2017年4月19日 (水)

■【映画評】『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』 「事実」は必ずしも「真実」を映さない。

もちろん、泣きましたよ。でもね、ちょっと薄っぺらいんだよなあ。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.102  『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』
           原題: LION 
          監督: ガース・デイヴィス 公開:2017年4月
       出演: デーヴ・パテール  ルーニー・マーラ 他

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■あらすじ■
インドの貧しい町に住む5歳の少年は駅で兄にはぐれ、迷い込んだ回送列車で遠く離れた町で迷子になってしまう。孤児院に収容された少年はオーストラリアの夫婦に引き取られ、立派な大人に成長する。しかし、あるきっかけで故郷でいまだに自分を探しているはずの母と兄の記憶がよみがえり、Google Earthを使って生まれ育った町を探し始める。

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■迷い込んだカルカッタの街は、サル―のような孤児が山のようにいて、人さらいも横行、孤児院も孤児であふれかえりひどいありさま。

このあたりが、どこまで1990年頃のインドの真実のどこまでを表しているのか分からないけれど、かなりの迫力と説得力をもったパートだ。

インドの空気に触れたいというのが、この映画を見た理由のひとつだったので、その意味では満足である。

後半は、青年になったサル―が、25年前の別れを思い出し、故郷にたどり着くまでを描くのだけれど、Google Earthを使ってそこに迫る4年の月日と、それに寄り添う彼女の甲斐甲斐しさがアクセントとなり、ストーリーとしては申し分ない。

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本作は実際にあったことをもとにしたストーリーである。

その事実もあいまって、終盤、サルーがGoogle Earthで幼いころの記憶を取り戻していくシーンや、母親との再会のシーンは、否が応でも感情は盛り上がり、ほとんどの観客は頬を涙で濡らすことになる。

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■うまくできた話だし、実話だし、感動するし。

だから評判も実にいい。

けれど、私は思ったほどには心を動かされなかった。思いっきり心の準備をしていたにも関わらずである。

何故か。

要するに薄っぺらなのである。

泣いておいて何を、というところだが、涙を流すことと話の厚みによる深い感動はまったく別の話なのだ。

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■ポイントは、サルーを引き取ったオーストラリア人の夫婦との関係にある。

使命感に突き動かされて生きるこの夫婦は、インドの孤児が置かれている状況に心を痛め、実際に自分の子供をつくることができるにも関わらず、それをあきらめ、サルーと、もうひとり、自閉症気味のマントッシュを引き取った。

そして二人にあふれるような愛を注ぎ、大人になるまで育て上げたのだ。

実にいい話なのだけれど、まともな生活を送ることができないままマントッシュは今、幸せなのか、一見、立派に育ったサルーも、結局、自分の過去に引きずられてしまうのだけれど、奇跡的に故郷にたどり着いたにせよ、そこに至るまでの彼は幸せだったのか。

妻はアル中の父親との過去があり、心に深い傷をもっている。

それゆえの使命感。

でも、それはみんなを幸せにしたのだろうか。

■インドには何万人もの孤児がいて、その中から二人を救い出し、不自由のない生活と愛を与える。

やれることからやっていこう、という行動主義的観点からみれば、「正しい」ことだろう。

決して、意味がないとか、自己満足だとは言うまい。

けれども、サルーにとってみればマントッシュへの愛着と、その自閉症的なコントロール不能な部分に対する苛立ち、そして自我か確立していくなかでの育ての親に対する過剰な反発。そんな、とっても大事な部分がほぼすっ飛ばされている。

そこに直面した両親の心の葛藤は通常の親よりもかなり複雑なものであるはずで、そこを描かないで、どうする、ということだ。

■確かに、成人したマントッシュの存在は、そういった家族の過去を映し出す役割を果たしてはいるが、そういった葛藤をマントッシュに押し付けてしまい、サルーは、きわめて「よいこ」で、彼の危機は過去の自分に集約されてしまう。

この単純化が、物語をきわめて底の浅いものにしてしまうのだ。

育ての父も、母も、サルーも、いい人過ぎるのである。

要するに「お行儀がいい」。

たぶん、これが「事実」に基づいた物語であり、関係者が今まさに生きている、そのことによる限界なのだろう。

「事実」を連ねても、「真実」は見えない。

この家族の「真実」を見ようと思えば、触れられたくない部分に分け入っていかなければならない。

その「真実」が、人の心を動かすのだ。

■そういう意味で、実の兄のグドゥは、「事実」しか並べられていないにも関わらず、深く、その「真実」が伝わってくる。

実の母との対面で知った、グドゥの「真実」は、観る者の心に深く突き刺さる。

たぶん、この映画で一番心を動かされたのは、このシーンだ。

「真実」は、人生のリアルを感じたときに、観る者それぞれの心の中に生まれるものなのである。

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                      <2017.04.19 記>

