神尾佑風  越(新政務担当総理秘書官[外務省])
三浦貴大  新人記者
モロ師岡  警察庁刑事局長
犬童一心  古代生物学者
原一男   生物学者
緒方明   海洋生物学者
KREVA   第2戦車中隊長
石垣佑磨  芦田(第2飛行隊第1小隊長)
森廉     避難民
野村萬斎  ゴジラ モーション

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2016年7月17日 (日)

■【映画評】『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』 これでもか、これでもか、と繰り出される笑いのリフが、そこはかとない泣きの主旋律を際立たせるのだ。

思いっきり元気をもらって、久しぶりにブログを書きたくなった。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.86  『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』
          監督: 宮藤官九郎 公開:2016年7月
       出演: 長瀬智也   神木隆之介 他

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■ストーリー■
高校の修学旅行のバス事故で地獄に落ちた大助は恋する同級生・ひろ美に未練たらたら。地獄のバンド・ヘルズのリーダー赤鬼キラーKたちに励まされながら転生を繰り返し、ひろ美の人生に近づいていく。

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■ID2を見に行くつもりだったのだけれど、ついついこっちに惹かれてしまった。正解である。

この映画は映画館で見るべき映画だ。

高レベルの爆音のライブを体感するという意味もあるが、何よりこの映画が演劇的空間を作り上げているからだ。

ストーリーに脈絡は無く、面白い!と思う方に突っ走っていく。ついていけないものは容赦なく置き去りだ。

日本映画に多い、味わい深い文脈といったものを追いかけるのが好きな連中は、それを読み取ろうと心をはたらかせるのだろうが、そのような凝ったものは存在しない。

あるのは緩急のリズム。バンドのシーンだけでなく、この映画自体が音楽であり、リズムとメロディーを楽しむものなのだ。

それは音楽のライブ、演劇の持つ劇場的なものであり、映画館というお手軽なレベルでの、理性の残る余地のある非日常の枠組みさえ越えてしまう性質のものなのである。

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■とはいえ、急ばかりでは疲れてしまう。

大事なのは、緩むこと。緩さの中での何気ないメロディーだ。

その意味で長瀬智也というのは抜群のキャステイングだ。歌姫も、原ちゃんも、本人は真面目なのだけれど、周りから見るとどこかおかしみがある。

その味わいこそが、この映画の主旋律なのである。

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■物語は大助のものでありながら、長瀬が演じる赤鬼・キラーKことスタジオパンダのアルバイトである近藤さんの切ない物語に大きく迂回する。

むしろ、近藤さんと死神こと亀井なおみの物語に、大助が引き込まれていく。

大助はひろ美と再び会う事に恋焦がれて毎週金曜日の輪廻転生を迎えるわけだが、いやおう無しになおみとその息子の人生を眺めることになる。何しろ復活の場所がいつも同じ便器なのだから(笑)。

そして、今や赤鬼となってしまった近藤の愛した人と自分の息子に対する想いというものが、歌として大助の、そして見る者の胸を揺さぶる。

歌というのはとても強いもので、

あなたがいれば地獄も天国♪

あなたがいなけりゃ天国も地獄♪

という単純なことばが強く沁みわたってくるのである。

忌野清志郎が 愛し合ってるかーい♪ と呼びかけるときの、言葉以上の意味がそこに伝わってくるのである。

■そして大切なのはそのテーマをそのまま語らないことだ。

くだらない、あまりにくだらない話。

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大助が転生するインコは母親にキスされそうになり、ザリガニはなおみの息子におしっこをかけられ、あしかは地上の年月により大人になってしまったひろ美に飛びつこうとして脳挫傷、犬は本能に負けてひろ美の足に交尾しようとする。

しまいには人間に転生できる!と思ったら精子からかよ!しかも自慰かよ!(大助を追い越していく中村獅童(笑))

その一方で地獄でのじゅんこのバンド「デビルハラスメント」との抗争。

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そして、秘技、コードH!

とても指がとどかないそのコードを、あーでもないこーでもない、とみんなで議論しているシーンが一番くだらなく、面白い。

それは、常にそこに真剣さがあるからだ。

宮藤官九郎の面白さの神髄はそこにあるのだと思う。われわれはみんなおバカなんだと。一生懸命がんばればがんばるほど面白くなってしまう。。。

くだらないけど、ばかばかしいけど、それでもなお、真剣だからこそ愛おしくて、どうしようもない本当の愛がそこにはあって、笑ってしまうようなものなんだけど、なぜか涙がこみ上げてくる。

まったくどうしたんだろうねえ、さっきまで腹をかかえて爆笑してたのに。

それこそがメロディーの力なのだ。

これでもか、これでもか、とエッジの効いた笑いのリフを繰り返し、そこに主旋律がそこはかとなく流れ込む。

スラッシュメタルの王道だ。

■その主旋律は近藤となおみの深い想いであり、また大助の、そして「安産祈願」のお守りを死ぬまで手放さないひろ美の想いである。

天国でなおみとその息子に、近藤の歌を届けることができた大助は、再びインコになってすっかり年老いたひろ美のところにたどり着く。

そして二人は念願のチューをする。

理屈などない。これはステージだ。演劇だ。プロットなんてクソくらえだ。

だって、若いままのふたりがチューをしなければ、収まらないだろ?みんなこのメロディーを聞きたかったんだろ?じゃあ聞かせてやるよ!

いいか、これが永遠だ!!

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                      <2016.07.17 記>

【補記】

■ゲスト最高!
じゅんこの両腕、マーティ(日本好きだね!)とROLLY
神様Charと挑戦者よっちゃんw
憂歌団の木村充揮もかっこよかった!

Guest

■神木隆之介ももちろんよかった。大きくなってもかわいいよな。

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■森川葵。なんかやられちゃうよね。魔力があるよな。素敵です。

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■STAFF■
監督・脚本:宮藤官九郎
プロデューサー:宇田充、長坂まき子、臼井央
音楽プロデューサー:安井輝
撮影:相馬大輔(J.S.C.)
照明:佐藤浩太
美術(地獄):桑島十和子
美術(現世):小泉博康
装飾:西尾共未
録音:藤本賢一
VFXスーパーバイザー:道木伸隆
カラーグレーダー:齋藤精二
音響効果:岡瀬晶彦
編集:宮島竜治(J.S.E.)
音楽:向井秀徳
主題歌作曲:KYONO
スタイリスト:伊賀大介
衣裳:荒木里江
ヘアメイクディレクション:山﨑聡
ヘアメイク:百瀬広美、風間啓子
特殊メイク・造形:中田彰輝

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■CAST■
キラーK(近藤善和):長瀬智也
関大助:神木隆之介
亀井なおみ:尾野真千子
手塚ひろ美:森川葵
COZY:桐谷健太
邪子:清野菜名
和田じゅんこ:皆川猿時
修羅:シシド・カフカ
松浦:古舘寛治
鬼姫:清
えんま校長:古田新太
手塚ひろ美(37歳・47歳):宮沢りえ
大助の母・よしえ:坂井真紀
ひろ美の娘:山田杏奈
仏:荒川良々
神:瑛蓮
MOJA・MJ:みうらじゅん
鬼ギタリスト:Char
ジゴロック挑戦者:野村義男、ゴンゾー
じゅんこA:マーティ・フリードマン
じゅんこB:ROLLY
地獄の軽音楽部:快速東京
唄うたいの小鬼:木村充揮
鬼警備員:関本大介
緑鬼:ジャスティス岩倉
牛頭:烏丸せつこ
馬頭:田口トモロヲ
鬼野:片桐仁
黄鬼:小泉博康
OMEN藤本:藤本賢一
アナウンサー:平井理央
我慢汁:中村獅童

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2016年3月13日 (日)

■【書評】『資本主義の終焉、その先の世界』榊原英資、水野和夫。いま、最大の国難の時期にあって我々はどう動くべきなのか。

歴史が幻想だとしても、現在を読み解く鏡という意味では強力な武器になる。

■ポイントはシンプル。

現在の世界経済はゼロ成長の時代に入った。投資が隅々までいきわたり、もう投資先がなくなってしまった世界はゆっくりと成長を前提としない仕組みを模索していくことになる。というものだ。

中世の地中海経済は開拓先がなくなり、ブローデルが「長い16世紀」と呼ぶ停滞の時代に入った。金利は2%を下回り、紀元前3000年のシュメールで金利が生まれてから最低の値。そして、現在はその長い16世紀をさらに下回るマイナス金利の時代である。