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■STAFF■
監督 ガース・デイヴィス 
脚本 ルーク・デイヴィーズ
原作 サルー・ブライアリー、ラリー・バットローズ
 『25年目の「ただいま」 5歳で迷子になった僕と家族の物語』
音楽 フォルカー・ベルテルマン、ダスティン・オハロラン
主題歌 「Never Give Up」(シーア)
撮影 グリーグ・フレイザー
編集 アレクサンドル・デ・フランチェスキ


■CAST■
デーヴ・パテール    - サルー・ブライアリー
サニー・パワール   - 幼少期のサルー
ニコール・キッドマン  - スー・ブライアリー
ルーニー・マーラ     - ルーシー
デビッド・ウェナム     - ジョン・ブライアリー
ディープティ・ナヴァル
ディヴィアン・ラドワ

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■【映画評】『スウィングガールズ』 リアルとつながっている成長物語が生み出す一体感は、清々しく健康的で、気持ちいい。

音楽部で管楽器をやりたいって言いだした中一の娘と見るべくスウィングガールズを借りてきたんだけど、親父の方がノリノリになってしまって・・・(笑)。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.101  『スウィングガールズ』
          監督: 矢口史靖
       公開:2004年9月
       出演: 上野樹里 貫地谷しほり
          本仮屋ユイカ 豊島由佳梨 平岡祐太 他

Title

■あらすじ■
東北の田舎の高校。夏季補講を受けていた女子生徒たちが高校野球の応援に行った吹奏楽部にお弁当を届けるという口実で出かけたが電車を乗り過ごしてしまい、猛暑のなかで腐敗した弁当を食べた吹奏楽部は全員食中毒になってしまった。次の試合の応援のために急遽吹奏楽団のメンバーをつのったのだが。。。

■面白い。

ジャズビッグバンド結成からラストの演奏会までのマンガのような展開には、何度も腹をかかえて笑ってしまう。

上野樹里は本作で映画デビューなのだが、もうすでに上野樹里としてすっかり出来上がっていて、演奏会のビデオのくだりなんかはもう、上野樹里でしかありえない面白さがにじみ出ている。

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彼女だけでなく、矢口史靖の脚本はすべてのメンバーを笑いのなかであたたかく輝かす。

青春映画の天才なのかもしれない。

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もとバンド兄弟のシーンは完全につぼにはまって腹がよじれるかと思った。。。

■さて、ジャズである。

公開当時に話題になったのは覚えているのだけど、ほぼ全員が素人で、各リーダーについてはまったくの未経験者だったとは知らなかった。

それなのに、5月に特訓を始め、8月にはラストシーンのセッションを取り終えたというのだからびっくりしてしまう。

それくらいにうまい!

みんなノリノリで演奏していて、見ていて楽しいし、かっこいい。

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■矢口史靖監督は、素人を集めて全員に実際に演奏してもらう、ということを初めから決めていいたのだという。本物かどうかは、見ている人にはすぐにわかる。本物でなければ観客を惹きつけることはできない、と考えたのだそうだ。

まさにそれ。

まったく違和感なく彼らの成長に寄り添うことで、観る者はいつの間にか彼らを応援する気持ちになってしまう。

この映画の周囲の大人たちや仲間たちが演奏会の会場に集まって彼女たちのセッションを楽しむ姿は、われわれ観客と地続きであり、そして、あのスウィングに身も心も踊ってしまうのである。

『幕が上がる』で「ももクロ」の成長が描かれたように、あるいは『ラブライブ!』のように、この構造は今やヒット作品のひとつの型となっているが、その先鞭をつけたのは『ウォーターボーイズ』と本作を手掛けたこの矢口史靖監督なのである。

このリアルとつながっている成長物語が生み出す一体感は、清々しく健康的で、実に気持ちいい。

その一体感こそ、音楽の「楽しさ」であり、それ故に、そういったあらゆる面での相乗効果によってこの映画は観るものを「スウィング」させる。それは同じジャズを扱った映画『セッション』の「凄み」とは対局に位置するものだといえるだろう。(もちろん『セッション』も大好きだけれど。)