マクロでみれば金利=投資効果であり、現在において投資にメリットはない。

■2000年頃に躍り出たBRICsはインドを除き大幅に減速。残された投資先はアフリカだが人口的にもうま味はなさそうだ。

我々は経済のパイを地理的に拡げる限界に到達した。資本主義は利益を収奪する「周辺」を失った。

リーマンショックの原因となったサブプライムローンは、そんな地理的限界を国内の中間層に切り替える試みで、無審査の低金利で中間層から「未来」を収奪し、中間層を抹殺していった。

小泉改革以降、新自由主義に舵を切った日本も派遣社員の拡大で中間層からの収奪に忙しい。

それはそうだ。

1%以下の低金利時代。投資しても利益が出ないのに、ROE(自己資本利益率)8%を要求するならば、社員の賃金を下げる、購入コストを買いたたくなどをして、出金をセーブするしかないからだ。購入コストの低下は、下請け企業の更なる賃金低下を招く。

経済産業省主導の国民からの収奪は続き、中間層は疲弊していく。そういう構図にある。

■アベノミクスで経済が回復したと安倍首相は胸を張るが、第1の矢である金融緩和の結果は、株価が上がり、円安で輸出企業が潤っただけで、株価上昇で儲けたのは海外投資家であり、企業の利益はデフレ下では投資に進まず内部留保が膨らむだけなのである。

第2の矢の財政出動は、いくらやってもデフレは解消しない。それはそうだ。購入意欲の源泉である給与所得が上がらないのだから高いものを買おうなんて思う人は誰もいない。

インフレ目標2%なんていうのはまったく意味不明で、実体経済の主体である国民の気持ちがまったく分かっていない人間の理屈なのである。

第3の矢である成長戦略については未だに具体的姿が見えないが、榊原と水野も否定的だ。その根拠は、成熟してすべてがいきわたった世界において物欲を刺激する新たな「商品」は生まれない、というところにある。

これについては、少し疑問があり、後述する。

■この本が出たのは2015年12月25日。年明けの未来を見通していたかのようである。

翌、2016年正月明けの株式市場は上海市場の暴落に引きずられて連日の株安。一時はドル110円、日経15000円割れに至る。

現在、17000円越えまで戻しているが、明日の日銀黒田会見、水曜日のFRBイエレン会見次第でさらに上げるかもしれないが、先週木曜日のECBドラギ会見の乱高下をみるとそうも楽観できないだろう。

中国の中間層が確立できない状態での低成長下は中国が次の時代のエンジン足り得ないことを意味しているし、原油バブルの崩壊はアメリカのシェール革命投資の焦げ付きを意味する。また、欧州を牽引するドイツは外需主導であり中国やアメリカの影響を直接受ける構図であり、ドイツ銀行の不安はぬぐえない。

日本はマイナス金利で不動産バブルを期待するが、実体を伴わない覚せい剤的なものだと分かっているから、何かの破綻が起きればその余波を受けてはじけるのは目に見えているので、ババ抜きゲームの感を否めない。

もう、世界経済の失速は始まっている。あとはどうランディングするかだ。

最悪なのは選挙対策として、今、日銀がやっているような無理な買い支えである。反動が起きくなるだけであり、本当に急落するときに下落率の減速させる本来のオペレーションが出来なくなるのではないか、それを心配するのである。

■日本における低成長時代は江戸時代の中~後半にも見られた。徳川の平和が訪れ、一気に生産性が向上。豊かになった日本は生産性向上の限界を天井に長期の停滞期に入る。

だが、その時代は文化が満ち溢れた時代であり、これからの日本は今の低成長を前提として維持しながらそういった時代をめざすのだと二人は語る。

けれども、内部で完結していた江戸時代と、原油や原材料、食糧を輸入に頼る今の日本では構図が異なる。

今、日本が低成長を維持できているのはかろうじてアメリカと中国の経済が維持されているからだ。

そこそこの内需があるものの、製造業はいまだに外需に頼っているのだ。

世界が購入余力を失った時、日本がどうなるか。想像するだに恐ろしい。

だから、アベノミクスの第3の矢は成長戦略から産業革命戦略に読み替える必要がある。

世界経済に左右されない強固な国造りをしなければならない。

■今、まさに国難である。

明治維新になぞらえれば、いまは開国の舵を切った幕府に対する不安が高まった安政の大獄の頃だろうか。これから動乱が始まるのである。

明治を打ち立てた幕末の志士たちは世界の知を己の血に取り込むことで日本の独立を守った。

今回は、世界に渦巻く金融至上主義の断末魔から国民経済を守るというオペレーションだ。

まだ体力があるうちに次の手を打たなければならない。

いくつかヒントがあるように思われるので列挙しておく。

 