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■演奏会。

メガネ女子の関口によって焦りと緊張から我を取り戻したメンバーの演奏は観客の心をつかむ。

音楽って、楽しい。

どの音楽も楽しいのだけれど、ジャズって、本当に楽しい。

ついつい体をゆすってしまい、どぅんどぅどぅん、ぱっ、ぱ――!なんて口ずさんで、一緒にのってしまいたくなる。笑顔にさせる。

理屈じゃあない。 

そして最後の曲のシング・シング・シング。

もうこれがすこぶる、かっこいい!

こういう映画はただひたすらラストシーンのセッションを楽しむに限るのである。映画の本編はそのためだけにあったと言っていい。

娘よ!お父さんはあなたが寝た後、何度も何度も巻き戻して見てしまったよ!

いやー、ホント楽しい!!

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                      <2017.04.19 記>

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【DVD】 スウィングガールズ
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■STAFF■

監督、脚本: 矢口史靖
製作:亀山千広、島谷能成、森隆一
企画:関一由、藤原正道、千野毅彦
プロデューサー:関口大輔、堀川慎太郎
脚本協力:矢口純子(矢口監督の妻)
音楽:ミッキー吉野、岸本ひろし
バンドディレクション:山口れお
撮影:柴主高秀
照明:長田達也
録音:郡弘道
美術:磯田典宏
編集:宮島竜治


■CAST■

スウィングガールズ&ア・ボーイ
鈴木友子(テナーサックス):上野樹里 
斉藤良江(トランペット):貫地谷しほり 
関口香織(トロンボーン):本仮屋ユイカ 
田中直美(ドラムス):豊島由佳梨 
中村拓雄(ピアノ):平岡祐太 
渡辺弘美(ギター):関根香菜 
山本由香(ベース):水田芙美子 
久保千佳(アルトサックス):あすか 
岡村恵子(アルトサックス):中村知世 
大津明美(テナーサックス):根本直枝 
清水弓子(バリトンサックス):松田まどか 
石川理絵(トランペット):金崎睦美 
下田玲子(トランペット):あべなぎさ 
宮崎美郷(トランペット):長嶋美紗 
吉田加世(トロンボーン):前原絵理 
木下美保(トロンボーン):中沢なつき 
小林陽子(トロンボーン):辰巳奈都子 
  
友子の父・鈴木泰三:小日向文世 
友子の母・鈴木早苗:渡辺えり子 
友子の妹・鈴木亜紀:金子莉奈  
友子の祖母・鈴木みえ:桜むつ子 
  
数学教師・小澤忠彦:竹中直人   
音楽教師・伊丹弥生:白石美帆  
吹奏楽部の男子生徒・部長:高橋一生  
野球部の男子生徒・井上:福士誠治  
音楽教室の先生(トロンボーン)・森下:谷啓  
  
楽器店の店員:江口のりこ  
スーパー店長・高橋:木野花  
スーパーフロアチーフ・岡村:大倉孝二  
兄弟デュオの兄・高志:眞島秀和    
   山形県米沢市出身。方言指導も担当。  
兄弟デュオの弟・雄介:三上真史  
パチンコ屋店長:田中要次  
バス運転手:佐藤二朗  

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2017年4月16日 (日)

■【映画評】『ムーンライト』 月の光に照らされて黒人は美しいブルーに染まる。

美しい詩のような映画である。

物語そのものではなく、登場人物の表情とまなざしが、こころの髄に染みわたる。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.100  『ムーンライト』
           原題: Moonlight
          監督: バリー・ジェンキンス 公開:2017年3月
       出演: トレヴァンテ・ローズ  マハーシャラ・アリ 他

Title

■あらすじ■
マイアミのスラム街に育った少年の人生を、幼少期(リトル)、高校生時代(シャロン)、青年期(ブラック)、の3部構成で描く。

華奢で内またのシャロンは友達からオカマだとひどいイジメを受けていた。その姿をみたヤクの売人の元締めのフアンは彼を助ける。シャロンの母親はシングルマザーで薬物中毒であり、まともにシャロンを育てることができず、フアンは愛人のテレサとともにシャロンの面倒を見るようになる。はじめは心を閉ざしていたシャロンだが、フアンとテレサの愛情に心を開くようになっていく。