①AI、ロボット技術の推進

少子高齢化は避けられない。国内消費を支える国内生産を維持するならば、体力的に厳しく安価な労働力が不足する。

そこで移民だ、と考えていたが、欧州をみればどうも良い選択だとは思えない。

そこで日本がリードするロボット技術で解決するのだ。今の技術なら自動車の組み立ての完全自動化も可能だろう。

農業にしても、AI化で相当なことができるはず。生産の効率化で食糧需給の問題も一気に解決したい。農家は土地を提供してそれに応じたリターンを得ればよい。

ともかく国内生産の高コスト問題が賃金だとするならば、完全自動化がひとつの答えになるだろう。

問題は雇用だが、高齢化福祉をはじめとする社会保障に活路を見出してはどうかと思う。これは③で述べる。

 

②エネルギー革命

原油の輸入に頼らない社会をつくる。

自動車は近い将来EV化するだろう。そうすれば、住宅との組み合わせで日中、夜間はEVに貯めた電気を使い、深夜はEVの充電に充てる。そうすれば電気需要の安定化、効率化を図れる。

問題の発電は何かの革命が必要だが、そこにこそ研究開発投資と人財の投入が必要だと考える。

かつて消えていった夢の技術である常温核融合はどうなったのか?

量子力学の世界は日進月歩である。膨大なエネルギで量子状態を作り出す今の核融合のアプローチは極めて効率が悪く、その一方でわれわれ生体の仕組みの中に量子状態を作り出すメカニズムがあることが分かってきている。例えば光合成がそうだ。

常温核融合のポイントは、金属結晶格子の中に取り込んで水素原子間の距離をつめることにある。その程度の距離では量子状態にはならない、というのが現在の理解だが、生体が量子状態を生むメカニズムを紐解くことで、不安定的にしか再現できなかった常温核融合をコントロールする技術が生まれるのではないだろうか。

 

③地域でつくる人のつながり

①で生産する仕組みができあがり、②でエネルギーが確保されれば、基本的にシステムは回りだす。

だが、この仕組みは拡大を指向しないエコシステムであるがために労働市場と賃金の縮小を生む。

どうやって国民は自分の食い扶持を稼いでいくのか。

①、②の仕組みで利益を得るのは企業である。

その企業に参加できるものは生きていけるが、それ以外の人間は収入の手段を持たないことになる。

いったい我々はなにをもっているのか?

たぶん、その答えは社会的安定なのだと思う。

これが現代日本が持つ最大の価値である。

いま、私に答えはない。

だが、人と人とを分断し、能力主義、自己責任という宗教を布教してきたのが資本主義だとするならば、その逆のところに答えがあるのではないだろうか。

歴史をひも解き、ヒントを探す手もあるかもしれない。

 

いずれにしても、時間が無い。

あと10年の間に次の道筋が描けなければ、子供が社会に出るときに日本の秩序は崩壊しているかもしれない。

だから、ただ危機感をもつだけでなく、自分に何かできることが無いか、それを模索中なのである。

                            <2016.03.13 記>

■資本主義の終焉と歴史の危機

2014年3月刊。この本に先立つ水野和夫の本。

彼の主張とロジックはこの本の方が本質に触れている。

むしろこちらを読むべきだろう。

 

■資本の世界史  資本主義はなぜ危機に陥ってばかりいるのか ウルリケ・ヘルマン

2015年10月刊

資本主義の起源をイギリスの産業革命とし、貨幣経済と資本主義を峻別する論。

資本主義の本質は投資に対するリターンの拡大であり、ゆえに拡張が資本主義そのものである。

新自由主義は、実体を伴わないその行き過ぎた拡張主義ゆえに破綻する。経済危機に対しては実体経済への投資が必要でケインズ流の大型財政出動と高率の累進課税が最良の選択である、とする。

産業革命以降、我々は指数関数的な成長をしてきた。

その成長と危機の歴史が分かりやすく解説されていて、とても勉強になった。

けれども、だからといってこの低成長の時代にケインズ流が通用するかどうかは疑問である。

それを差し引くにしても、資本主義の本質に迫る良書だと思う。

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2016年1月 5日 (火)