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■静かで、朴訥な映画である。

しかし、その敢えて被写体深度を浅くして焦点がぼやけた画面とカメラワークの見事さ、そして何よりマイアミの風景とそこに写り込む黒人の美しさ!それだけで十分にすばらしい映画である。その美しさが、あまり詳しく語られない黒人たちの内面を表出させ、観る者のこころに何かを深く刻み込むのだ。

はっきり言ってしまえば、結論めいたものが提示されるストーリーではない。

けれど、実際のところ、それが人生なのである。

そういう自己主張が希薄であるからこそ伝わってくる深さが、本命の「ラ・ラ・ランド」を押しのけてアカデミー賞の作品賞に選ばれた理由であろう。

■人生の輝きという意味で、ヤクの売人のフアン(マハーシャラ・アリ)が最高にかっこいい。

決して誇れた仕事をしているわけではないが、キューバからアメリカに亡命してきて、それでもつらい過去として忘れるべき故郷の母親や近所のばあさんへの想いはおき火のようにこころの深いところで燃え続けている。

近所のばあさんが、夜中に海で走り回る少年時代のフアンをつかまえて、満月の光に照らされると黒人は青い美しい色に染まるんだよ、という。

それは黒人であることへの誇り。社会的に貧しい地位に押し込められていても、黒人は本来的に美しい、という自己承認なのだ。

現実のシャロンはヤク中のどうしようもない母親と、ゲイであるかもしれないという自分への不安を抱えて、浮き上がる筋道も見えない。

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けれど、それでも黒人として自信をもって生きて行っていい。

人生は他人に決めさせてはいけない、自分で選び取り、作り出すものだとフアンは教え込む。

それが後のシャロンの背骨となり、生きていく力を与えることになるのだ。

■高校生になった第二部で、そのフアンはすでに過去の人となっている。何が起きたかについては最後まで語られない。

高校生になってもシャロンはさえないヤツで、ドレッドヘアのジャマイカかぶれの同級生にいつもいじめられている。

そんな中で幼馴染のケヴィンだけは、彼に普通に接してくれる。

友達思いのケヴィン。

しかし、それは「男同士」の微妙さを含むもので、海辺で二人きりになったときにその思いが行動として示される。

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■これを単なるゲイと言っていいのか。

ケヴィンは女も大好きなので、いわゆるバイセクシャルというべきところなんだけれども、この微妙さは、そういうカテゴライズする考え方とはまったくそりが合わない。

まさに「男同士」。

中高と男子校で育ったために、その微妙なニュアンスが分かってしまう気がして、逆にこわい。

通常は、その気持ちを押しとどめてしまうものなのだけれど、 しっかりと描いてしまう。

でも、これがないとそれに続くケヴィンの裏切りのシーンの深みも表層的なものとなってしまうから、ここで普通の男は避けて通るこの「思い」を正面からとらえたのは正解なのだと思う。

■ゲイとか、バイとか、人間は名前をつけてそれらを自分と違う別のものとして排除し、そこにも権利があるとか口では聖人ぶったことを言うのだけれど、要するに差別を区別に切り替えただけで本質的な違いはない。

実はノーマルだと思っている我々にもそういう心の動きがあって、男同士の友情があるときに、実はそれと切り離せない関係にある。

それを認める根源的な恐ろしさからの逃避なのだ。

その恐ろしさゆえに、それを真正面から認めないままに、男同士の友情には独特の深さがあるのだと思う。

だからここではっきり言ってしまおう。

この映画のテーマは決して「ゲイ」を描くことではない。もっと、もっと普遍的なものだ。

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■さて、ケヴィンの裏切りのあと、シャロンはある事件を起こして少年院に送られる。

その後の青年期のを描いた驚きの第3部についてはネタバレ以降で。

 

   
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

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■げーっ!

シャロンがマイク・タイソンになってる!!

たくましい肉体。金歯。バリバリにやばい黒人である。

耳たぶに輝くダイヤのピアスはシャロンは、憧れのフアンになりたいという強い思い証しである。

弱々しかったいじめられっ子が肉体改造によって自信をつけるのは、マイク・タイソンやアーノルド・シュワルツェネガーに見ることが出来る変身の王道だが、それでフアンやテレサのような強い、包み込むような愛を獲得できたかといえば、まだ道半ばなのである。

少年院の仲間に誘われてフアンと同じヤクの売人の道に入り、そこでのし上がった。

けれど心は空虚なままだ。

■そこに、テレサから電話番号を聞いたというケヴィンから突然の連絡が入る。

アトランタからマイアミに帰るシャロン。

途中で母親が収容されている施設に寄るのだが、このシーンもグッとくる。

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ヤク中でボロボロになり、クスリ欲しさに子供のカネさえむしり取る、ひどい母親であったこと。その母親を避け、見放したシャロン。

親子の間のこのどうしようもない現実は、けれども親子それぞれにとって血のつながりが決して切れない、その思いもまたどうしようのなく強いが故に、あまりにも切ない。

それを痛いほどに感じさせるシーンである。

きれいな結論はない。

どうしようもないことを、どうしようもなく描くこと、そこが人生に対する誠実さとして表れているのだと思う。

■どうしようもない想い。

それは、かつて高校の狭い社会のなかで自分の身を守るためにシャロンを裏切ったケヴィンと、それを痛いほどに理解していて、それでもその裏切りに傷ついたシャロンの二人についてもいえる。

再び出会った二人は、最終的に体を預け合って抱き合うことしかできない。

ふたりの関係は、言葉がなんとかしてくれるようなものではなくなってしまっているのだ。

まとわりつく二人の視線は、同じ「男同士」であっても、『ブロークバック・マウンテン』で描かれたような肉体で求めあい、確かめるものではない。

さらに深く、根源的な、生き別れの、そしてもう決してもとには戻ることの出来ない自分の片割れにすがりつくような、そういう切ない悲しみが、その男同士が抱き合う姿には流れているのだ。

 

■この映画には、種明かしもなければ、カタルシスに導くようなエンディングも用意されていない。

人生には、そのようなものは用意されていない。

シャロンも、ケヴィンも決して満たされているわけでも、幸せな人生に包まれているわけでもない。

けれど、他人に決められたものではない、自分で選んだ道をそれぞれに歩んでいる。

この事実ひとつが、この映画の導入でフアンが語った「美しさ」そのものなのだと思う。

世界中の万人に共通することかどうかなんて知ったことではない。

ただスラムに生きる黒人にとって、黒人は美しい、と確信をもって、それを礎にストリートでの決まりきった人生から脱却して自分の道を自らの足で歩んでいく。

そこに月の光を浴びた、本来の黒人の美しさが現れてくるのだと、このあまりにも美しい映画は語っているのだ。

ただ一言、

Black is beautiful!

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                      <2017.04.16 記>

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■STAFF■
監督   バリー・ジェンキンス
原案   タレル・アルヴィン・マクレイニー
原作   タレル・アルヴィン・マクレイニー
      ;In Moonlight Black Boys Look Blue"
音楽   ニコラス・ブリテル  
撮影   ジェームズ・ラクストン  
編集   ナット・サンダース    
      ジョイ・マクミロン  

■CAST■
大人のシャロン / 「ブラック」 - トレヴァンテ・ローズ
ティーンエイジャーのシャロン - アシュトン・サンダース
子どものシャロン / 「リトル」 - アレックス・ヒバート
  
大人のケヴィン - アンドレ・ホランド
ティーンエイジャーのケヴィン - ジャレル・ジェローム
子どものケヴィン - ジェイデン・パイナー
  
ポーラ - ナオミ・ハリス
テレサ - ジャネール・モネイ
フアン - マハーシャラ・アリ
テレル - パトリック・デシル

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■【映画評】『天然コケッコー』、みんな忘れているかもしれないけれど世界はこんなにも音と光に満ちているんだ。

これほど幸せに包まれる映画は久しぶりだ。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

       No.99  『天然コケッコー』
          監督: 山下敦弘  公開:2007年7月
       出演: 夏帆  岡田将生 他

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■あらすじ■
島根の田舎の小中学校全生徒6名の分校に東京から主人公の右田そよと同じ学年の中二の男子生徒が転校してくる。その小さな分校と小さな町での卒業までの日々を描く。