■常温核融合と「劣化ウラン弾」という名の超小型核爆弾。

常温核融合の技術がなぜ進まないのかを調べていたらとんでもない話にたどりついた。

常温核融合は重金属の金属結晶格子間に重水素を大量に吸着させて接近させ核融合反応を起こさせる技術だが、その結果放出されるエネルギーは母材の重金属を核分裂させる。
母材がウランの場合、それは原爆となるが、従来の原爆とは異なり臨界質量つまり大量のウラン235を必要としないのが肝。少量の重水素化天然ウランを銃弾に仕込めば大砲並み(TNT火薬200kg級)の威力で起爆する。放射能も残らない超小型原子爆弾である。
これがイラクで’貫通力が優れる’と宣伝された劣化ウラン弾の正体。という話。 ちょっと物理の知識が必要だが面白い。論理的にも破綻してないと思います。

                         <2016.1.05 記>

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2015年12月30日 (水)

■小泉政権の独裁は何故良くて、安倍政権の独裁は危険なのか。

安倍政権は小選挙区制をかさに着た官邸の独裁であり、自民党内の議論を封殺するという意味で民主主義を殺すものである。

さかのぼれば、小泉政権も同じ構図の独裁性をひいていた。

ならば、なぜ小泉政権は受け入れられて、安倍政権は危険なのか。

それは役割りの違いにある。

小泉は「既存の権益をぶっ潰す!」という破壊の役割りを担った。

低成長、マイナス成長の時代において、従来の高度成長を前提とした社会システムは機能不全に陥っていた。だから、ぶっ潰した。

そこに選択の余地はなく、だから受け入れられた。

 

問題は、再構築の過程にある。

低成長、マイナス成長の時代にあった、新しい国造りをしなければならない。

破壊に選択の余地はないが、再構築にはいくつもの道筋があり、どの道を選ぶのか、どんな国をつくるのか、という段階においては、深い議論が必要なのである。

民主主義の根幹は深い議論による相互理解とアウフヘーベン(○か×ではない、新しい高みへのステップアップ)にある。

決して、○か×かの多数決ではないのだ。

残念ながら野党にその能力がないことは、先の政権で明確になった。現在の議論でも論理以前の反対反対で、残念ながら議論のレベルに達していない。

自民党の中での血がにじむような真剣な議論が必要なのだ。

再度言う。

再構築の過程における独裁は危険だ。

論議無くして民主主義は無い。

日本は今、民主主義の危機にある。

極めて危ない状況にある。

2015年の暮れに改めて思う。

来年、世の中はどう動くかのか。注目である。

安倍政権が推し進める新自由主義に対抗する議論が必要とされている。

                      <2015.12.30 記>

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■【アニメ評】『プラネテス』。愛し合うことは、どうしてもやめられないんだ。

宇宙を舞台に人間の業と救済を描く、傑作である。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
番外編  『プラネテス』
          監督: 谷口悟朗 原作:幸村誠 公開:2003年10月ー2004年4月

Planetes2

■ストーリー■
2075年、核融合の原料であるヘリウム3を求めて人類は宇宙に進出していた。だがその一方、多くの宇宙廃棄物である大量のデブリが軌道上に存在し、宇宙船への衝突の危険が高まっていた。

ハチマキはそのデブリ廃棄の仕事に就きながら自らの宇宙船を持つという無謀な夢を追っていた。そこに新人としてタナベという若い娘が配属される。宇宙は孤独な世界だと信じるハチマキに対し、タナベは愛の存在を唱え続ける。

2人は衝突しながらも、会社のお荷物的存在であるデブリ課の温かい仲間との関係性の中でお互いを認め始める。そんな中、初の木星探査に向かう最新鋭宇宙船フォン・ブラウン号の搭乗者の公募が始まる。初めは高根の花だとあきらめていたハチマキだったが。。。

Hatimaki1

■原作の幸村誠は、早世の天才漫画家、坂口尚の後継者である。

私とはなにか、他者とはなにか、という問題について悩み続けた幸村は絶対に坂口尚の『あっかんべェ一休』を熟読している。そして、悟りというものについて感覚的に理解し、その世界を覗きこんでしまっている。