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■純朴な、かわいらしい女の子。

その子とキスをしたくて仕方がない男の子。

恥ずかしくてむずがゆく、居心地が悪くなるような、中学生の恋の物語、、、ではない。

穏やかな自然とゆったりとした人たちと分校の家族のような仲間のなかで、そよが日々を過ごしていく。ただ、それだけの物語りである。

カットに派手な演出はなく、BGMすらほとんどない。

けれど、退屈することはなく、すーっと引き付けられ、見入ってしまう。

不思議な映画だ。

■いや、むしろ、映像の演出や音楽がないことがこの映画の力強さなのかもしれない。

そよそよと流れる風。

あふれる光。

映画の音楽は、状況や心情を煽るように映像に重ねられ、観るものの心を動かすものだが、それらを一切封印して電源を落として目をつぶり、すーっと一息ついて耳をすます。

その時に広がる光景こそが、この映画のすべてなのだと思う。

田舎の日常を描いたほのぼのとした映画の顔をしているが、実はきわめて革新的な作品だ。

それも革新のための革新ではなく、みんな忘れているかもしれないけれど世界はこんな音と光に満ちているんだという強いメッセージを、そよのやさしいまなざしを使って控えめに、けれどしっかりとくりかえしくりかえし語り掛けてくる。

それにわたしは、すっかり、やられてしまったのである。

■序盤、分校の子供たちが山を抜けて海へと歩いて向かうシーン。

  
 耳に手を当ててみんさい、

 ほれ、山の音がごーごー聞こえるけえ。

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そこに、このメッセージのヒントが提示されている。

そしてさらに、そよが修学旅行で東京へ行って、人混みにあてられ、巨大な建造物群に圧倒されながらも、耳に手をあててみると、同じようにごーごーと音が聞こえてくる。

もしかしたら、ここでもやっていけるかの知れない。

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こういう映画を見て、ああ田舎はいいなあ、なんてつい思ってしまうのだけれども、そうではなくて、新宿の喧騒の中にいても、すーっと一息いれて、耳を澄ませてみれば、そこにも心を満たしてくれる音や光にあふれているのだ。

この世にあふれる素晴らしいものを聞いていないのは、見ていないのは自分自身だ、ということだ。

■終盤、卒業間際になって、そよは思う。

  
もうすぐ消えてなくなってしまうとおもやぁ、

些細なことが急に輝いて見えてきてしまう。

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■いままで自分を包んでいた幸せの一つ一つが輝きを放ち、いとおしさが増してくる瞬間。それは中学生から高校生になる、そこで失われてしまうものがあってそれが突きつけられる卒業、という場面にシンクロして最高のシーンを作り上げる。

卒業おめでとうのキスをして、ひとり教室に残る、そよ。

そして思い出のつまった教室の備品のひとつひとつに指を触れていき、最後に黒板に向かってひと際思いのこもったキスをする。

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■そよが去ったあと、カメラはゆっくりと教室をまわっていき、窓辺の暖かい光の差し込むカーテンの裾からはさくらの花びらがやわらかく吹き込んでくる。

なつかしさとやさしさとあたたかさに包まれる幸福感。

音楽の一切を廃した映像の強さはこれほどのものなのか。

今まで見たどんな芸術映画よりも、今まで見たどんなドラマチックな映画よりも、こころをに何かを満たしてくれるシーンだと思う。

いい映画を拾ったな、と、今、とても幸せな気分なのである。

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                      <2017.04.16 記>

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【DVD】天然コケッコー
   

【原作漫画】『天然コケッコー』 くらもちふさこ
読んでませんが高校進学以降の話もあるようです。
 

■STAFF■
監督:山下敦弘
脚本:渡辺あや
原作:『天然コケッコー』 くらもちふさこ
撮影:近藤龍人
美術:金勝浩一
照明:藤井勇
録音:小川武
編集:宮島竜治
音楽:Rei harakami
主題歌:くるり「言葉はさんかく こころは四角」
音楽プロデュース:安井輝
音響効果:中村佳央
漫画技術指導:あべまやこ
企画監修:鳥嶋和彦
企画:前田直典
プロデューサー:小川真司、根岸洋之


■CAST■
右田そよ:夏帆
大沢広海:岡田将生
お母ちゃん(右田以東子):夏川結衣
お父ちゃん(右田一将):佐藤浩市
田浦伊吹:柳英里沙
山辺篤子:藤村聖子
右田浩太朗:森下翔梧
田浦カツ代:本間るい
田浦早知子:宮澤砂耶
篤子父:斉藤暁
シゲちゃん:廣末哲万
松田先生:黒田大輔
美都子(大沢君のお母ちゃん):大内まり
田浦のじっちゃん:田代忠雄
右田家の祖母:二宮弘子
右田家の祖父:井原幹雄
篤子母:中村朱實
渡辺先生:渡辺香奈
岩崎先生:岩崎理恵

 

 

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2017年4月14日 (金)

■【社会】米軍、ISにMOAB投下。喧嘩上等、トランプ節炸裂。

米軍は13日、非核兵器では史上最大の爆弾とされる大規模爆風爆弾兵器(GBU-43/B Massive Ordnance Air Blast)、通称「MOAB(モアブ)」を、アフガニスタンのイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」施設に対し投下した。同爆弾の実戦使用は初めて。

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■MOABは長さ約9.1 m、重さ約9,800 kgの爆弾で、8,482 kgの炸薬があるという。デイジーカッターの後継で非核兵器としては現時点、史上最大の爆弾だ。

ナンガルハル州アチン地区にあるISのトンネル複合施設に対してMC130特殊作戦機から投下された。

ベトナム戦争で開発され、イラク戦争でも使われたデイジーカッターは「ひなげし(雑草)を刈るもの」という意味で、地上にあるものを薙ぎ払い地雷もない安全な平地を確保する爆弾である。

イラクで使用されたときは戦術核が使われたと誤認されたほどの威力を持っているという。デイジーカッターの炸薬重量は約5,700 kgだからMOABはその倍近い威力を持っているはずだ。

しかし地下施設への攻撃であれば地中貫通爆弾バンカーバスターの方が適切のような気がするが、トランプは派手さを選んだのであろうか。

■しかしまあ、シリアにトマホークを打ち込んだと思えば、ISにMOAB。

トランプのイケイケはとどまることを知らない。

15日の金日成生誕記念日直前に実施というところに意味があり、シリア爆撃が習近平との会談での圧力であったように、今回は明らかに金正恩への「何かあれば核施設にぶっこむぞ!」という恫喝である。

外交部を設定して対話の糸口を探るポーズを見せた金正恩であるが、そこに拳を振り上げて見せたわけである。

弱腰と言われたオバマでは到底考えられないやり方で、トランプの喧嘩上等は本物のようだ。

さて明日、金正恩がどう出るか。

今後の動きがさっぱり読めない。

                  <2017.04.14 記>

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2017年4月13日 (木)

■【社会】緊迫する北朝鮮、果たして15日に何が起きるか。

4月15日、金日成主席生誕105年のイベントがあり、なんらかの動きがあるのではという推測が強まっている。

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■15日には空母カールビンソンが到着、沖縄にはビンラディン暗殺に投入されたSEALsもいるようだ。

米中首脳会談、そのさなかのシリア爆撃。

トランプは「何をするかわからないエキセントリック」さを見せつけることで習近平に強烈な揺さぶりをかけている。

これを受けて中国は、次に核実験を行えば強い制裁を実施する。と北朝鮮に通告。

北朝鮮は決して戦争を望んでいるわけではない、この中国の示唆にしたがって、しばらくおとなしくして、結局なあなあのまま、事態は収束するのだろう。

■なんていう希望的観測は、今回も通じるのだろうか。

金正男暗殺の背景は何か。

と考えると、金正恩には体制を破壊される動きについてきわめて強い危機感があるのではないか、という気がしてくる。

どうも、今までの「狂ったようにみえて実は狡猾」な感じから逸脱している、そんな空気が漂っているのだ。

■4月15日、或いはそのあとのイベントで核実験やミサイル発射などをすれば、中国は追加の本格的な制裁を行うだろう。

抜け穴だらけの制裁はトランプは許さない。

そのためのシリア爆撃だし、カールビンソンの派遣だ。

しかし制裁に追い詰められた北朝鮮は、ハルノートで追い詰められたかつての日本と比べるのは適切ではないだろうが、実力行使に出る可能性は飛躍的に上がるだろう。

軍事行動を抑制するための制裁が、逆に軍事行動を促すという逃げ場のない最悪の事態になりかねない。

だから朝鮮半島の安定、日本の安全保障上、悔しいけれど本格的な制裁はむしろ逆効果なのだ。

北朝鮮がこの状況で核実験なり、巡航ミサイル発射なりを行えば、むしろ中国とアメリカの方が難しい対応を迫られることになる。

そこまで読んだうえで金正恩がどう出るか。

トランプの「エキセントリック」をフェイクとみるかどうか。

まずは4月15日、固唾をのんで見守ろう。

                <2017,04.13 記>

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