宇宙服の外はまったく何もない宇宙空間。そこに一人漂えば、そこには「わたし」しかいない。その恐怖。

一人で生きて、一人で死ぬ。

宇宙に魅入られた人間はそうやって生きていくんだとハチマキは信じる。

光り輝く宇宙の星々の間には何百光年もの隔たりがあり、絶対零度の冷たい空間が拡がっている。

Hatimaki2

■やがて、ハチマキは宇宙の真理をみる。

すべてはつながっている。誰もが孤独な宇宙をかかえているが、その小さな宇宙が重なり、つながって、この宇宙は成り立っている。他者とのつながりそのものが宇宙なのだ。

けれども、宇宙の深淵を覗き、悟ってしまったハチマキに生きていく理由も意味も無くなってしまった。

何かが欠けている。

それを識っている人がいる。タナベだ。

Tababe3

タナベの愛がハチマキを救う。

どうってことない、当たり前の答え。

それが、読むものの心を揺り動かすのだ。

■その原作と並行しながらアニメ化がスタートしている。

だからなのか、単なる原作のトレースではない。

暴虐的なまでのタナベの愛は、幼く純粋なものに書き換えられ、恋愛ストーリーとしてタナベとの関係性が語られていく。

Tanabe1

原作のタナベは幼児期に宇宙(世界)の真相を見てしまっていたがゆえに、ある意味完成された存在(愛の女神)であるが、アニメのタナベは発展途上の乙女。

だから面白い。

ハチマキへの一途な愛。

すべての存在への愛は、ハチマキへと収斂していく。

一方のハチマキは宇宙への想いに囚われている。

宇宙飛行士にとって致命的な感覚障害に陥った時、ハチマキを救ったのは決してタナベの愛などではなく、核融合エンジンに触れることで燃え上がった宇宙への意思である。

 

「君のその愛が彼の心をとらえた事などないのだよ」

 

原作でロックスミスが技術の夢のとりこであった部下の妹に吐いた殺人的なセリフが、形を変えてタナベを襲う。

落下するフォン・ブラウン号から脱出し、月の荒野をさまようタナベは、そのことに気付き、膝をつく。

アニメ版での一番重要なシーンだと思う。

アニメ版のタナベだからこそ成立する悲しみである。

そのあまりに人間的な愛おしさ。

これは、テロリストのハキムを撃とうとするハチマキの心の寂しさに涙を流し、キスをし、抱きしめることで、そのこころを救う原作版のタナベの女神性との対照である。

私は、どちらのタナベも好きだ。

■タナベだけではない。

Deburi

デブリ課と会社との関係、ハチマキ、タナベそれぞれの同期。フィーのかつての同士、ハチマキの教官。

重層的な人間関係を描くことによって得られた物語の厚みは、原作の若さゆえの舌足らずを捕捉し、ハチマキに人間としての深みを与えることに成功している。

企業の論理、国家間の貧富の格差といった社会問題を縦糸に、その人間模様を横糸に、物語は原作にないエンターテイメントを紡ぎだす。

■原作とアニメは別のアプローチをとっている。

感じ入るものも違うだろう。

アニメはあえてハチマキの中に生まれた宇宙の深淵からは距離をとる。

だが、無という、本来、生きた人間が覗き込んではいけないものを覗きこんでしまったハチマキの内面を敢えてそぎ取ることで、その結果ハチマキが手にした「つながり」、「愛すること」を語らずして語ることに成功している。

ハチマキが生きる世界を、その一人ひとりだけでなく、つながりとして描き続けることでそれを語りきっているのである。

その意味でたどり着くところは同じだ、

つながること。愛し合うこと。

その当たり前のことは、どこまでも拡がっていく。

いい作品だ。

Nono2

                      <2015.12.30 記>

■幸村誠は現在ヴィンランド・サガを連載中。

11世紀、ヴァイキングの時代。アイスランドに生まれたトルフィンの物語。

「ヨームの戦鬼(トロル)」と恐れられた父のトールズは何故戦いから逃げたのか。その父を殺し、恨みを買いながらもトルフィンを戦士に育てあげたアシェラッド。平和な世界を一瞬で地に染める暴力の世界の中で、神を見限り、力で幸福な世界を作り上げようとするイングランド王クヌート。

その壮絶な人生に深くかかわりながら、自らの道を探していくトルフィン。

幸村誠はこの作品でプラネテスをトレースし、そしてそれを超えていく。

トルフィンはハチマキが見た深淵を地獄として見、それを抱えて生きていく。

暴力が支配するこの世界ではタナベの愛では通用しない。

ヴィンランド・サガにおいて、幸村は自らの作品だけではなく、心の師匠である坂口尚をも超えようとしている。

その心意気やよし。

現在16巻。実に楽しみな作品である。

 

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